第2話 悪魔との契約
「ほんっっとーにごめんなさい!!!!!!」
さくらは両手を合わせながら、全力で頭を下げてくる。なんで謝ってきてるのかと言うと、「さっきのこと」で。俺はどんな反応をすればいいのかがわからなくなっていた。完全に思考が停止していた。あのあと「悪魔」と名乗るアイツは姿を消し、さくらは元の姿へと戻った。彼女は、自分の身に何が起こったのかがわかっていたようだった。
「えっと…」
「ビックリした…よね?」
ビックリしたというか、…なにが起こったんだ…?……まじで……
冷静に振り返ってみる。
さくらの体から突然翼が生えてきて、目は紅くなって、おまけに“口調”まで変わって…。“アレ”がさくらじゃないにしても、じゃあなんだって話になる。
悪魔…??
いやいやいやいや
「あの人は…、私の…友達」
「友達!!?」
「…いや、うーーん。他に適切な言葉が無いかもしれない…。例えば、もう一つの人格、とか?」
「えぇ…」
「彼女」は、ブーニベルゼと言っていた。さくらとは、“旧知”の仲だって。でも、その意味がよくわからなかった。
『契約』。
確かそんなことも言ってた気がする。はっきりとは聞き取れなかったけど。
「ごめんごめん!ちょっと違うかもしれない。友達とか人格とか、…今、変なこと言ってるよね?私」
「…多分」
「あぁぁ、どうしよう…」
あからさまに困っている。どうやら、さっきの出来事は彼女にとっては想定外の「問題」らしい。ずっと「秘密」にしてきたことだと、慌てながらに説明していた。
「…子供の頃から?」
「…うん」
「でも、今までそんなことなかったけど」
「だって隠してたもん」
「…まじ?」
「まじ」
ひどくバツの悪そうな顔をしてこっちを見てくる。仮にそれが事実だったとして、俺はそれをどう受け取ればいいんだろうか。頭の中がパニックだった。さっきよりは、だいぶ落ち着いてはきていたが。
「…えーーっと、つまり、なんだ…、悪魔と契約した…ってこと??」
「簡単に言うと…だけど」
「なるほど…」
いやいやいや、「なるほど」じゃない!
冷静になれ、俺。
なにがどうなってそうなるんだ??っていうか悪魔なんて存在するのか!?確かにさっきのアレは「人間」って感じはしなかった。奇妙な生き物もいたし、銃だって突きつけられて…
いや、だとしてもだ…
そんなことフツーあり得ないし、大体「悪魔」だぞ!?
100歩譲ってそういう存在がいたとしよう。幽霊や宇宙人がいるみたいに考えればいいだけだ。…問題は、それがさくらの中に「憑依」してるって話だ。
憑依ってなんだ…?
どういう状況なんだ??
…あーやばい、ますますわからん
「信じられないよね…?」
「…ま、まあ」
「…ほんとはさ、いつか打ち明けようとは思ってたんだ。彼女は私の恩人だし、頼れるお姉ちゃんみたいな存在だったから…」
彼女、——つまりブーニベルゼという悪魔は、さくらが5歳くらいの頃に彼女の前に現れ、それ以来そばにいたらしい。
そばにいたと言っても、最初は「夢」の中に現れていたそうだ。子供の頃だったから、記憶が定かではないらしい。ただ、彼女の中にいる悪魔、——「魔族」と呼ばれる怪物は人間の魂に干渉して現れるそうで、「契約」を交わせば、交わした人間の体を介して姿を持つことができるそうだった。契約とは“血の契約”と呼ばれ、互いの血を体内に取り入れることで、お互いの「世界」に干渉できるようになる。
…と、ここで俺は頭を抱えた。
情報量が膨らみすぎていたからだ。
「ちょっと待て!」
「はい」
「血の契約!?どうやってお互いの血を!??」
「それがあんまり覚えてないんだ…。気がついたら、彼女が私の体に入ってて…」
「覚えてないって…」
「でも、安心して?一般人には危害を加えない。それに、私の知り合いには手を出せないはず。契約の条項にあるから」
彼女は必死に説明していた。どうやら、あの悪魔は相当危険な存在らしい。直接そう言われたわけじゃないが、彼女の態度でなんとなくそう感じた。
そもそも「契約」とは…
話がぶっ飛びすぎててビビる。ようは、さくらの体の中に“入ってる”ってこと?
