第一話・sole ability・online《ソール アビリティ・オンライン》
お気に入りが三件!嬉しいなぁ、嬉しいなぁ。こんな文でつまらないお話でも読んでくれる人がいる!これほど素晴らしいことはない。
と、いうわけで第一話です。sole ability・online、略すとSAOですよね(笑)。決してソードアートではないので悪しからず。
『ーーーなお、今話題の注目作、sole ability・online!世界初のVRMMO作品にしてフルリンクシステム導入作であるこのゲームは、なんとかの天才学者『木崎 一真』自らがプロジェクトリーダーとして製作に携わったとのこと!現在すでに全品売り切れというビックリの事態です!ゲーム開始は十二時きっかり。これは今後の評価から目が話せませんーーー』
プツンッ
長い黒髪を首のうなじ辺りで縛って尻尾のように腰に流している細身の男が、手にもったリモコンの電源ボタンを指で押していた。男はリモコンをテレビの横に奥と、部屋のベッドの上に腰かけて隣に置いてあるあるものに目を向けた。
それは、先程テレビでやっていたsole ability・onlineのソフトとハードウェアであった。ソフトは小さいマイクロチップのようなもので、これをハード本体に差し込むことでプレイするらしい。ハードの方は頭につけて使うらしく、フルフェイスのヘルメットのような見た目をしていた。コンセントがついておりそれで電力を供給しているようだ。この機械を使って仮想現実というものを体験するらしい。フルリンクシステムという、人間の脳から発せられる信号を遮断し、その信号をゲーム内のアバターとリンクさせるシステムを使って。
男はそれらから視線をはずし、壁にかけてる時計の方に目をやった。壁掛け時計はその針で十時二十分を指していた。十二時まではまだ余裕がある。
「碌人~、唯ちゃん来てるわよぉ。」
男こと久賀沢碌人がぼおっとしていると、下の階から碌人を呼ぶ母の声が聞こえてきた。碌人はベッドの上から立ち上がると、部屋を出て玄関の方に向かう。
下に降りると、玄関を入ったところに一人の少女が立っていた。少し茶色がかった黒髪をセミロングにして、白いフリフリのついたキャミソールにデニムパンツをはいた可愛らしい少女だった。少々白い肌が碌人にとっては目に毒だったが、それは仕方ないだろう。
「あっ碌人!」
少女こと桐島唯華、通称『唯』は、碌人のことを見つけると満面の笑顔で声をかけた。そう、碌人と唯華は所謂幼馴染みなのである。
「どうしたの唯、休日とはいえこんな時間にうちに来るなんて。ご飯でも食べに来た?」
「えっと、ご飯も食べたいんだけど。今日は碌人に聞きたいことがあってきたの。」
「聞きたいこと?」
碌人は唯華の言葉に対して首をかしげた。それはこんな時間に直接訪ねなければならないものなのだろうか、と。
碌人はそう考えた後、ご飯のついでに聞きに来たのかな、と勝手なあたりをつけて自分で納得してしまった。
唯華は、碌人のそんな心情を知ってか知らずか話を続ける。
「あのね、すっごくどうでもいいことかもしれないんだけど、碌人はsole ability・onlineって知ってる?」
「……今そのゲームを知らない人の方が少ないんじゃないか?まぁ、もちろん知ってるよ。てか持ってる。」
碌人がそういうと、唯華は驚いたような顔をしてズイッと碌人に顔を近づけた。
「ほんとっ!?実はね、私も買っちゃったの!やったぁ、碌人も一緒だねっ!」
唯華はそういって嬉しそうに顔をほころばせた。対して碌人は、普段ゲームなどやらない幼馴染みがそんなものを買っていたことに少々驚いていた。
二人がそんなやり取りをしていると、リビングの方から母の声が飛んできた。
「碌人~、ご飯だから来なさい。唯ちゃんも食べてくわよね?」
