第六話・加速する現実感Ⅳ
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「ん?何やってんだあいつ。」
「女性に捕まってますね。」
クロたち三人がカインズのあとを追って少し遅れてゲートにたどり着くと、そこではカインズが一組のパーティー、そのリーダーらしき人物に腕を捕まれている姿があった。女性はライトブラウンの髪をショートボブにしていた。瞳は蒼く、眼鏡をかけている。腰には片手用のロングソードを差し、銀の軽鎧を装備していた。
何やらカインズとその女性は互いに言い争っており、女性のパーティーメンバーたちは女性を援護しているように見えた。明らかにカインズが不利な状況のようだ。
「おおクロちゃん!いいところに来た!!」
カインズが少し離れたところにいたクロたちの存在に気がつき、そう声をかけてきた。クロは面倒な予感しかしなかったので近づきたくなかったのだが、見つかっては仕方がないとしぶしぶカインズのもとへと歩いていった。
「何やってんのカインズ。」
「助けてくれ!こいつらが俺をボス攻略に連れていこうとするんだ!!」
カインズはそういって自らの腕をつかむ女性の方を指差した。クロはそこでやっとカインズの腕をつかんでいる女性のことを思い出した。
「あぁ、クレアさん。久しぶりだね。」
「そうですね。久しぶりついでにこのバカマスターを連れていくのを手伝ってくれませんか?」
クレアと呼ばれた女性は、嫌々と逃げようとするカインズの腕をつかんでぐいぐいと引っ張っていた。
このクレアという女性は、カインズのギルド、魔導騎士団のサブマスターなのである。つまり、ギルド内で二番目に偉い人なのだ。
「HA・NA・SE☆、俺は今からロマンを求めて旅に出るんだぁ!!」
「なに訳のわからないことを言ってるんですかあなたは。ロマンと攻略、どっちが大切だと思ってるんですか。仮にも攻略ギルドのギルドマスターが。」
クレアがカインズに対してそういうと、カインズはキョトンとした顔をした。
「なにいってんの?ロマンの方が大事に決まってんじゃん。」
ブチンッと、なにかが切れるような音がした。音のもとはカインズをつかんでいるクレアの方からだった。
「……へぇ、そう。そんなに死にたかったのねカインズ。」
「おいクレア素が出てるぞ素が。」
ギリッと、カインズの腕を掴むクレアの手に力が入る。その間に、クレアの右腕は腰の剣の方にのびていた。
「おい待てクレア、話せばわかる。うん、話すことはとても重要だと思うんだ。」
「……?…死体がどうやって喋るの?」
「いやそれは著作権的にもまずっ、ぐぎゃあぁああああっ!!??」
必死にクレアをなだめようとするカインズだったが、クレアはそれを無視して鞘にはいったままの剣をおもいきり振り抜いた。カインズの股間に向かって。
クロや、クレアの後ろにいる男性メンバーは同様に青い顔をして自分の股を押さえていた。いくら安全圏でダメージがないといっても、精神的にくるものがあるのだろう。現にカインズは地面にうずくまってピクピクしている。
「ではこれは回収させていただきますね。お騒がせしました。」
クレアが何事もなかったかのように、うずくまったカインズを引っ張ってズルズルと引きずっていこうとした。クロはそれを黙って眺めている。
「まっ、待ってくれクレア。一つだけ、やり残したことがある。」
「……なんでしょうか?」
クレアは掴んだ手を話すことなく聞き返した。カインズはうずくまったまま顔だけをクロの方に向けている。クロは何やら嫌な予感を感じ、咄嗟に後ろに下がろうとした。
しかし、その時にはもうすでにガシッとカインズの手がクロの足を掴んでいた。驚愕の表情を浮かべるクロに対し、カインズがニヤリと笑う。
「逝くならお前も道ずれじゃあぁああああっ!!!!」
「ふざけんなぁああああっ!?!?」
クロは足を捕まれてバランスを崩し、そのまま地面に倒れ込む。カインズはそれを見てクレアに合図を送ると、クレアが二人を掴んだまま歩き出した。当然、捕まれているカインズたちはズルズルと引きずられている。クロはその間にも必死で立とうとしているのだが、カインズが全力でそれを阻止してくるためそれもままならない。
「ちょっと待ってくださいよぅ!!迷宮探索の話はどうなっちゃうんですかっ!?」
「……約束は守るべき。」
「そんなの俺に言わないでよ!?」
ワイスとシスが、引きずられていくクロに向かってそんなことをいう。しかし、クロはカインズに捕まれていてそれどころではない。
「おいカインズ!お前なに親友を道ずれにしようとしてんだよ!!」
「それをいったらテメェなに親友を見捨てようとしてんだっ!!自分だけ楽をしようったってそうはいかねぇぞっ!!絶対にテメェも働かせてやる!!」
