初めての出会いは大バトル?
レシィアと少年は未だ戦い続けている。
スカラはそれを黙ってみている。
……だって、なんか止めに入ったら真っ先に俺の首が飛びそうじゃね?
そう考えると、考えなしにあの中に飛び込むわけにも行かず…
だが、二人は剣(短刀)がかすむほどの速さで振り回してるのだ。
いい加減何とかしないと周りの人や建物に被害がでそうで…
「はぁ、どうしよ。ここで『力』使ってもいいのかなぁ?」
一人でつぶやくものの、答えが返ってくるはずもなく…
どうするにしろ、早く行動を起こさなければいけないのは分かっているが、どうにも動けない。
「もうヤダ。他人のふりしていっちゃおうかな」
言ってみたものの、それができるならとっくの昔にしてるのだ。
仕方なくスカラは作戦と立て始めた。
キィンッと金属同士のぶつかる音が響く。
レシィアが剣で斬りつけてくれば、少年は、右手の短刀ではじく。
少年が、蹴りを放てば、レシィアは見事な跳躍で難なくそれをかわす。
そんなほぼ互角と言っていい攻防がもうかれこれ
三十分くらい続いていて…
「わぁ、おねーさん、すっごい強い。俺こんな人初めて会った。」
「お前もな、短刀で剣をはじかれたことなど初めてだ。」
「え、んーと、それ、短刀を使うやつあんまりいなかったってことない?」
「あ、あぁ考えてみれば私の師も同僚も短刀は使っていなかったような…。」
「うわ、それ俺だけ褒められてないじゃん。」
「褒めてほしかったのか?」
「いや、でもさ、社交辞令というもんがあるじゃん」
「では、さっきのお前の言葉も世辞ということか?」
「や、えと、あれは本心。マジでびっくりしてる。」
なんてことを話しながら。戦い続けているのだから、
たいしたものだ。…いろんな意味で。
元々、些細な意見の食い違いでこのようなことになっているのだ。
これだけやっていれば、普通どちらかが折れてもいいようなものなのに、
二人の戦いはいっこうに終わらない。
レシィアも負けず嫌いだが、少年も相当なものらしい。
「なんかさあ、こう、なんていうか、不毛だよね。」
「だったら、お前が折れればいいだろう。」
「あー、それは無理。だからさ、俺周りに迷惑かけると思って出さなかった道具あんだけど、出していい?」
「ん、じゃぁ私も出すか。」
「え、いや、ちょっと待って、出す時間ちょうだい。そこにおいた袋の中なんだけど」
「ヤダ」
「ヤダじゃないっっ」
少年の叫びを無視し、レシィアは片手を前に出した。
その手にだんだん冷気が集まっていく―
「オイオイ、あれ『力』かよ。それにあれは…」
だが、少年が言い終わるよりレシィアの方が早い。
「氷崩」
大量の細かい氷の粒がレシィアの手から少年に向かって飛んできた。
「ってか、細かくないのもいっぱい混ざってるんだけどっ!!これ、氷の粒じゃなくて氷の固まりだしっ!何これあり得ない!がさつすぎ!」
遙か昔―
この世界には精霊と呼ばれる特別な存在がいた。
火の精霊、水の精霊、ありとあらゆる種類の精霊がいた。
だがあるとき、問題が起こる。
昔から蓄積されていた精霊間の軋轢が、あるとき大きな争いを生んでしまった。
平和を重んじる精霊たちは、話し合いの場をもち、やがて結論が出た
精霊全員がこの世界を離れ、別々の世界で暮らすことにしたのだ。
だが、精霊の恩恵を受けて生きてきた人間たちは困った。
そこで精霊は、自らの力の一部を人間たちに分け与えてやることにした。
石でできた本に、自分たちの名前を刻んで言った。
―人間に精霊の力を分けてやろう。十七の成人の日、お前たちに精霊一人の名が宿る―
そして人間は、精霊の力を手に入れた。
今では成人の日は十九に変わっているが、その日に精霊の名が宿ることに変わりはない
レシィアが使ったのは、紛れもなくその『力』だ。
…普通氷の固まりが飛んでくるなんてことはないが。
「ちょっと!もう、危ないじゃん。」
町中で短刀を振り回すのは危なくないのか?
「そういいつつすべてよけて見せただろう。」
「そういう問題じゃないっ!もう怒った。俺だって本気見せるから!」
「望むところだ!」
少年とレシィアが再び走り出したところに、凛とした声が響き渡った。
「光影」
まばゆい光が辺りを包んだ。
そして、
「うわ、なにこれ、動けないし。」
「スカラ!もう来てたのか、あいつ…」
「レフィーは光と影の精霊。今のは、光でうつした影をその場にとどめる『力』。レシィアが行っちゃったのを見て、慌てて追いかけたからもう来てました。はい、疑問解決?じゃあ、周囲の目がくらんでる間にとっとと逃げるよ。」
「いや、スカラちょっと待ってくれ、私もまだよく見えない…」
「俺も」
なんてことを言うが、かまっている暇はない。
「いいから逃げる!」
そういってなんかデジャヴだなぁと思いつつ二人の手を引いてスカラは走り始めた。
今朝の出来事と違うのは一点。
迷惑なのが一人から二人になったという点だった。