母に訪ねられた唯華は、「はいっ。」と嬉しそうに答えると、靴を脱いでリビングの方へと歩いていった。その歩みに迷いはなく、まさにかって知ったる人の家といった感じだ。碌人もすぐにそのあとを追ってリビングへと入る。見れば、すでに唯華は席についていて、手を膝にのせておとなしく座っている。碌人はそのとなりの椅子に腰かけた。その際、唯華の肩がピクッと反応したのだが、碌人はそれに気がついていない。
「いただきます。」と、母を含めた三人が同士に手を合わせる。父は単身赴任アメリカにいってしまっている。アメリカで何やら研究を行っているそうだが、その研究が何なのかは母も知らないらしい。
碌人達は目の前のご飯をもくもくと食べ始め、少し無駄話を挟みながら食べていた。
「碌人、職業はもう決めた?」
先に食べ終わったのか、唯華は唐突にそう口にした。
「ん?んん~、あとでキャラメイキングの時に決めるよ。唯は?」
「ふふふっ、内緒!」
唯華は悪戯っぽく笑い唇に指を当ててそういった。
「そういわれると気になるけど、まぁいいや。ごちそうさま。」
碌人は両手を合わせて食器を重ねてシンクの中に置いてお湯を流した。唯華もそれに続いて洗い場で自身の使った食器を流していく。碌人はそんな唯華を尻目に、リビングの時計に目を向ける。十一時、そろそろ唯華も帰らないと間に合わないのではと碌人はおもった。唯華の家は碌人の家の向かいで、その気になればそれこそ一分もかからないのだが、念には念を入れておいて損はないのだ。
「唯、そろそろ帰らないと間に合わないぞ。」
「え?わぁっ、もうこんな時間!?あわわっ、おばさん、ごちそうさまでした!!」
碌人に言われ時計を見た唯は、バタバタと慌てながら母に挨拶するとそのまま玄関に向かおうとした。
「はいお粗末様、また来てね。それと、私のことは“義母さん”って呼んでもいいのよ?」
母が唯華に向かってそんなことをいった。碌人は何をバカなことをと思い唯華の方を向き、唯華に気にしなくていいと声をかけようと肩に手をおいた。が、唯華の反応がない。
「…………ぁぅぁぅ。」
回り込んで顔を覗き込むと、唯華は耳の先まで真っ赤にして頭から湯気を吹かしていた。プシュゥーと、唯の思考回路は音をたててショートしてしまっていたのだ。
「おぉーい、起きろぉ~。」
碌人はそんな唯華の肩に両手を置き、ゆっさゆっさと前後に揺らした。そのお陰か、唯華は段々と意識を回復させ、焦点のあっていなかった目のピントが合わさっていった。
「………あっ。」
「おぉ、やっと復活したか。」
碌人が唯華の顔を正面、しかも至近距離から見つめてそういった。肩には手をおいたままである。唯華はその事に気がつき、ボンッと赤かった顔をさらに赤くした。
「ろ、碌人ッ!?そ、そう、そういうのはちゃんとした手順っていうか順序ってものがぁーーー・・・」
「おいおい大丈夫?顔赤いけど、熱あるんじゃないの?」
碌人はそういって自分の右手を唯華の額にぴとッとあてた。唯華の顔はもう熟れたトマトのように真っ赤であった。
「う~ん、熱はなさそうなんだけど………」
「・・・ーーーあうあうあうあう。」
唯華はついに耐えきれなくなったのか、よくわからない声をあげ始めた。唯華は碌人からバッと離れると、脱兎のごとく玄関に走っていってしまった。
「お邪魔しました!!」
「おいっ、………どうしたんだ?あいつ。」
(我が息子ながら、末恐ろしい。)
リビングには呆然と立ち尽くす碌人と、心の中でそんなことを呟く母の二人だけが残された。
「まぁ、いいか。キャラメイキングしてこよ。」
碌人はそう呟くと、自分の部屋に向かって階段を上っていった。
部屋に戻ると、碌人は早速sole ability・onlineのハードであるヘルメット、《リンクギア》をセットした。コンセントを差し込み、電源を入れてマイクロチップを差し込んだ。準備を整えた碌人は、リンクギアを被ったままベッドに横たわった。リンクギアは声紋認証システムを搭載しているので、登録者がキーになる言葉を発することで初めてゲームとして起動する。
ベッドに横たわった碌人は、大きな期待と一抹の不安を胸に軽く深呼吸をした。
