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精霊の石本《ローザン・フェルス・レイ》~精霊の子と研究者~  作者: 星羅
怪しい薬師は実はすごいヤツだった!……かもしれない。
9/12

タミスの町

新章です。

タミスの町、早朝。

普段はこの時間からたくさんの人が出歩いているのだが、今朝はなぜか人が少ない。

といっても、たくさんの―というのはこの町の人口に対してであって、実際この町には村に毛が生えたような人数しか住んでいないのだが…。


そんなときだ。

静かな朝にあまりにも似つかわしくない騒々しい馬蹄の音が聞こえてきたのは。

よくみればそれぞれに人を乗せて、白と黒の馬が猛スピードで駆けて来るところだった。

二匹(と二人)はそのままこちらに向かって来、町の入り口で急停止した。

そして、

『勝った!』

そう、叫んだ。

そしてお互い顔を見合わせて、

「リースの方が速かったぞ!」

「いいや、フォンの方が速かったね!」

「勝ったのはリースだ!」

「フォンだもん!」


それから十分後…

スカラが茶色い馬の手綱を引いて町の入り口に来た。

「ああ、やっぱりやってる…」

ぼそっと呟いたその一言で町の入り口でぎゃあぎゃあ言い争っている某迷惑な二人はこちらに気づいたらしく、

「スカラっ!リースが勝ったぞ!」

「違うよ、フォンの方が速かったもん!」

 はいはい、やっぱり接戦だったのか。

「どっちが速かった!?」

「ねえ、どっち?」

 俺が知るかよ。二人して置いていきやがって。

「審判頼むと言ったではないか!役立たず!」

「やくたたずー」

 プチッ

「お前らいい加減にしろよ!審判スタート地点においてってどうするんだよ!あんなの追いつけるか!普通にアイナと歩いてきたわ!」

すると、

「きゃー、スカラが起こったぁ、レシィアこわぁい!」

「こわぁい」

レシィアが急に女の子っぽいしぐさで言い、エンジュも追従する。

いつものとがった感じが無く、妙に似合っていてするのだが、そんなことは堪忍袋の緒が切れかけているスカラには関係ない。

やがて、本気で切れかけていることに気がついたのか、今度はひそひそ話を始める。

「ねぇ、何かほんとに怒ってない?」

「あいつは、日頃、草はんでるようなヤツだからな。ほっとけばいつの間にか許してくれる。だからわざわざ謝るのは癪だ。」

 どういう理論だそれは、大体日頃草はんでると言うよりは、お前が食えるもんとって来ないからそこら辺に生えてる植物食べるしかないんだろ。……しかしまぁ、すっかり意気投合して…

そんなことを考えているとだんだん怒りがしぼんでくる。

二人はときどき、ちらちらとこちらを見ながら、ひそひそ話にしては大音量過ぎる音量で話している。

そんなほほえましいものを見ると結局腹の虫も収まってしまうのが、レシィアに草はんでるなんていわれるゆえんだろうか。

 でも逐一レシィアに対して腹を立ててたら、俺の身が持たないしなぁ…。

やがてスカラが何も言わないのが気になってきたのか、

レシィアがこっちを見て、

「あ、うー、えー、えっと…すまなかっ……あぁぁ!何でもない!とにかくっ!!あー、そうだ、何のために昨日逃げたこの町に来たのだ!理由聞いてないぞ!」

急に顔を真っ赤にしたり、怒ったり、叫んだり、百面相をする。

「ねぇ、レシィアってさ、だいぶ可愛いよね。」

「まあな。大体いつもこんな感じだ。」

「そこっ!二人で何を話している!用があるならとっとと済ませて次に行くぞ!私たちは忙しいのだ!」

『はいはい』

実際、調査が忙しいのはスカラであって、レシィアは忙しくも何ともないのだが…。

「んじゃ、町の広場行って、俺の薬箱回収したら次行こう。」


「俺ね、基本的に、薬は無人販売なの。値段書いて、お金入れる袋置いといて、次の日に回収しに行く。」

エンジュが歩きながら説明する。

「よく盗られないな。」

「まぁ、薬代が盗られるのは、別に元値タダだからいいんだけどさ、前に一回薬箱盗られたことがあって……いや、取り返したんだけどね?その後から、『盗難があったらもうここには来ません』って貼り紙貼ったら盗難ゼロになった。」

