お客様名簿『大柳涼香』
拝啓 新緑の候、貴行ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。この度は、この小説の閲覧、誠にありがとうございます。
今回は私、狗のお話をさせていただきまs…
「なーんてねぇ、堅っ苦しくしてんなよっていう。」
まぁ、見てる全員俺様の事は初見だろうから自己紹介してやんよ。
俺様は存在としてはお前等と同じ人間、名前は狗、書いて字の如く狗、まさしく卑しいモノってことだ。ただ、俺様の飼い主はなかなかのレアだぜ?なんつったって死神ちゃんだかんなぁ。死神ちゃんに会うまではフッツーの人間だったんだけどな、出会ってからは死神ちゃんの足元を這いずり回る狗になったっつーわけだ。
今日も今日とて死神ちゃんが言うもんだから、某所にある高校に来てんだよ。場所は4階屋上、天気は曇天、風は強い、それからそこにいるのは本日の主役の大柳涼香。
とりあえずのまぁ、涼香っちゃんを遠目に眺めてタイミングを計る。まだその時じゃあ無いんでね。
暫くフェンス越しに下、確か打ちっぱなしコンクリになってるだろう場所を眺めてたけど、ひとつ長い息を肺から出すとポケットを弄り始めた。大体何が出てくるかはわかるんだよな。何なら会社名まで言えんぞ。出てくんのは剃刀、その業界の奴らには大好評頂いてる切れ味抜群のKAI印。刃の部分が長くとってあるは、ガードも取れてるわ、軽く肌になぞらえただけでパックリと中のお肉をコンニチワさせる道具(もち、本来の用途とはかけ離れてっけどな)。
ほれみろ、涼香っちゃんがポケットから抜いた手には想像した通りの桃色の柄。よぉーく見てみれば花のデザインまで入っている。KAI印さん、今日もアンタは大活躍だよ。そうしてるうちに涼香っちゃんは指先まで隠していた袖を捲りあげた。その白いマシュマロみたいな肌には紅い線が何本も、時に重なるように走っている。
さすがに、もうわかったよなぁ。涼香っちゃんは自傷癖患ってる。今回も声にならない声を上げながらそのマシュマロを紅く染めていく。パックリと割れた皮膚、紅の血液のその奥にあるグラニュー糖みたいに甘そうな真っ白な肉。
「うっまそー…」
思わず言葉が漏れてしまった。いけないいけない。
「!?だ、誰か居るの?」
慌てて袖を直して、辺りを見回しだした涼香っちゃん。おいおい、それじゃ袖に血が…付いてんな、血液は落としにくい汚れだから後で覚悟しときなよー。それはさておき、見つかっちまったもんは仕方ない。隠れていた物陰から出ていく。
「見つかっちゃったなぁ。ま、そろそろ頃合いだと思ってたんだから構いやしないけど。」
「貴女、いつから…」
「涼香っちゃんが飛び降り自殺計画立ててたとこから?あと、『貴女』じゃなくて『狗』って名前だから。」
言えば明らかに焦ったように目を見開かせる涼香っちゃん。
そう、涼香っちゃんが打ちっぱなしコンクリを見てたのは自殺の手段として使えるか算段をうっていたから。4階だとしてもぶつかる相手が打ちっぱなし。上手い事頭から決まれば一発受け身を取ろうと背中から入っても脊髄が駄目になるのはわかっている。どっちみち、涼香っちゃんは学校には来なくて良くなるって魂胆だろうな。
「…。コウさんには関係ないでしょ」
はい、出ました『関係ない』。もういい加減聞き飽きた台詞ベスト3に入っちゃうな。
「それが残念、そうでもないんだなぁ。一応同士ってやつだし。涼香っちゃんに死なれると面白くなくなる。」
「何よ、面白いとか…そんなことで私の生き方に口出ししないでよ!」
「あーらあら残念。つか、同士って言ったのはスルーかよ。」
こういう性質の奴らは死ぬのを止められると切れるんだよなぁ。どうせ死なねーくせにさぁ。ま、わかってるさ。嬉しいんだよな、自分が死のうとしてんの止めてもらえて、その人の意識の中に自分は確かに存在してるんだって確認できて。
つい緩んでしまう口端をそのままに、俺様の服の袖を一気にたくし上げた。狐色の肌にあるのは真っ白な線。それにかぶさる様に出来た青黒い痣。