「……リンクスタート。」
碌人が言葉を口にすると、さっと視界が切り替わった。白っぽい空間に一台の端末がある。そこの上に半透明のウインドウが開いており、そこにはcharacter・makingの文字があった。どうやらここでキャラクターを製作するようだ。
「えっと、身長はそのままで、髪は黒の短めで………全部同じじゃつまらないか。ゲームなんだし、少しふざけてみるのもありかな。じゃ、体型を太っちょにしてみよう。おぉ、いい感じ。」
碌人はそんなことをいいながら端末を弄っていく。画面上のアバターが次々に姿を変えていった。
程なくしてキャラの外見を作り終え、次に進んだ。次は職業選択のようだった。
「職業、こんなに多いとは思わなかったなぁ。」
画面上には、軽く見積もっても五十はありそうなほどの量の職業がずらりと並んでいた。碌人はそれら全てに目を通しつつ、気になった職業の詳細を見て眺めていた。
「う~ん、なかなかこれだってのがないなぁ。」
碌人はなかなか気に入った職業を見つけることができず、なかなか職業を決めることができなかった。
「おっ?」
そんな碌人の手が、一つの職業の前で止まった。
・武人
スキルを一切使用することができないかわりに、高いステータス値とスキルポイントをステータスに追加換算する機能を持っている。
・装備可能な武器
・刀
・剣
・ナックル
・初期スキル
・なし
「……縛りプレイか、悪くないかも。」
碌人は武人の職業を選択して次に進んだ。次は武器選択のようだった。碌人は、これを迷うことなく刀を選択して次に進む。次はスキル選択のようだったが、『職業の特性によりスキルを選択できません。次に進みます。』というメッセージが現れ、強制的に次の画面に進んだ。そこでキャラメイキングは終了だった。
「……完了ッと。」
碌人が完了のボタンを押すと、碌人の体を電子の光が包み込み、その光が消えたときにはすでに久賀沢碌人としての体は存在していなかった。そこにいたのは丸々太った黒髪黒目の腰に刀を差した男だった。あごは脂肪に埋まり見えず、お腹は風船のようにパンパンだ。心なしか足も短いように見える。
「よし、今の俺は《クロ》だな。とりあえずそろそろサービス開始か、楽しみだなぁ。」
碌人は、まだサービス開始までは数分の時間を残しているにも関わらず、そわそわと落ち着きがなかった。
幾らかの時間がたち、ついにサービス開始の時刻をカウントダウンし始めた。碌人はウインドウの前に立つと、その画面に表示されている《ログイン》の文字に指を近づけていた。 「三……二……一っ。」
碌人はためらうことなくログインボタンを押した。すると再び視界が切り替わり、碌人の目に光が舞い込んだ。
「わぁぉ。」
碌人の口から感嘆の声が無意識に飛び出す。碌人はそれほどまでに目の前の光景に目を奪われていた。
碌人の視界には中世ヨーロッパのような石造りレンガ造りの明るい街並みが広がっていた。プレイヤーたちはその街の中央にある巨大な広場に集められているようだ。街並みは美しく、空はまるで本物のように綺麗で、そこに立ってるという感触がゲームだとは、碌人は全く思えなかった。
「すごい。」
碌人がそんな感動を噛み締めていると、その景色にある変化が起こった。唐突に、まるでペイントの塗りつぶしツールを使ったときのように、いきなり空が深紅に染まったのだ。
「っ!?なっ、なんだ?いきなりは心臓に悪いな。」
碌人は突然変わってしまった空を眺めてそう呟いた。辺りのプレイヤーたちもガヤガヤとうるさい。
碌人たちがそうやって空に意識を向けていると、その空から声が降ってきた。プレイヤーたち全員に届くように、大分大きめの音で。
『諸君、デスゲームを開始しよう。』
声の主は確かにそういった。他のプレイヤーたちにもしっかりそう聞こえていたのか、唖然として固まり動かない。まるでその一言で時が止まってしまったかのような、そんな静寂が街全体を包み込んだ。
今この瞬間、世界は檻と成り果てた。
次回もお楽しみに!