クロとカインズはそんな醜い争いを繰り広げていた。ただ、容姿が容姿なため、恐らく普通のプレイヤーならカインズの方につくであろうが。
「クロさん!!そんなにその女がいいんですか!?」
「何故そうなる!?」
ワイスが何やらよくわからないことを言い出し、クロを混乱の渦に落としていく。さらに、そこにシスも続いた。
「……変態。」
「なにゆえ!?」
ぼろくそに言われるクロは、その間もクレアの手により引きずられている。
「……はぁ、仕方ない。今回はなかったことにする。かわりに、今度私たちのいうことを一つだけ聞いてもらう。いい?」
「そんなんでいいのか?それなら全然構わないが。いてっ、小石が当たるっ!」
「約束ですよクロさん!!」
ワイスとシスはそういうと、諦めたのかもう追ってこなかった。クロもカインズも、流石にもう諦めたのか大人しく引きずられるがままにされている。二人は結局、攻略会議が行われる神々の黄昏ギルドホームまで引きずられ、公衆の面前に醜態をさらしたのであった。クロに限って言えばさらに絵面が残念であったのはいうまでもない。
(くそ、せっかくうまくサボれたと思ったのによぉ。)
(心なしか皆の視線が痛い、場違いを見る目だなあれは。はぁ、早く帰りたいよ。)
会議が始まり、参加している面子の半分ほどはカインズのとなりに座るクロに懐疑的な視線を投げ掛けていたが、司会進行役であるキースがそのまま進めたため今のところなにもなかった。
一見すれば不機嫌ながらも参加している二人であるが、実際のところ会議の話など一切耳に入っておらず、攻略に関していっても今のところどうでもいいという感情が強く出ているところだった。
「・・・ーーーという感じでいこうと思う。どうだろうか?」
「異存はない。」
「異議なし!」
「いいんじゃない?」
「……承知。」
何やら会議が進展したようで、キースの言葉に各ギルドマスター並びの面々が次々と肯定の意を示していく。当然、全く聞いていなかったカインズとクロにはなんのことだかさっぱりなのだが、二人は周りの雰囲気に合わせてそれに賛同した。 「よかった、それじゃあ今回のメインダメージディーラーはカインズたちの魔導騎士団に決定!よろしくお願いするよ。」
キースの声が会議室に響いた。メインダメージディーラー、つまり最前列の火力担当である。ボス攻略において、もっとも危険であり攻撃の要でもあるポジションだった。
カインズは暫し状況が飲み込めず、頭を再起動して今の現状を把握した。
「なんっ……だと?」
「ぷっ、ぶふっ……あははっやばい笑いが止まらん。」
クロは呆然とするカインズを見て笑いをこらえようとしたが、堪えきれずに腹を抱えている。
「カインズ。」
「あっ?」
「ざまぁ(笑)」
クロはカインズに向けて嫌みったらしい笑みを浮かべてそういった。当然キレかけたカインズであったが、キースの一言がそれを塗りつぶした。
「あっ、クロはカインズのところに入ってもらうよ。カインズとは仲いいみたいだしね。」
「…………。」
キースの言葉に、まるで石化の呪いをかけられたかのように動かなくなったクロ。その隣では、先程とは逆でカインズが笑転げていた。
「だぁーっはっは!!ざまぁねぇな!はっはっはっはっ!!」
「くそっ、こうなったらカインズの影に隠れてサボってやる!」
「横が広すぎて隠れきれねーよバァーカッ!!」
二人が口汚く罵りあっているうちに、会議が終わった他の面々は次々と会議室をあとにしている。まさに我関せずといった感じだ。
「一時に鬼族の迷宮のボス部屋前に集合だから、しっかり準備してくるように。いいね?」
キースは二人にそれだけいうと自分も会議室を出ていった。会議室に二人だけ残されたクロとカインズは、罵りあいをやめて椅子に腰かけた。
「はぁ、面倒なことになったぜ。」
「全くだ。俺たちは自業自得だからいいけど、カインズのギルメンには迷惑をかけることになるなぁ。」
クロとカインズは同時に深くため息をつくと、椅子の背もたれに体をあずけた。ぎしっと椅子が軋みながらも体を受け止めてくれる。
「このあとまたクレアに怒られるんだろうなぁ。」
「俺は怒ってくれる人がいないよ。」
二人は何度目かのため息をついた。もしため息で幸せが逃げていくとしたら、きっとこの二人に幸せは二度と来ないだろう。
「俺ボス攻略なんていつぶりだろう。二十階層辺りから参加してないよ。はぁ、これ絶対足引っ張ってさらに皆からの印象悪くするやつだよ。」
「気にすんな、お前の印象はこれ以上落ちん。」
そういわれたクロだが、言い返す気力もないのか返ってるのはため息ばかりだった。
結局、このあと二人動き出しのは今から一時間後のことであった。
次回は対にボス戦闘!!お楽しみに!