森の中でpat3
それから…
何となく重苦しい雰囲気になって、早五分。
スカラは、ふと、少年の顔を見た。これまではドタバタしてて―――具体的に言うと、慌てて町から逃げたり、レシィアにあきれたり、謎の団子とにらめっこしたり、レシィアにあきれたり、レシィアにあきれたり、レシィアに…(以下略)―――ちゃんと少年の顔を見たのは初めてだったのだが、
・・・こいつ本当に十五か?
そのくらい、少年は童顔で、瞳も大きく、外見で見れば、十二、三でも通りそうな…
それに、ちっちゃいし。
「背低くて悪かったね。俺本当に十五だよ。」
「!?…声、でてたか?」
スカラは、無意識に、口元を押さえてしまう。
「でてないけど…やっぱりそう思ってたんだ。俺のこと見たやつ大体そういうんだよね…好きで背低い訳じゃないってのに」
相当、気を悪くしたらしい。昔何かあったのだろうか
「あ…悪い。」
それからまた、重苦しい沈黙。
「あっ、そうだ、俺たちまだ自己紹介してないよね!」
沈黙に耐えきれなくなったスカラが口を開く。
「また忘れてたのか。」
スカラは「お前だって忘れてただろ」と言いたげな目でレシィアを見るが、言っても無駄だと悟ったのか、口を開かなかった。
が、レシィアには伝わったらしく、
「私は、名乗らなくても、意思疎通ができると判断したから、あえて名乗らなかったまでのこと。お前と一緒にするな。」
「あぁ、そう。もういいや。じゃ、自己紹介するから。
俺はスカラ、スカラ・レフィー。料理と、あと…頭脳戦得意。武術は、護身くらいならできる…かな、で、こっちはレシィア・イスプロ―」
「お、お前、初対面の相手に、なに精霊名まで明かしているのだ」
精霊の名を明かしたところで、普通は別段、問題はないのだが、この二人の場合はちょっと特殊なのだ。だが、
「明かすも何も、俺もお前も、すでに『力』見せちゃってるだろ。誰のせいだと思ってるんだ、まったく…。続けるよ?レシィアは、えっと、自由人、喧嘩上等、超野生児、武術に関しては天才的…と、裁縫とか、料理とか、女の子らしいものは、全くだね。特に裁縫は壊滅的。」
「な、おおお、お前、何を言う、私だって料理くらい、できる!大体、私のどこが、喧嘩上等だ!野生児だ!」
レシィアが叫ぶ。だいぶ真っ赤だ。裁縫くらい…といわないところに潔さは感じるが……そんなことより、すでにさやから抜いて、構えている剣は一体・・・
「何処がも何も、今のレシィア…さん?体全体で喧嘩上等を表現してると思うんだけど」
スカラもうんうん、とうなずく。
「むぅ…チッ。スカラ、続きはなせ。」
「ちょ!?都合悪くなったからって、急に振るなよ。ったく…えと、俺とレシィアは、精霊の子の研究所、セト・エストーから、精霊の子の調査を頼まれてて…」
「セト・エストー…」
確かめるように、エンジュがつぶやく、
そして、今度はスカラもレシィアも見逃さなかった。
つぶやいたときのエンジュの表情―――
怒り、憎しみ、悲しみ、そして―
絶望
それらすべての感情が入り交じったような表情。
そして、スカラとレシィアが見ていることに気づいたのか、
暗い、険のある表情はぬぐったように消え、一瞬で無邪気な笑みに変わる。
「へぇ、すごいね、二人とも、研究所に頼まれてってことは、二人は学者さん?」
本当に、見る人によれば、まだ闇を知らない、子供のようにさえ見える、無邪気な笑み。
だが、二人はその笑顔に見覚えがあった。
そう、その表情は
かつての・・・と同じ―
「お前…」
「何?」
笑みを崩さないまま首をかしげる。
「…いや、あぁ、学者って言うか、なんて言うんだろうな。うーん?」
「パシリだ。」
「うん、レシィアはちょっと黙ろうか。そういう言い方誤解を招くからやめようね。」
