水晶は見ている
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水晶はを見ている
ねえねえ、聞いて!わたくしの婚約者には、ちょっとした問題があったの。
姉であるミーシャ様が、弟であるカイル様をすごく大切に思っているのよ。
「弟に近づかないでくださる? あなた程度がとなりにいていい方ではありませんのよ」
って、初めてお会いした日の第一声だったんだけど、ちょっと強かったかな?
ミーシャ様は、カイル様を溺愛しているの。
溺愛っていうより、まるで自分のものみたいに思っている感じかな。
わたくし、エレナ・フォルティアはフォルティア伯爵家の長女。
家同士の取り決めで婚約しただけで、正直言って恋愛感情はなかったの。
カイル様も同じで、お互いに淡々と義務をこなす関係だったわ。
でもミーシャ様は違ったの。
「カイルは優秀なの。あなたのような凡庸な女では釣り合わないわ」
凡庸。
その言葉は、事実でもあったわ。
わたくしには、目立った才能がなかったの。
――あの時までは。
魔法付与という、ささやかな楽しみ
わたくしの唯一の趣味は「魔法付与」だったの。
武器や装飾品に、小さな魔力を込めるのよ。
少し切れ味がよくなる。少し疲れにくくなる。
実用性はあっても、派手さはないわね。
だからこそ、家族以外には秘密にしていたの。
「エレナ、それはなかなかの出来だな」
父は静かに褒めてくれたわ。
母も微笑んでくれたの。
それだけで十分だったわ。
婚約者に認められなくてもいいわ。
ミーシャ様に嫌われていても構わないわ。
わたくしには、わたくしの世界があったの。
水晶から聞こえた声
ある日、いつものように付与をしていると――
カツン、と音がしたの。
机の隅に置いていた小さな水晶。
祖母の遺品だったわ。
その水晶が、淡く光ったのよ。
「……風耐性、強化。対刃、軽減。魔力循環、最適化」
声が、聞こえたの。
透き通った、不思議な声。
幻聴かと思ったわ。
でも、試しにその通りに付与してみると――
明らかに違うの。
今までとは比較にならない完成度。
魔力の流れが滑らかで、暴走もないわ。
「……どういうこと?」
次に付与しようとすると、また声がするの。
「対炎、三重構造。媒介は銀。詠唱省略」
言われた通りにすると、通常の三倍以上の効果が出たわ。
わたくしは震えたわ。
怖さではないわ。
歓喜だったわ。
条件付きの声
やがて気づくわ。
声は「要求」を出すのよ。
「癒しを求む者へ、誠実であれ」
「強さを求む者へ、対価を問え」
意味がわからないことも多いけど、
その通りにすると必ず成功するんだって。
しかも、以前よりもずっと強力な付与ができるようになったんだって!
これは――祝福?
それとも試練?
どっちでもよかったかな。
わたくしはただ、楽しかったの。
商会での販売
父が言ったの。
「エレナ。これを商会で扱ってみない?」
フォルティア家は小規模だけど堅実な商会を持っているの。
名は伏せ、匿名で販売するのよ。
付与師の正体は秘密。
やがて噂が広まって。
奇跡の付与品
貴族、騎士、冒険者。
注文が殺到したの。
フォルティア家は潤ったわ。
そして。
ルーベルト家にも噂が届いたの。
婚約者からの依頼
「エレナ。父上から聞いた」
珍しく、カイル様が単独で来たの。
「例の付与師に依頼をしたい。仲介してくれ」
わたくしは静かに微笑んだの。
「どんな付与を?」
「王太子殿下への献上品だ。最高級の攻撃強化を」
王太子への取り入り。
家の格を上げるための切り札。
なるほどね。
そのために、わたくしを利用するのね。
「かしこまりました」
わたくしは頷いたの。
水晶が、微かに光ったの。
「――真実を映せ」
声がしたの。
珍しい、明確な指示。
わたくしは従ったの。
献上の日
王城。
王太子殿下の御前で披露される剣。
誇らしげなルーベルト家当主。
満足げなカイル様。
そして、わたくしを睨むミーシャ様。
剣が抜かれるの。
魔力が流れるの。
その瞬間――
空間に映像が映し出されたの。
剣に込められた“真実”。
それは、付与の核に仕込んだけんの記録。
そこに映ったのは――
ルーベルト家がこれまで行ってきた不正取引。
横領。
賄賂。
そして。
「この女との婚約は利用価値があるうちだけだよ。」
カイル様の声。
「いずれ切り捨てるわ。姉上、安心して」
はっきりと。
王太子の前で。
場は凍りついたの。
断罪
「これは……どういうことだ」
王太子の声は冷たかったの。
ルーベルト家当主は青ざめたわ。
ミーシャ様は叫んだわ。
「罠よ! あの女が仕組んだのよ!」
わたくしは、ただ一礼したの。
「わたくしは、依頼通り“真実を映す付与”を施しただけでございます」
嘘はついていない。
水晶の指示通り。
真実を映せと付与しただけなのに。
それだけ。
その後は早かった。
王命による調査。
証拠の山。
ルーベルト家は没落。
爵位剥奪。
財産没収。
婚約破棄
後日。
正式に婚約は破棄された。
理由は「相手家の不祥事」。
わたくしに傷はつかない。
むしろ――
「フォルティア家の付与師と正式契約を結びたい」
王家からの打診。
商会は王家御用達となった。
父は涙ぐみ、母はわたくしを抱きしめた。
噂によれば。
カイル様は地方の下級騎士団へ左遷。
ミーシャ様は縁談すべて白紙。
家を誇りにしていた姉弟は、何もかも失った。
そしてわたくしは。
今日も水晶と向き合う。
「……次は何を?」
水晶は、静かに光る。
「誠実であれ」
その声に、わたくしは微笑む。
もう、誰かに認められなくてもいい。
わたくしは、わたくしの力で生きていく。




