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精霊の石本《ローザン・フェルス・レイ》~精霊の子と研究者~  作者: 星羅
怪しい薬師は実はすごいヤツだった!……かもしれない。
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ぐるぐる思考

 町を封鎖してくる、なんて言ったものの、これはなかなか重労働だった。

 なにしろ、インゴ熱が発生したので町を封鎖します。とだけ言って、分かってもらえるわけではない。

 インゴ熱はそこまで有名な病気と言うわけではないからだ。

 まず、教えられる範囲で自分の身分を説明し、とりあえず言うことに説得力をもたせる。

 次に、インゴ熱とはなんなのかを、町民に説明する。

 最後に、パニックになる住民を協力するように説得する。

 ちなみに、いま説明し終えたのは、町の外れに住んでいた住民だけで、これから町民全員に理解してもらわなければならないのかと思うと、はっきり言ってめまいがする。

 それに、町を封鎖したとしても、その後のことは、全面的にエンジュに任せるしかない。

 今さら疑ってもどうしようもないことではあるが、昨日あったばかりの人間を、すぐ信用できるほど、スカラの危機感は弱くない。


 相方があんなんだと特に。


 とそこで、もうすっかりエンジュと友達感覚になっていたレシィアをおもいだす。

 あの歳で、すぐに人を信用する無垢さは確かにレシィアの美徳だと思うが、相方としては危なっかしくて仕方がない。

 明確に悪意を表して近づいてくる相手なら、殴り飛ばすなり蹴り飛ばすなりするからいいのだが、(いや、よくないが)自分のいないところで、心を許した隙に、牙をむかれたらどうするのか。

 そんなことを悶々と悩みながら歩いていると、いつのまにかセイスの家の近くまで来ていたようで、スカラは一旦考えを切り上げた。

 

「あ、スカラ!」

 

 呼ばれて声のした方を見るとエンジュが走って来るところだった。

 

 「あぁ、...ん?お前なんであっちからきたんだ?セイスの家に居なかったのか?」

 「あ...いや......ちょっと足りない薬草の下見に...。あ!そうだ、スカラに薬草とってきてほしいんだけど。」

 「それはいいが、先に中に入っていいか?レシィア一人はさすがに心配だ。」

 「え?うん、いいけど...。」

 

 家に入ると、思った通りレシィアが飛び付いてきた。

 

 「スカラスカラっ!インゴ熱とはいったいなんなのだ!リンゴの一種でないことは理解したぞ!」


 レシィアが自慢げに言う。

 

 「はぁ?まだそれ言ってんの!?」

 「あー、ヤバい風邪。」

 「そうか、こいつも大変だな...。」

 「そう、だから静かにしてろよ。」

 「分かった!」

 「それでいいの!?」

 

 エンジュがぎょっとしたように聞いてくる。

 あまり良くはないが、レシィアに難しい話をして理解してもらうには、時間がかかるし、今はそんな時間はないだろう。

 

 「まあ、あとで説明すればいいさ。」

 「そういうもんかなぁ」


 エンジュはいまいち納得していないようだったが、今はそれより他に方法がないのだから仕方がない。

 

 「で、俺はどうすればいいんだ?」

 「あ、えっと薬草が足りないから採ってきて欲しいんだ。この子に使う分も足りないし、たぶん蔓延してるだろうからもっと要ると思う。採ってきてほしいやつ言うから必要ならメモして。」

 

 スカラは懐から紙とペンを取り出すことで了承の意を表した。

 紙とペンは研究者の必需品である。


 「まず、セイキ草と、テングキの実。それからサシアの茎とラシエとルリココとリュクの実と…」

 「ちょっと待て。」


 スカラは両手を前に挙げて制した。

 紙とペンをエンジュに差し出す。


 「書いてくれないか。速い。」

 「無理。俺読み書き出来ないから。」


 …………は?

 スカラはエンジュの思わぬ申告に眩暈がした。

 この国での識字率は成人年齢である一九歳ではかるのでエンジュの歳での識字率のデータはないが、おそらく九十五%は超えているだろう。

 国の方針で、他国より教育は充実している。病院のないところでも、学校だけはあるのだ。

 それに…。


「お前、どうやってその知識身につけた?」


 こちらの方がよほど問題である。

 文字が読めないのなら本で知識をつけることは出来ないし、人に聞いたとしても文字を書けないのではそれを記しておくすべがない。しかし、エンジュの知識は今聞いただけでも十分すぎるほどあると分かる。

 残る可能性は…

 

 「小さい頃から教えこまれれば自然に覚えるよ。」

 「貴重な薬学の知識を?」


 近所に生えてる食べられる雑草の話とはわけが違う。

 

 「俺に生きるための知識をくれた人は真性のお人好しだったからね。ちょっと人をからかって遊ぶきらいはあったけど。二人と一緒だよ。」


 当然のように自分を含めてお人好しと言われて、スカラは眉間にしわを寄せた。

 お人好しと言われたことが不快なのではない。

 エンジュの言うことが本心ならば、それを捨てられていない自分自身が不快なのだ。

 

「お人好しって俺もか?」


 どうか言葉のあやであって欲しい。自分がしっかりしなくては誰がレシィアを守るんだ。

 

 「うん、スカラも。」

 「……そうか。」

 「あ、でも安心して、ちゃんと人を疑えてるから。今みたいにさ。スカラが人を疑わないとレシィア、何でも信じるもんね。」


スカラがいまいち納得していない様子なのにも関わらず、エンジュは「ゆっくり言うからさっさと書いちゃって」とさっき渡した紙とペンを押しつける。

 

 「…」

 「ほら、今は病気の子優先!」

 

 言い表しようのないもやもやは心の中に居座ったままだったが、『病気の子優先』という方に理を感じ、スカラは再びすべての思考を棚上げにしてメモをとることに全力を注いだのだった。




 森が深い――――。

 木の葉の隙間から木漏れ日が入ってきているせいで辺りはそこまで暗くないが、道が限りなく悪い。

 昨日エンジュと通った道はマシな道だったのだと今更気づく。それでもスカラは最初の方は話をする余裕もなかったと言うのに。

 レシィアなら「地面が歩きづらいなら空を飛べばいいではないか」なんて言って枝々を飛んで渡りそうだ。もちろんスカラにそんな能力はないし、そんなことをしていては薬草が見つからないので本末転倒なわけだが。

 打ち身をあちこちに作りながら必死で探し回って一時間弱。この森は植物が豊富らしく、あらかたの薬草は手に入った。

 が、ラシエだけがどうしても見つからない。

 本来水辺に生える草なので川か池を捜しているのだが、どうにも川も池が見つからないのだ。

 

 「ラシエ以外は見つけたし、いったん戻る…か?」

 

 村まで戻って下流から川を遡れば人の生活圏内を抜けたところで間違いなく見つかるはずだ。

 

 「時間がもったいない気もするが仕方ないか。」


 このままここで迷っている方が時間の無駄だ。そう結論づけたスカラが元来た道を引き返そうとする。

 突然、一陣の風が吹いた。

 思わず風が吹いてきた方向を見やると、そこにはなぜか川があった。


 

 

 全く……訳が分からない。


 そこに、今まで感じなかった精霊の子(フェル・リリー)の気配さえするのだから。





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