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精霊の石本《ローザン・フェルス・レイ》~精霊の子と研究者~  作者: 星羅
怪しい薬師は実はすごいヤツだった!……かもしれない。
11/12

話し好きの空気

 「リンゴじゃなくてインゴ!インゴ熱!何回言ったら分かるのさっ!」


 「だから、それはリンゴの仲間だろう!」


 「名前似てるからって勝手に仲間にするなっ!」


 「物は一緒じゃないのか。」


 「全く持って共通点はないっ!」


 レシィアと二人で話したのは初めてだが、これほど話が通じないとは思わなかった。

 というか、レシィアは、理解力に欠けていると思う。

 リンゴとインゴを聞き間違えただけ、というならまだ分かる。

 しかし、インゴ熱だと言ってもそれが病気の名前だとなかなか理解しない。

 挙げ句の果てに、名前が似ている物は、すべて同じ種類の物だと思っている。

 これには呆れた、これが自分より少なくとも五つは年上の大人かと思うと。

 そして、毎日レシィアに付き合っているスカラにも、少し尊敬を覚えた。


 「…と、こんなこと言ってる場合じゃない。レシィア、とにかく、インゴ熱は病気のことだから。それだけ分かってくれればいいや。」


 そう言って立ち上がった。

 人に見られてはいけない用事があるのだ。外に行かなくては。

 部屋を出て行こうと扉に手をかけて……いったん後ろを振り向いた。


 「すぐ戻ってくるから。レシィア、その子見てて。」


 「あ…ああ。」


 レシィアは、考え事をしていたようだが頷いてくれた。

 それを確認して、エンジュは今度こそ部屋を出て行った。





 目的地の川の所まで来た。

 と言っても、ここはまだ人の生活圏内。人が来るかも知れないので、もう少し上流に移動する。

 木々に囲まれた、目的に最適なところまで行くと、エンジュは、簡易版の民族衣装のような服の裾が濡れるのも気にせず、ザブザブと水の中に入っていった。


 「この辺でいっか。」


 そう呟いて、目を閉じる。

 すると、突然風が吹いているわけでもないのに、エンジュの服が、浮き上がった。

 が、エンジュが再び目を開けた瞬間、うそのように収まった。

 その代わり、エンジュ本人は気がついていないが、さっきまで焦げ茶色だった瞳が、なぜか、深い緑色に変わっている。


 「すこしお聞きしたいことがあるのですが…」


 何もない空中に話しかけると、なぜか返事が返ってきた。


 「いーよいーよ、そんな堅苦しい態度じゃなくて。君のことは聞いてるよ、エンジュ♪」


 そこには何者の姿も見えないが、ただ声だけははっきり聞こえてくる。


 「さすが、空気(・・)は噂好きですね。」


 「だーかーらー、そんなかしこまらなくっていいって!君以外の人間は、空気の事なんてまるで無視だよ。」


 そう、エンジュも謎の声も言っている通り、今会話をしているのは空気なのだ。

 話が出来る特別な空気、というわけではない。

 本当に、生物が呼吸で取り込んでいる、あの空気だ。

 そんな、人間が命を持たないと定義している者達と会話出来るのが、エンジュの悪魔の使い(イヴァ・ドーラ)としての能力。


 空気や水はどこにでもある。故に何でも見て、知っている。

 人に隠し事は出来ても、彼らにだけは絶対に出来ない。

 そして何より、彼らは無類の噂好きだ。

 遠く遠く離れたところで起こったことでも、一瞬立てば、すべての空気や水が知っている。


 「でも生きていくための情報すべてを教えてくれたのは、君たちだし…」


 「それは気にしないで、僕たちも異種と話すのは楽しいんだから。だって、考えてみてよ。僕の知っていることは、みんな知っているんだ。もちろん、みんな知っていることは僕も知っているけど。僕らの話すことにいちいち感心してくれるのは君だけだよ。あ、話し方それでオッケーね!次敬語使ったら、もう何も教えてあげないよっ」


 「はい…あー、うん。」


 たたみかけられた長いセリフに圧倒されながらもエンジュは何とかうなずいた。


 「よしよし。てかさ、敬語使うならもっと他に相手が居るだろうに。今日の朝レシィアにさん付けしたのだって、アレ、試したんでしょ?」


 「いや、試したって言うか、学者って傲慢なのが多いから、どうかなって。それまでの、行動もあったし、返事は予想通りだったけど。……て、そんなことまで噂してんの?」


 「やっぱり試してたか。実はさ、僕たちの中で君って結構有名なんだよねー。だからさ、君の一挙一動が、実況中継されてるわけ。いやー、そろそろ話しに来るなってなって、誰が代表して話すかをもめてもめて大変だったんだからぁ。」


 空気は実に楽しそうな声で話すが、エンジュは反対にげんなりしている。

 自分の行動が全部実況中継されているなんて言われたらそれもそうだろう。

 たちの悪いストーカーと一緒である。


 「ちょっとそれは止めて欲しいな…」


 「だって、君の観察は、僕らの数少ない娯楽だよ?面白いことを聞くのも良いけど、いつ起こるか分からないし。その点、君観察は君が死なない限り、安定して楽しめる。長生きしてね♪」


 「黙れストーカー。」


 「お、調子出てきた!でさ、本題いいの?急がないとあの子やばいんじゃない?」


 言われてはっと気づく。

 空気のペースにすっかり呑み込まれていた。

 そして、知っていて長々と話しかけてきた空気を睨む。

 実体のない空気だけに、どこを睨めばよいかよく分からなかったが、敵意が伝わればいい。

 案の定、空気はエンジュの苛立ちに気づいたようで、慌てて弁解した。


 「ちょっとぉ、そんな恐い顔しないでよ!ちゃんと時間計算してたんだってば。いま君の質問に答える。そしたら君が帰る。ちょうどスカラが帰ってくるから、スカラに足りない薬草を取りに行かせればいい。君が急いで戻ったって、材料がないんじゃ何も出来ないじゃないか。」


 「余ってる材料で出来ることもあるじゃん…」


 「それは、スカラが薬草取りに行ってるときにやるの。君やることがなくなると意味もなく焦るからね。」


 何もかもお見通しな空気に、降参とばかりに溜息を一つつくと、エンジュは再び顔を上げた。


 「で、あの子どうすれば…。普通のインゴ熱に効く薬でいいの?」


 「基本はね。それを普通のインゴ熱の時の3分の4くらい用意して、蒸したセイキ草と、テングキの実を一緒にすりあわせる。これで薬は完成。あ、セイキ草は…」


 「しっかり蒸さないと、毒が抜けない。でしょ?」


 「正解!あとは安静にするしか薬はないね。あ、体は冷やした方がいいよ。あの状態じゃ温度あげても、菌は死なないから。」


 「分かっ……あ、あー、ねえ都市のほうで精製されてる、薬は…」


 「あんなのより、植物の命が入ってる薬草の方がよっぽど効くから大丈夫!」


 「分かった!じゃあ、行ってくる」


 「行ってらっさーい。時間あったらまた話してね…って、もう聞いてないか。」


 空気が呟いた通り、エンジュはもう走っていってしまい、もう背中が小さくなっている。







 そして空気は、もうエンジュが空気の声を聞けない状態に戻ったことを確認してから、呟いた。


 「しかし…レシィアはともかく、スカラはもうすぐ気づくよ。……どうするの?エンジュ。」


空気、なんか若干ウザイ…(笑)

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