…そういうことだよな?
ちゃんと理解できてるかどうかは怪しいが…
「…怪我…してないよね!?」
「それは全然大丈夫だけど」
「彼女にはキツく言っとくから。もう出てこないでって」
「…お、おう」
ご立腹のようだ。
どうやら、あの悪魔が出てくるのは想定外中の想定外だったっぽい。契約の条項とやらに入ってるみたいだった。生活の中で決めている「禁止事項」。今回の場合で言うと、“人前で無闇に姿を現さない”という項目が。
「…なんで、悪魔と契約を?」
「だから、それは私にもよくわからなくて…」
「さっきのアレは、“幽霊”みたいなもん…?」
「…いや、ちょっと違うかも」
「詳しく聞かせてくれない?」
「…わかった」
さくらはそこから詳しい経緯とあの悪魔にまつわる話を教えてくれた。夜中の1時だった。
◇◇◇
さくらの体の中に入っている悪魔、——ブーニベルゼは、正式な名称で言うと魔族と呼ばれる魔界の生き物の一種であり、その中でも、“灰の大陸”にある都市、火の王国カリギュラの「次期プリンセス」だということが、話の流れの中でわかった。
この世界には「魔界」と呼ばれる世界があり、俺たちが住んでいる「人間界」とは、対をなす世界だそうだった。ブーニベルゼ曰く、この星には元々魔界しか存在しておらず、人間界はいわば魔界が生まれた後にできた世界らしい。かといって、「魔界」がこの地上のどこかにあるわけでもなく、ある特殊な「ゲート」を介さない限りはその世界には行けないそうだった。
魔界にはそれぞれ「火」「空気」「水」「土(地)」の4つのリゾーマタ(古代ギリシア語: ῥιζὤματα、「根の物質」の意)があり、それぞれが自然の原子力を司っている。
かつて大陸は1つだったが、第一次魔大戦後に2つに分離、『風の大陸』と『灰の大陸』に分かれ、それ以来数千年も戦いが繰り広げられてきた。
9つあった国は5つになり、今では灰の大陸を拠点にする軍事国家「ニブルヘイム」と、風の大陸に鎮座する古の国「ユグドラシル」との争いが激化していた。
ブーニベルゼは灰の大陸にある「火」のリゾーマタを守護する国に生まれていた。
火の王国カリギュラはガルーガル大平原の中央に位置し、リフテム要塞と呼ばれる溶岩石で覆われた堆積層を城壁にしていた。カリギュラはニブルヘイムを中心とした軍事同盟に於ける主要国家の1つであり、「十二神将」と呼ばれる精鋭部隊を育成&派遣していた。
ブーニベルゼは一国の王女でありながら「十二神将」の第七師団インドラの将官を務めており、神槍グングニルを扱う。その実力は十二神将の中でもトップクラスであり、次期魔元帥(十二神将を纏める総大将)の候補にも挙がっている実力者だった。
魔法暦4009年、——十二神将はある前線への派遣の要請に応え、第二、三、七の師団をある目的地へと移送していた。
その目的地は「ウルドの泉」と呼ばれる場所だった。
時の草原にそれは位置し、原始大海と呼ばれる“全ての生命の記憶“が集う世界樹の根の下に、泉は存在していた。
世界樹“アース”は霧の王国ガーデンの中心に鎮座していた。ガーデンは時の草原の内側に存在する国で、“永世中立国家=龍の棲み家“と呼ばれていた。時の草原の“外側”には四風守護と呼ばれる四つの塔が存在し、北のディアボロス、南のリヴァイアサン、東のイブリース、西のバハムートの竜たちによって守られている。
ガーデンには龍神族と呼ばれる古代人がおり、世界樹アースとウルドの泉を保護するため、数千年も前からその「責務」と「義務」を全うしていると言い伝えられてきた。