「?」
「いや、いいんだ、うん。俺たち、養子なんだよ。学者は義父と義母の方。けっこう研究手伝ったりしてて、いま、研究所離れられないから、二人代わりに調査してきて、みたいな感じで送り出された。」
「やっぱパシリじゃん。」
「いや、違うって。」
「あ、でもさ、精霊の子って、八年前に、絶滅しちゃったじゃん。調査って何するの?あ、あと、いまは悪魔の使いってなまえの方が有名だよ。だれも精霊の子なんて呼びかたしないし」
今から十二年前―
精霊の石本と呼ばれる、
精霊の名を刻んだ石が突然光り出した。
そう遙か昔に精霊が名を刻んだ石だ。
その光はあちこちへ飛んでいき、その光をあびたものは強大な力を手にし、
精霊の力が宿ったと言われた。
そして尊敬と畏怖の念を込めて、「精霊の子」と呼ばれるようになった。
そしてその四年後…今から、八年前。
突如不可解な、そして悲惨な事件が起こった。
『変異した力』が突如、次々と暴走を始めたのだ。
暴走した精霊の子はもはや、制御のきく状態ではなかった。
理性を失い、ただ破壊する。
町が焼かれ、または、村ごと水の底に。
人間は、恐怖に支配されたとき、時に、残酷な決定を下す。
―精霊の子は、暴走を始める前にすべて殺してしまえ!―
まだ、暴走していない精霊の子は多数いた。
中にはまだ、小さな子供も…
そして、国の兵隊が、追ってきた。
ずっと仲良く暮らしていたはずの、村の、町の人たちが、
あからさまな殺意を向けてくるようになった。
中には、自ら刃とる者まで…
そうして、進んで行く狂気の中。
精霊の子という呼び方は悪魔の使いに変わっていき、そして…
精霊の子は滅んでしまった
「いや、確かに、今は、精霊の子って言う言い方はあんまりしないけど、元々、セト・エストーっていうのが、昔の事件の反省をもとに作られた組織だから、悪魔の使いって言い方はしないんだ。で、二つ目は…」
「確かに、精霊の子は絶滅したと言われているが、確かな確認は取れていないんだ。だから、もしかしたら生き残っているかもしれないから捜して、いたら保護してこい。なんて、むちゃくちゃな頼みが…」
レシィアは途中で言葉を止め、難しい顔で考え込む。
そして、
「未公表……名前…詳しい……有名?」
なにやらブツブツ呟きだした。
「精霊の子は、七年前に確認されて以来、確認されず、絶滅したのではないかと言われているが、普通には、公表してないはず。そして、悪魔の使いって名前の方が、有名だと、いったが、そもそも、精霊の子に関しては、もうほとんど、話題に上らなくなってるはず。ただの薬師がなぜ、そんなに詳しいのだ?だそうだよ。」
「俺も、ちょっと興味があって…ほら、薬師とかやりながら、旅してるとさ、いろんな情報耳に入ってくるんだ。…てか、通訳?」
エンジュの怪訝な顔に、スカラは苦笑する。
「まぁ、レシィアはちょっと、考えすぎると、うまく言葉がまとまらなくなっちゃうところがあって…」
「要するに頭が悪い?」
「超ストレートだね。いや、そういう訳じゃないんだけど、…ちょっと…ね。」
「よし!」
レシィアが突然大声を上げた。
それはもう、いいこと思いついたっ!とでも言わんばかりの笑顔で。
そしてエンジュを引き寄せて言った。
「こいつにも研究手伝わせるか!」
「「はぁぁぁぁぁぁ!?」」
エンジュが薬師で旅してる部分ですが、あの子は特別です。
この国の薬師はこっちの世界の薬剤師さんみたいな感じなので、普通自分のお店を持ってます。
エンジュは各国まわって、薬草とったり、薬売ったりしてます。
薬の売り上げについては後ほど。
三人それぞれの過去についても、もうしばらく、物語が進んだら書こうと思います。
レシィア自由人ですね。