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水晶に導かれるエレナ  作者: たま


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選ばれる側

いつも読んでいただきありがとうございます。

他にも作品がありますので読んでもらえたら嬉しいです。

宜しくお願いします。

わたくしは、選ばれる側の人間だったはず…って、そう思ってたのよね。


ミーシャ・ルーベルト。

名門ルーベルト家の長女として、美貌、教養、社交性…どれも一級品だったと思うの。

そして何より、弟のカイルはわたくしの誇りだったわ。

愛してる? うーん、愛っていうより、わたくしの価値を証明してくれる存在って感じかな。

ちょっと照れくさいけど。


それなのにね。


エレナ・フォルティア。地味で、目立たなくて、凡庸な女。

どうしてあんな子がカイルの婚約者なのか、ずっと不思議だったのよね。


「いずれ切り捨てますよ」


カイルはそう言ってたから、安心してたの。



あの日、すべてが崩れ落ちた


王城。王太子殿下の御前。

完璧な舞台だったはずなのに。

あの剣が王太子に認められれば、我が家はもっと上へ行けるって思ってた。わたくしは勝利を確信してたの。


それなのにね。


映像。

あれは何だったのかしら。

どうして父の裏帳簿が映るの?

どうして賄賂の受け渡しが?

どうしてカイルの声が、あんなにはっきりと。


「利用価値があるうちだけだ」


違う。違う違う違う。

こんなはずじゃなかったのに。


あの女だ。あの女がやったのよ。


「罠よ!!」


叫んだ瞬間、王太子の視線がわたくしに向いた。

冷たい。氷みたいに。その瞬間、悟ったの。終わった、って。



崩れゆく世界


王命による調査は、本当に容赦なかったわ。

家宅捜索。

帳簿の押収。

使用人の尋問。

味方はいなかった。

昨日まで笑ってた貴族夫人たちは、今日には距離を取る。


「まあ、もともと怪しいとは思っていましたの」


嘘つき。昨日まで媚びてたくせに。


婚約の話も全部消えた。

侯爵家との縁談。

公爵家の次男。すべて、白紙。


問題のある家の娘


その烙印は、本当に重かったわ。



弟の旅立ち


カイルは地方騎士団へ左遷。

出発の日。わたくしは縋った。


「大丈夫よね? すぐ戻れるわよね?」


カイルは、わたくしを見なかった。


「姉上のせいでもある」


その一言で、世界が止まった。


「……え?」


「あなたがあの女を追い詰めた。余計な刺激を与えた」


違う。わたくしは守ろうとしただけ。あなたを。


「……勝手に守らないでくれ」


冷たい声。


わたくしの誇り。


わたくしの分身。


そう思っていたのにね。


馬車は去って行ったわ。


振り返りもしなかったわ。



社交界の裁き


没落したけど、完全追放にはならなかったの。


でもね。


招待状は来ないわ。


来ても、末席かしら。


ひそひそ声。


「あの時の」


「王太子殿下の前で」


「恥知らず」


ある夜会で、昔の取り巻きだった令嬢が笑ったわ。


「付与師様に逆らうなんて、ちょっと考え直した方がいいんじゃないかしら」


付与師様。


その言葉に、心がざわついたわ。


フォルティア家は王家御用達。


あの女は“奇跡の付与師”。


英雄。


才女。


誠実で慎ましい理想の令嬢。


――まさか。


あんな地味な女が?


わたくしより上?



最後の縁談


一件だけ、話が来たわ。


年老いた子爵。


五十を過ぎて、後妻を探しているの。


条件は明確だったわ。


「持参金は多めに」


我が家には、もうお金はないわ。


父は目を逸らしたわ。


「……これしかないわね」


わたくしは理解したわ。


売られるのね。


価値の落ちた商品として。


「嫌よ!!」


叫んだわ。


でも、誰も味方してくれなかったわ。


母は泣くだけ。


父は黙るだけ。


かつての栄光は、どこにもないわ。



街で見た姿


ある日。


王都の大通り。


馬車が止まり、人々が道を開けるわ。


そこから降りてきたのは――


エレナ。


以前より洗練された装い。


堂々とした立ち姿。


王家の紋章入りの馬車。


周囲の視線は尊敬。


憧れ。


羨望。


わたくしと目が合ったわ。


彼女は微笑んだわ。


勝者の余裕。


嘲笑ではないわ。


ただ、もう“相手にしていない”という目。


それが何より辛かったわ。


怒りもないわ。


恨みもないわ。


わたくしは、彼女の世界の外。



理解するしかないのね。


帰り道、ようやく気づいたわ。


わたくしは一度も、自分の力で立とうとしなかったわ。


家の名。


弟の才能。


婚約。


すべて他人の価値。


エレナは違ったわ。


黙って、積み上げていたわ。


誰にも見せず。


誰にも頼らず。


そして最後に、自分の力で立ったわ。


……だから負けたのね。


完敗だったわ。



転落の果て


子爵家への嫁入りは決まったわ。


華やかな式はないわ。


祝福もないわ。


あるのは契約書だけ。


鏡を見る。


そこにいるのは、かつて選ばれる側だった女。


けれど今は。


選ばれ残り。


売れ残り。


価値を測られるだけの存在。


ふと、思う。


もし、あの日。


あの女を見下さなければ。


もし、敵にしなければ。


違う未来があったのかしら。


でももう遅い。


水晶は、すべてを見ていたのだろう。


わたくしの傲慢も。


嫉妬も。


空虚も。


そして罰も。


馬車が動き出す。


王都が遠ざかる。


栄光の記憶だけを残して。


わたくしは、転がり落ちる。


誰にも惜しまれず。

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