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精霊の石本《ローザン・フェルス・レイ》~精霊の子と研究者~  作者: 星羅
怪しい薬師は実はすごいヤツだった!……かもしれない。
10/12

インゴ熱

 「えっと、簡潔にまとめると、娘の風邪が直らない?」

 女性が泣き止むのを待ち、話を聞いてみると、つまりはそういうことだった。

 「はい、もうかれこれ、一月ほど立っているのですが、症状が悪化していくばかりで…熱も薬を飲ませたんですが、全然熱が下がらなくて…」

 エンジュは少し考え込んで…

 「それって医者の?」

 「いえ、あの…。お医者様のは、高すぎて…」

 「…………チッ」

 エンジュは軽く舌打ちした。

 この女性の話が本当なら、状況はだいぶ悪いかも知れない。あの熱冷ましが効かない病気はいくつかあるのだが、どれも症状が重くなる物ばかり……。それに、一月前からということは……。

 思い過ごしだと良いけど…。

 「あの、何かまずいことでも…」

 エンジュが舌打ちした後、しかめっ面で黙っているので心配になったらしい。不安げに顔色をうかがっている。

 「や、大丈夫、すぐ行く案内して。スカラ、レシィア、ごめん。しばらく出発できなさそうだから二人で……」

 「待ってる。」

 最後まで言わせず、レシィアが即答した。さらにスカラが、

 「手伝う、たぶん……人手いるだろ。」

 どうも、スカラはスカラで、熱が下がらないという症状から病気の見当をつけているらしい。

 「…ありがとう。じゃ、行こう。人手は……要らないことを願うよ。」

 その言葉に、よりいっそう不安げな表情になりながら、女性は「こっちです…」と家へ案内してくれた。


 「…はぁ」

 エンジュは、部屋の中で、ぐったりしている少女を見てため息をついた。いや、つくしかなかった。まさかとは思っていたが…

 「……最悪の状況だ。」

 そう呟いた後、女性―セイスというらしい―に尋ねる。

 「これ、十日くらい前に、背中におっきな痣みたいなのでなかった?いくつか。」

 「あ、ありました。最初に黄色くなって、だんだん赤くなって……でっでも、今は治って…」

 「治ってるのか……だいぶまずいな…」

 「あの、治りますか?」

 おどおどしたセイスの声に、エンジュはいらだつ。

 そもそも…

 「熱出てからちゃんとおとなしく寝せておいた?安静にしてれば、これほどひどくなるのは珍しいんだけど。」

 声に若干険がこもる。

 おそらくこの子は…。

 「す、すみません…こんなにひどくなる前は、私の仕事を手伝っていました…。」

 その言葉にどうしようもないほど雰囲気が尖る。

 やっぱりちゃんとに安静にして無かったのか…。

 そして、口から出た言葉も、さっきと比べてもかなり険がこもっていた。

 「あのさぁ、病気のときは、安静にしておくのが、一番なんだよ。分かってる?薬だけ飲ませていればいいってもんじゃないし、そもそも…」

 エンジュが、最後まで言い終わる前に、遅れて入ってきたスカラが、頭に手を載せた。落ち着け、とでもいうように、少し力を加える。

 仕方なく言いかけた言葉を飲み込んで、セイスを見ると、彼女は可哀想なほどしおれていた。

 「少し落ち着いて、まわり見てみろ」

 スカラに小声で諭され……やっと気づいた。

 乱雑に放り出してある織りかけの布、少女の額に置かれている濡れたタオル、そして傷だらけのセイスの手に。

 エンジュは近くにあった水の入った大きめの桶に手を入れてみる。

 …冷たい。

 普通この辺りの田舎の町は、川を中心に出来る物なのだが、この町は珍しく、少しあるかないと川がない。

 こんな夏の暑い中、水はすぐ温まってしまうし、まして保冷器などは中央都市の、貴族と一部の裕福な家にしかない。

 つまり、セイスは水が温まるたびに、水の入った重たい桶を持って、川まで往復しているのだ。

 仕事も放り出して。

 ただ娘の身を案じて。

 「医者に診てもらうお金が必要だったんですよね?」

 スカラが優しく聞くと、セイスは力なく頷いた。


 「どうだ?」

 「たぶんインゴ熱。……………末期。」

 「この町封鎖してくる。」

 流石、スカラは話が早くて助かる。

 インゴ熱は、伝染性の病気だ。

 安静にしていれば大抵の場合重症化することは珍しいが、ひとたび重症化すると、最悪死に至る。そして一番厄介なのが、感染力がかなり強いことだ。そんな病気が一ヶ月近く放置されていたなら、もう町中に広がっているはずだ。

 「しっかし…、これ治るかなぁ…。」

 「エンジュ、エンジュっ!」

 エンジュが悩んでいるにもかかわらず、レシィアがやかましく話しかけてくる。

 が、かまっていられないのでとりあえず無視。

 「あんまりこれは見たこと無いんだよなー、って言うか、俺医者じゃな…」

 「エンジュ、エンジュっ!!」

 「うるっさいんだけど!ちょっと黙っててくんない!?」

 「何がどうなっているんだ?突然スカラは町封鎖してくるとか言うし…。リンゴがいったい何だというのだ。」

 「…………は?」

 エンジュは呆然とした。

 相方とのあまりの反応の差に。

 いや……、誰もリンゴの話なんてしてないし。


インゴ熱は、この世界の病気です。実在はしない…。感染力は、インフルエンザより強いです。



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