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第二話・トゥルリス

相変わらず駄文で短いです。




『諸君、デスゲームを開始しよう。』

その言葉が辺りに静寂を生んだ。心地よいものではなく、耳にいたい静寂だ。学校で受けを狙ったが滑ってしまった時のような、そんな静寂。辺りにいるプレイヤーは、咄嗟にこの声が何をいっているのか理解できていなかったのだ。

『そう長くは語らないので心して聞いてほしい。まずログアウトすることは不可能だ。また、外部からの強制ログアウトも不可能。それらを行使しようとした場合、諸君らは現実世界からも永久退場していただくことになる。そして、先程もいった通りこの世界はデスゲームとなった。即ち、こちらでの死が現実世界の死と直結する。復活系アイテムの類いは一切存在しないので心得てほしい。この世界からの解放条件はただ一つ、この《トゥルリス》第百階層に存在するボスモンスターを撃破しこのゲームをクリアすることだ。諸君らの健闘を期待している。』

声はそれをきに聞こえなくなり、空は再び一瞬でもとの蒼に戻っていた。しかし、今だ現状をのみ込めない人々はそれを気にする余裕もなく、ただ呆然と立ち尽くした。

「……おいおい嘘だろ。勘弁してくれ。」

クロは頭を抱えて深くため息をつくと、いそいそと広場を抜け出した。まだほとんどのプレイヤーが動いていないため、今なら効率的に動けると判断したからだ。

(唯が心配ではあるが、あいつの性格上あまり無茶はしないだろう。まず生き残ることを最優先に考えてくれるはず。なら、俺は俺の心配をしないとな。)

クロはまず街のなかを走り回り宿と武器屋等を探すことにした。宿の方はすぐに見つかったのだが、武器屋防具屋アイテム屋等が見つからない。クロはとりあえず大通りに出て探すことにした。


程なくして、大通りの脇に剣と盾が交差した看板を掲げている店を見つけることができた。クロは早速その店のなかを確認するために店の中にはいった。


店のなかはシンプルな作りで、壁などには剣やら槍やら盾やらが掛けて並べてあった。どうやら武器屋兼防具屋のようだ。クロは武器も防具も売っていることを確認すると、店を出てアイテム屋を探しにいく。


アイテム屋は武具店の近くにあったためすぐに見つけることができた。中にはいると、雑貨屋のように至るところにアイテムが並べられていた。


クロはそれらには目も向けず、まっすぐにレジの方へ歩いていった。レジの前には壮年の男がたっている。

「らっしゃい。何がほしいんだい?」

「ポーション、初級の奴をこれで買えるだけ欲しい。。」

「一本100Gだね。おっ、十本も買ってくれるのかい、太っ腹だねアンちゃん。」

クロは初期配布金である1000Gをすべて使い、ポーションをアイテムストレージにしまった。クロはポーションを受けとるや否やすぐに店を出て街の外に向かう。デスゲームだと宣言されておきながらすぐにレベル上げをと動くことができるクロの精神力はかなりのものだろう。


クロはそのまま街の外に出ると、そのまま草原のなかを歩いていく。出るときに門に名前が書いてあったので気がついたが、この街は『始まりの街』というらしい。クロはなんともそのまんまだな、と心の中で苦笑していた。

「さて、出てきたはいいけど、何が出るのか知らないんだよね。」

クロはそうぼやきながら草原を歩いていく。お腹が歩くたびにたぷたぷと揺れるのだが、クロは特に気にした様子もない。


しばらく歩いていると、草むらの影からなにかがクロに向けて飛びかかってきた。

「うわっ!?」

クロは咄嗟に刀を鞘ごと腰から引き抜くと、それを縦に構えて飛びかかってきた影から身を守った。


影は刀にぶつかりべちゃっと水っぽい音をたててそのまま地面に落ちた。

(……べちゃ?)

クロは刀を下ろすと、たった今刀にぶつかり地面に落ちたモンスターの方に目をやる。そこには半透明の緑の液体状のモンスターがいた。

「……スライムかよ。」

クロはスライムが動き出す前に刀を抜くと、スライムの真上から刀で突き刺した。刺されたスライムは、一瞬体(?)をビクッと震わせたかと思うと、そのままポリゴンの欠片となって消えていった。


クロは刀を一振りすると、そのまま鞘に戻した。

「……これがこの世界での死。……なんというか、あっけなさ過ぎる。俺が死ぬときも、きっとこれくらいあっけないんだろうなぁ。まぁ、それは悪くないな。」

クロは頭をがしがしとかきながら、なんともいえない表情でそう呟いていた。


クロはその後、しばらくの間草原付近でレベリングを続け、日が落ちてきた辺りで街に戻ることにした。


この世界にも一日が存在しているようで、現実と変わらない時間で日が動いていた。クロが街に戻っている道中には、既に大勢のプレイヤーが出てきていたが、さすがにスライム相手に死ぬやつはいそうになかった。






