悪魔の使い
えー、そういえば。エンジュがだいぶ年の離れたスカラとレシィアにため口な件ですが、本人の性格です。基本、「何が楽しくて他人を敬うんだ」という子なので。
ではどうぞ。
遠くで何かが動いている。遠すぎて、何なのかよく分からない。
人型に見えなくもないが、立ち歩きした熊にも見える。
川の付近まで来て、それは迷うことなく水の中に入った。
そして呟く
「あぁ、やっぱり何も知らないんだね。」
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草木も眠る丑三つ時…を1時間ほど過ぎた午前三時。
エンジュは物思いにふけっていた。
もちろん昨日の夜のことでだ。
昨日の夜―――
「こいつにも研究手伝わせるか!」
なんて爆弾発言をしたレシィアは、
俺の返事を聞く前に、なんかグラグラしだして、
スカラが慌ててしいた寝袋に入ると即爆睡してしまった。
「悪い、ちょっと今日暴れすぎたみたいで。」
「どういうこと?」
「レシィアって元々、あの動き持続させるだけの体力無いんだよね。」
あの動きというのは昼間の喧嘩のことだろう。
「でも全然平気そうだったよ?」
今思い返せば30分もあんなことやっていて、息一つ乱れていなかった
「そこをセーブするリミッターがちょっと壊れ気味だからね。」
「だからあの強さ?」
「いや、そこがイコールでつながるわけではないんだけど…」
だんだん語尾が小さくなっていく。
これ以上は話したくないと言うことだろうか。
「別に無理に話さなくても。初対面の人間に自分のこと全部話す人なんていない。でしょ?」
「あ、あぁ、まぁ」
「それが早寝につながると。」
「うん、昔は突然ぱたっと倒れてて、さすがに危なかったからね。俺がそう仕向けた。」
でさ、と、スカラが本題に入る。
「レシィアがさっき言ったことなんだけど…」
「返事の前に聞いていい?」
「ん?」
「何であんな唐突に、あの提案…?が出てきたの?」
「たぶん、お前が精霊の子に詳しいのを知って、使える!と思ったんじゃないかな。」
なんかずいぶんストレートな。…使える!って、俺物じゃ無いんですけど。
もうちょっと言い方ってもんがないのかな、スカラもしっかりしてるけど意外に…
あと、と、スカラの話が続くのを聞いて、慌てて思考をいったん中断する。
「笑顔が気になった。」
「は?笑顔?スカラってそんな趣味が…」
「おい!ちょっと待て!まじめな話してんだからちゃんと聞け!そのわざとらしい声音やめろ!あの……あー、今もだな。お前、表情が若干おかしい。んで、さっきの笑顔がさ、俺たちちょっと見覚えあったんだよね。それで、ほっとけなくなった…のかな?たぶん。レシィアは断固として否定するだろうけど。」
ちょっとおかしい…かぁ、ちゃんと笑ってるつもりだったんだけど…。
「まぁ、ちょっと考えといて。イヤならレシィアは俺が説得するから。…できれば。」
「そのできればって言うのが、二人の力関係あらわしてるよね。」
「はは、全くだ。」
「どうしよう…」
エンジュが一人ため息のように漏らすと、後ろから唐突に真っ黒の馬が現れた。
“どうするんだ?悩むなんてお前らしくないな”
「フォン!こんな森の中まできたの?」
“たやすいことだ。が…俺は今それに気づかなかったお前に驚いている。今までこんなことはなかったはずだ。何をそこまで悩んでいる?人に深く関わるのはやめたんだろう?うまく断って、離れる方が得策だと思うが…”
今までエンジュは、なるべく人と深く関わらないようにしていた。仕事柄、いろんな人間には会うが、話しかけられても、大体は得意の…いや、得意だったはずのあの無邪気な笑顔でやり過ごしていた。どれだけ長くいても、絶対に一定以上の距離には近づかない。絶対に心を開くことはなかった。
「俺もね、さっさと離れた方が良いとは思うんだよ。でも、さ…」
表情がおかしいって言われたことに驚いた。
驚いて…少し一緒にいたくなった。……こんなこと、あの日以来初めてだった。
“よりによって、研究所の人間だぞ?お前の敵じゃないか。お前は……
悪魔の使いの生き残りなんだから。“
「…うーん、そう、だね。あー…」
エンジュは(本人は気づいてないだろうが)少しがっかりしたような顔をした。それを見てフォンは
“いや、余計なこと言った。今まで大丈夫だったんだから、ばれる可能性は少ないだろう。お前の好きなようにしたらいい。俺はお前についていく”
そう言い残して、森の中に消えて行った。
おそらくエンジュがもともと、おいてきたところに戻るのだろう。
「好きなようにしたらいい…ね。てか、フォン、リスかだれかに聞いて、来てくれたんだよなぁ、たぶん。ホント優しいよね」
それから15分ほど悩んだ後…
「あ、そういや、動物と話せるって二人にいってないや。朝起きたら言わなくちゃ。」
そう呟くと、満足そうな顔で寝袋の中に戻っていった。