第四章 クリスマスパーティ
第四章
文化祭が無事に終わり、期末テストが終わった瞬間、学校中はクリスマスムードに包まれていた。
「今年のクリスマスは、日曜日だな」
「そうですね、ところでクリスマスのことですが――」
「綾女は、どんな服で来るンだ」
行き成り水仙の言葉を遮り、割り込んで来た秋羅を凄い形相で睨んでいる水仙に気づかないまま話を進めた。
「はぁ、何言っているのか分からないけど、今年のクリスマスは寮で大人しく寝る」
「お前こそ何言っているンだ。クリスマスの日は、強制参加だぞ」
「何が」
「知ら――」
「秋羅君は、少し黙っていてください」
やり返した水仙は、どす黒い笑顔を秋羅に向け、その迫力に負けた秋羅は黙り水仙は、綾女の方を向いて話し出した。
「実は、雨高ではクリスマスの日は、クリスマスパーティー、と言う行事があります。その行事は強制参加です。そして、参加しなかった生徒は留年決定です。なので、出席するのがいいと思います。ココまでで、質問とかありますか」
「うんん。大丈夫」
「それでは、次は服装のことです。このことは、後から配布される紙にも書いてありますが、一応念のため言っときますね。服装は主に、正装です。普通に私服でも別に良いですが、浮きますよ。会場に居る殆ど……全員正装していますから、目立ちたいのなら服装でも構いませんが、普通は正装です。次は、正装している一番の理由は、踊るからです。ワルツとかタンゴとか踊れますか」
「うーん……タンゴは無理だけど、ワルツぐらいは踊れるよ」
「それなら大丈夫ですね。会場では、踊りますから、エスコートできるように頑張ってくださいね」
話が終わった頃を見計らい、秋羅は水仙の反応を窺いながら綾女に話しかけた。
「ところで、綾女はタキシード持っているのか」
「……実家には多分あると思うけど、今は持ってない」
「それなら、俺様達と帰りに買っていかないか。俺様と椿と綾女の三人で」
「別に、俺は去年のがあるからいら――」
「あれは、うちが嫌いだからもう二度と着ないで、って言いましたよね。去年」
無表情で椿を見た水仙を横に、綾女はふと疑問に思ったことを、秋羅に聞いた。
「どんな、タキシード姿だったんだ」
「あぁ、それは、普通、って言えば普通だろ。ブランド物だしな」
「ブッ、ブランド」
「そんなに驚くことか。まぁ、そンなことは置いといて、そのタキシードの色が、水仙はお気に召さなかったらしい。その色は……」
焦らす様に、数秒間を空けて話した。
「白色だぜ。白色のタキシード。あれ着た時は、どっかの女の婿になるんじゃないかと思ったぜ」
「白……」
「しかも、案外、黒色よりも白色の方が似合ってた、と言う事実が発覚したってわけよ」
「それなら、何で水仙はあんなに怒ってんだよ」
「あぁ、その理由は、水仙の嫌いな色だからだよ。水仙の嫌いな色それが、白。あぁ、後透明も嫌いだったっけ。まぁ、色がない色が嫌いな訳さ。だから、綾女も水仙と遊ぶ時は、色つきの服で遊べよ。それか、ワンポイントの服」
「あっ、あぁ。わかった」
秋羅が持っているのは、白色のタキシードで、秋羅達と買いに行く時も、白色のタキシードを買う積もりだった綾女。
「しかも、その時の水仙の態度が面白いの何の。椿の半径一メートルには絶対近付かなかったし、話しかけようともしなかったし、見てるこっちが面白かったっての」
実際、その場を面白いと思ったのは秋羅だけで、他の生徒、先生は気が気じゃなく、去年のクリスマスパーティーで、良い思い出がまったくと言ってない。
「でもやっぱり、椿はタキシード何だな」
「椿だけじゃなくて、水仙もな。でも、既定されてあるモノは、しっかりと守ってるぞ」
「例えば」
「トイレ、体育の授業、健康診断、後風呂などだな」
既定されていることを破ったら、椿は女と見なされ、男装することを禁止させられるのだった。水仙もそう。だから、椿と水仙はしっかりと既定されていることは守っている。
「ところで、アレは一体何時終わるんだ」