程なくして街に帰ってきたクロは、あらかじめ見つけておいた宿に向かって歩いていった。門からは少し離れているが、それは仕方ないだろう。


クロが歩いていると、前方の少し離れたところから一人の女性プレイヤーが歩いてきた。クロも道の都合上その女性の方に歩いていっているのだが、それは仕方ないことだろう。


クロはその女性の方に目を向けて、驚いて足を止めてしまった。確かにその女性はかなりのも美形であったが、クロが驚いたのはそこじゃない。そう、その女性は現実の唯華とそっくりだったのだ。

(唯?……容姿をいじってないのか。まぁ、この姿じゃ俺が気づかれることはまずないが。)

クロは唯華に対して必要以上に接触するつもりがなかった。自分が碌人だと信じてもらえるとも思っていなかったからだ。だが、ここで唯華は意外な反応を見せた。


クロと唯華がすれ違う瞬間、唯華はクロの方を向いて足を止めた。そして、恐る恐るといったように口を開いたのだ。

「……碌人?」

「!?」

唯華に自分の名前を呼ばれ、クロはつい肩をはね上がらせてしまった。そのクロの行動で確信が持てたのか、唯華はクロの方にしっかりと向き直ってその顔を覗きこんだ。

「やっぱり!やっぱり碌人だ!」

「いや、えっと……その。」

「見た目?そんなの気にするわけないよ!碌人は碌人だもん!あぁ、突然デスゲームなんかになっちゃって心配したんだから!」

唯華はそういってクロに抱きついてきた。正直クロにとってはお腹が邪魔で仕方がないのだが、唯華はそんなことお構いなしだ。よほどクロに会えたのが嬉しいのか、クロに抱きついて離れようとしなかった。

「えっと、よくわかったな?」

「当然!」

唯華はこれでもかと言うくらいのドヤ顔をクロに見せつけた。


そのあと、暫くしてやっと唯華が落ち着いたので、お互いに近況報告をした。クロが職業上スキルの使えないバグ職を選んでしまっていることや、遊び半分でアバターを作ったこと、これからは脱出のため攻略に参加していくことなど。また、唯華はプレイヤーネームが《ユイ》であること。実はもうパーティーを組んでしまっていること。だからクロとパーティーを組むことはできないということなどを伝えあった。

「ごめんねクロ。パーティー組んで上げられなくてごめんね。」

「だから気にするなって。別に俺は大丈夫だからさぁ。」

ユイは涙目になりながらクロに謝っていた。先程からクロは何度も大丈夫だといっているが、どうにも心配なようだ。

「だって、バグ職にハズレ武器の刀なんて選んじゃったクロを一人にするなんて心配で。」

ユイの言葉がクロにグサッと突き刺さった。そう、なんと刀はハズレ武器だったのだ。何でそれがわかるのかというと、単純にβテスターからの情報らしい。かくいうユイも、実はそんなβテスターの一人だったらしく、クロを驚かせるために隠していたのだとか。今のパーティーメンバーもその時の仲間らしい。

「まぁなんとかやってくから、お前は自分の心配をしろよ?」

「……うん。」

クロはなんとかユイをなだめると、ユイを安心させるために頭を撫でた。かるく、髪をすくようにして撫でてやると、ユイは顔を綻ばせて頭を自分からクロの手にすりよせてきた。

「心配すんな、いざとなったら街に引きこもってやるからさ。」

「……うんっ。」

クロが冗談めかしてそう笑いながらいうと、ユイは安心したのかはにかみながら頷いた。

しばらくそこで無駄話をしていたのだが、クロの方もそろそろ宿の方に入らねばとその日はそこで解散することにした。


ユイと別れたクロはそのまますぐに宿に直行して、部屋を一室借りるとすぐさまベッドに飛び込んだ。生まれて初めての命のやり取り、まだまだ一方的なものですんでいるが、いずれは立場が逆転していくことになるのだろう。クロはそう考えてブルッと体を震わせた。しかし、その表情は非常に楽しそうだった。

「あぁ、俺、今生きてるよ。」

クロは楽しそうにそう呟くと、寝るためにモゾモゾと体勢を変えた。しかし、体は初めての出来事に今だ興奮しているようで、なかなか火照りが冷めてはいかなかった。クロはそんな体を無視して目を閉じゆっくりと息をする。だんだんと体が冷めていき、それにしたがって急速に睡魔が襲ってきた。


クロはそれに抗おうとはせず、それに身を任せてゆっくりと意識を閉ざしていった。






次回もお楽しみに!

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