「これ、」
「そうだよ。僕みたいな濃い肌だと完治しても再生した皮膚が焼けてないからずっと残るんだ。でも、同士ってのはわかったろう?」
「…この痣はどうしたのよ」
「切るのは痛みが鋭いからなぁ、俺は殴って痣つける方が好き。」
ケタケタ笑いながら言い放つ。さて、これで涼香っちゃんの耳は完全にこっちに向いた。あとは言葉を引き出せ。
「こう、とにかく細胞を殺すように。血管が切れるように。力の加減なんて必要ないよな、自分の身体だぜ?何したって問題ないだろ。俺様は死ぬまでこれを続けるわぁ」
「それ、痛くないの、そんなこと続けるくらいなら死んだ方が…」
「なぁ、今の言葉自分に聞いてみろよ。切り続けて痛いか?なぁ」
言い放つと同時に涼香っちゃんに一気に詰め寄る。いきなりでビビったのか床に倒れこんだ涼香っちゃんの腕を掴む。肩が跳ね上がったので怯えてるだろうが、んなこと知ったこっちゃない。掴んだ腕を一気に握りこむ。握力20しかない俺様が握りこんだだけだ。さぁ、痛がるか?見れば顔を歪めた涼香っちゃん。
「い、たい。離してよッ!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいt…」
「黙れ」
瞳孔を開ききった眼で威圧すれば静まった屋上。静かすぎて耳が痛い。
「大柳涼香、アンタが痛いのは本当に腕か?どこが痛い、腕の切り傷なんかより痛いモノはどこにある。何で切る前に死ねた筈を、こんな下らない事をしてまで今日まで生きてきた。」
ワントーン落とした声で凄む。涼香は始めこそ固まっていた顔は次第に涙に濡れていった。湿った息が漏れだした時、涼香を掴んでいた手を離す。そこで身体の力が抜けたのか、涼香の頭が見えなくなった。
「痛いよ。もうずっと心臓がズキズキ痛んでる。腕を切っても心臓の痛みの方が大きいの。」
「…」
続きをただ黙って待つ。言い出したんだから、あとは向こうのペースで聞くべきだろうよ。大きく一つ深呼吸して涼香は続けた。
「あのね、私。『死んでしまえばいい』って言われたの。一番の親友だった子に。理由は何だったと思う?『親友の片思いの相手に告白されたから』だよ、私、断ったのに。それなのにいきなり態度変えて、ずっと友達と思ってたのに。だから、死んだらあの子が責任感じればいいって、思ったの。」
そこまで言うと顔を上げた涼香。その顔はわかりやすく『辛い、苦しい』と言っている。
「凄く憎かった。悔しかった。でも、やっぱり大好きだから。今まであの子に助けられた事を思うと死ねなくて…切るしか、痛みを緩和させることが出来なくて。でも、それももう効果が無くなったりして…」
「涼香っちゃん。アンタ、本当に優しい子だな。憎いのにソイツの事思って、自分傷付けてたんだろう?やっぱアンタは生きるべきだ。アンタの人生面白くなるから。」
正面から軽く抱きすくめて顔を見えないようにする。そのまま背中に腕を回して、軽くなでる。ただひたすらに、赤子を寝かしつけるように。
暫くすると嗚咽は消え、支える身体が重く感じた。
「寝ちゃったか。」
その身体をフェンスにもたれさせるとその場を去る。大柳涼香、あの子はもう大丈夫だ。最後に見た寝顔は重荷が取れた様な安心した表情をしていた。
お客様名簿『大柳涼香』
「死神ちゃーん、帰ったぜー」
「お疲れさん。どうだったよ今日の客。」
「うーん、やっぱ優しい奴ほど苦労する世ん中だと思ったなぁ。あぁ、そういやぁ今日の大柳涼香っちゃん。『早期死期を回避させろ』とか言ったけど、あの子の死期いつよ」
「一週間後だな、学校からの帰りに〈親友の前で〉猫を助けようとして大型ダンプに轢かれて死亡。」
「ふは、えげつねぇな。」
初めて完全オリジナルで文章書ききった!!
文体無茶苦茶の、自分でもわけわからん内容だけど、これを起点に成長出来たらいいですね。←人事
それから、この文章を最後まで読んでいただきありがとうございます!!
それぞれ思うところはあると思います。
反論や共感が頂けたら、嬉しいですが…流石に強欲ですかね(笑)