「助け舟でも出しに行くか」
一方的に言われている椿に、助け舟を出したおかげで何とかその話は終わった。その人放課後に皆で町に出て、クリスマスパーティーの服を買いに行った。
「やっぱり、俺にはコレは似合わない」
「そんなことねぇよ」
クリスマスパーティー本番。男子と女子は別れて着替えている最中。椿は女子の方で、水仙は男子の方で着替えているから、若干、着替えずらい人も居るのであった。
「コレじゃ、椿が霞むな」
「ん。何か言ったか」
「いや、嫌なにも」
小声で言った秋羅の声は、綾女には届かなかったが、水仙にはしっかりと聞こえていた。
「それじゃ、そろそろ行くか。こんなむさ苦しい所に、長居する理由もないしな」
「そうですね。それに、椿くんも待っていると思いますしね」
「てか、水仙着替えるの早いな」
「秋羅君、その発言今度したら、日本海に埋めますからね」
満面な顔で言っても、目が笑っていなかった。
「まっ、まぁ。立ち話もなんだから、もうそろそろ行こうか」
気を利かせた綾女は、二人の肩を押しながら着替えていた部屋を出て行った。体育館の前は、大勢の人で一杯であった。体育館の開会は、午後八時である。今は七時五十分で、後十分で体育館が開かれるので、皆体育館に集まっていた。綾女達は、椿を探していたが体育館の前は、人で一杯なので人一人見つけるのは不可能であった。
「うっわぁ。やっぱり、もう一杯だな」
「去年は、終わり三十分前に来ましたからね。こんなに多いとは、予想外です」
「ところで、椿とは何処で待ち合わせしているんだ」
「……」
「……」
二人とも、綾女の質問したとたん目を合わせないように、辺りを見回した。その行動に、待ち合わせはしていない、と気が付いた綾女は、ため息を一つついて別の質問を投げつけた。
「それじゃ、どうやって椿と会う積もりだったの」
「こう、バッタリ会っちゃたぁ、見たいな乗りで」
その言葉が何故かイラッとした綾女は、秋羅の鳩尾目掛けて殴った。
「そんなこと、ある訳無いじゃん」
「じょっ、冗談だってば。マジ、すみませんでした」
「……」
冷たい目線を、秋羅に注いだ綾女は無言のまま立っていた。見ていられなくなった水仙は、話の話題を変えた。
「えっと、体育館に入ってから探したらどうですか。椿君も、きっと体育館に入って絡みつけようと思いますし」
「そうだね。それじゃ、入ろうか」
数分後、学校全体に放送が流れた。
「体育館がただ今から、開館致しますので、前の人を押さずにお入り下さい。繰り返します――」
放送が流れ出し、体育館の扉が開いた。人が次々と体育館に吸い込まれていくかのようにして入っていった。綾女達は、人の波に飲まれ、全員バラバラになってしまった。
「これから、どうするかな……」
一応、体育館の入り口付近で立ち止まっていた綾女に、二つの影がやって来た。目線を自分の足元から、徐々に上げていくと……
「ねぇ、天月君。そんな場所に居ないで、あっちに行かない」
同学年だと思われる女子生徒達が、綾女に近付いて来た。
「ありがとう。でも――」
「誰か待っている人でも居るの」
言葉を遮った一人の女子生徒は、綾女の方に身を乗り出した。
「待っているって言うか……」
一歩下がり、女子生徒との距離を開け、最後の語尾が曖昧だったのを見逃さなかった二人は、綾女の言葉を聞かずに、中央に集まっている人達の中に入っていった。その頃秋羅は……
「たっく、やっぱり人ごみの中は嫌いだ」
そんなことを言ってても、用意されていた料理を両手で持ちながら、バクバクと食べている。
「まぁ、綾女と離れたのは、少し寂しいが嬉しい誤算でもあるな」
独り言のようにポツリ、とか細い声で言った。つまり、今の綾女の格好では、自分は霞む、と思っての発言だ。モブキャラには成りたくない、と誰しもが思う。近くに綾女と二人の女子生徒が居るにも気づかずに食べ物を、無我夢中に食べ出した。その頃水仙は……
「やっぱり、こうなりましたか」