「それは…すごいな」

「何がすごいのだ?」

「『盗難があったらもうここには来ません』って張り紙を貼って、盗難ゼロになったってことは、全員がエンジュの薬を必要としているってこと。」

「…よく分からん」

「とにかくすごいんだよ。」

元々そう大きくないこの町のこと、そうしているうちに早くも広場に着いた。

「うわ、嫌な思い出しかよみがえらない…」

「あぁ、懐かしいな。」

「って昨日のことだろ。…そういえば聞いてなかったが、何でお前らあんな乱闘してたんだ?」

「ああ、あれ?確かね…」

エンジュがなんだっけ、とでも言うように首をかしげる。

つい昨日のことにそんなに首をかしげないで欲しい。

「あ、そうそう、まだ目玉焼きに何をかけるかだ!」

「あぁ、醤油かソースかってあれ?」

 お前らそんなことで大乱闘してたのか?

「醤油かソース?何を言っている。目玉焼きはマヨネーズだろ。」

 …は?

「違うよ、あんかけだよ。」

 ……あー、それはあれか、目玉焼きは野菜入れた鍋の中に卵放り込むだけのお手軽調理だって言う俺の認識を改めた方がいいのか?

「ん?ていうか、エンジュは知らないけど、俺レシィアが目玉焼き食べてるところ見たこと無いんだけど…。研究所出る前か?」

「ああ、養父が異国の料理だと言って食べさせてくれた。」

「え、目玉焼きって異国の料理だったの?俺、リドニスのおっちゃんのオリジナルだと思ってた。」

「いや、海超えただいぶ遠くの国の料理だとか書いてあった。」

「へぇ、知らなかった。…あ、あった、あれあれ。」

そういって、エンジュが広場の隅にある箱を指さす。

言われてみれば確かに、割と大きめの木箱と、ふくらんだ袋がおいてある。

エンジュが走っていったので二人も慌ててついて行くと、

「頭痛少量、怪我半分、腹痛…ん?何で多めにあった熱冷ましが無くなってるんだろう。」

脇に置いてある袋には目もくれず薬の残りを確認している真っ最中だった。

「それが薬か?」

「何か苦そうな薬だな……」

「そんなに苦くないよ。んじゃ、回収したし行こ。」

そういって、薬箱と代金の入った袋を肩から背中に背負っていた鞄(というかただの布製の袋)に入れようとして…

「あ、やっぱ無理。重い。薬代、紙幣に両替してもらってからでいい?」

「いいけど…すごいな。そんなに稼いで何に使うんだよ。」

「いや、俺としては使い道もないし、最初は『勝手にどうぞ、優しい人は俺の生活費くらい入れてってください』って張り紙して置いてあったんだけどさ、元々そこに店舗構えてた薬屋に営業妨害だって怒られちゃった。」

「まぁ、当然だな。」

「と言うわけだから、両替してもらうまで待って。」

「ああ」

そして、三人は歩き出そうとしたのだか…

「あの…もしかして、この薬作ってる方ですか?」

後ろから消え入りそうなか細い女性の声がかかった。

「え、うん」

エンジュが戸惑ったように返事をすると、

その女性はこらえかねたように泣き崩れた。

「お願いします!娘を、娘を助けてください!」

~食べ物ふぁいる~

目玉焼き   日本の目玉焼きとは少し違います。卵も鶏じゃないですし。あと、醤油とかソースとか、日本にある物もあるけど、やっぱりちょっと違う物です。

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