こうなることを予測していた水仙は、秘密のポケットからケータイ電話を取り出すと、ある番号に電話を掛けた。
「……あっ、もしもし、椿君ですか」
数コールで、電話に出た相手は、椿だった。
「実は、他の二人とやっぱり逸れてしまいましたから、体育館前の入り口で待ち合わせでいいです」
それだけ言うと、早々に電話を切り待ち合わせした場所に向おうと、足を進めた。
「水仙。何してるの、今会長があいさつしてるよ」
「ごめんなさい、今ちょっと急いでて、会長のあいさつは、別に良いです」
「えぇ、もったいない。ところで、椿と一緒じゃないの」
「あっ、それアタシも思った」
次々と水仙の周りに人が集まり出した。会長のあいさつが終わったとたん、二つの大きな円が出来た。その中心に居る人物の一人が水仙で、もう一つの円の中心に居る人物が綾女であった。そのお陰で、料理コーナーはガラガラだった。その中、綾女だけがもくもくと料理を食べ続けていた。
「あの、ちょっと通して貰えますか」
「ちょっと待ってよ、いつも、いつも何かしら理由を付けては逃げられていたけど、今日はそういかないわよ。何たって今日は、無礼講なんだから。洗いざらい全部話してもらうからね」
「いっ、いやあああ」
日ごろから思っていた、疑問をココぞとばかしに水仙に聞こうと思う人達の厚い友情に結ばれている人達に根掘り葉掘り聞かれたのは、言うまでも無い。その頃椿は……
「遅っそい、あれから三十分も経ってるぞ」
体育館前の入り口に凭れ掛かって、腕時計を見ながらため息をついた。今頃、水仙は根掘り葉掘り聞かれている最中。
「水仙が、電話が来るまで体育簡易は近付くな、って言ったのに……はぁ、いったい中で何やってんだよ」
ぶつくさと文句を言っている椿だが、水仙との約束は決して破ろうとはせずに待っていた。だがしかし、クリスマスは、冬真っ最中でタキシード姿で三十分以上居るのは、中々大変である。
「……」
手を擦ったり、腕を擦ったり、息で手を温めたりしているが、すべて限界に達していた。
「早く来いよ……水仙」
か細い声で、涙が出そうなのを必死に止めていたら、目絵から足音が聞こえて来た。まだその時は、違和感にまったく気づかなかった。
「水仙」
嬉しさ余りに、水仙らしき人影に駆け寄ろうとするが、足が麻痺って居るためうまく動かない。でも、ふと思った。体育館は自分の後ろにある、と言うことは水仙は後ろから来るはず。それなら、今目の前に来る人物は誰だ。
「さすがに、この寒い中その素が手で居るのも限界でしょ」
「誰だ……お前は、ココの生徒じゃないだろ」
「はい、コレ。手ぐらいは、暖かくしなさい」
目の前に来た人物は、椿の冷たくなった手に黒色の手袋を付けさせた。
「お前、まさか……」
「あたしからの、クリスマスプレゼント。大切に使いなさいよ……あっ、後。中に入って、水仙を助けてあげなさい。きっと、質問攻めで困っているはずだから」
体育館の入り口を開け、椿に行くように手で合図した。その合図に答えるように、体育館の中に走り去った。
「やれやれ、世話の焼ける子達だね。でも、来年は、また別の楽しみがあるんだよね。来年のクリスマスパーティーは、出来れば遣りたくないね」
「何しに来たの、学園長」
声が聞こえて来た方向に振り向くと、仁王立ちしている百合が居た。
「文化祭一位おめでとう。さすが、副会長」
「もう一度聞く、何しに来た」
「そう、怖い顔しないでよ。今日は、もう帰るから何もしない。その代わり、全校生徒に伝言よろしく……良い」
「……わかった。伝言の内容は」
不敵な笑みを浮かべながら、元来た道を戻り出した。
「メリークリスマス。良いお年を」
片手を振りながら百合の前から姿を消した。蓮華の姿が消えても百合の怒りは消えることは無かった。数分後、気を取り直して体育館の中に入り、クリスマスパーティーが終わる最後に、蓮華が帰り際に言った言葉を全校生徒に言い。体育館の中は、また騒がしくなったが、蓮華に会った椿はあれから浮かない顔をしていた。こうして、今年のクリスマスパーティーが終わった。