世界樹の根の中に眠っている旧世界の遺物、——“運命の書”と呼ばれる秘宝を。
しかし、東の塔の守護者であったイブリースが何者かによって殺害、討伐され、一時的に時の草原へのゲートが解放されてしまう。
東の塔は灰の大陸沿岸部のオリオン洋に存在しており、ガーデンとニブルヘイムは時の草原の海峡付近で貿易を行う国際的な関係を築いていたため、直ちに調査部隊を派遣することを同盟諸国に依頼していた。
その1つの部隊に選ばれたのが、「十二神将」だった。
ブーニベルゼが人間界にやってきたのは、どうやらその派遣先である東の塔内部の調査中に、ある「出来事」が起こったことがきっかけらしい。詳しくは彼女も聞かされていないらしいが、人間界に行くためのルートは限られているらしく、魔界と人間界との境界線が世界樹の根の下にあるという「話」だけは、子供の頃に教えてもらっていた。
ただ、どういった経緯で人間界に来たのかだけは、いまだに知らないみたいだった。人間界に来た「目的」自体は、ハッキリしているそうだが。
「ある“魔族”を追っている…?」
「…魔族というか、今、人間界で大変なことが起こってるらしくて」
「大変なこと?」
「うーんと、彼女が言うにはね、「ウルドの泉」っていう泉の中に流れている生命の記憶の中に、”入っちゃいけないもの“が入ったみたいで…」
「入っちゃいけないもの…」
「人間の魂の中にそれは干渉するみたいで、魔界ではその物質を「黒潮」って呼んでるらしい」
「…ふーん」
「それが入ってしまったせいで、世界が今少しずつ”腐食“してるっぽい」
「腐食!?」
「彼女はその腐食を止めるために、こっちに来てる。黒潮が流れてる”元凶“を断ち切るために」
『元凶』
それは”外”の世界からやってきたそうだった。俺たちが住んでいる星の外、星海の深淵から。
「大魔導士ゼロムス。彼女は“彼”をそう呼んでるの」
「…なに…それ…」
「人間界を支配し、魔界との境界線を壊そうとしてるって」
「…ハハ」
俺は当然、彼女の話を信じなかったわけじゃない。少なくとも、信じようとはした。それ以外になかったからだ。さっきの出来事を頭の中で整理するには。
だけど…
朝が来るまで、耳を傾けてた。
耳の中に入ってくる意味不明な言葉たちは、どれも現実のものとは思えなかった。
…なんだよ、“プリンセス”って
魔導士ゼロムス?
人間界の危機…?
どれも正気の沙汰とは思えない。信じる信じないの問題じゃなくて、まず、理解ができなかった。順を追って整理しようとした。
でも、…ダメだった。
考えば考えるほどどうにもならなかった。
一旦この話はやめようってことで、俺たちはそれぞれ床に就いた。
外はもうじき、明るくなり始めようとしていた。
◇◇◇
旅館でのあの出来事以来、俺とさくらは少し疎遠になっていた。仲が悪くなったとかじゃなくて、なんとなく気まずい雰囲気っていうか。
「おっす!ユウト」
「…痛った。なんだよ朝から」
後ろ頭をガシッと掴まれ、何事かと思いながら振り向く。朝から元気に挨拶してくるのはクラスメイトの菅原孝太。部活の仲間で、中学からの連れでもある。
「で、どうなったんだよ??」
「はあ!?」
「夏休み。行ったんだろ?温泉旅行にさ」
どこでその情報を仕入れたのかは知らないが、お前に話す義理はない。夏海に言ったのが不味かったな。絶対情報源はアイツだろ…。秘密にしとけよって言ったのに。
「なんでお前が知ってんだよ」
「なっつんに聞いたんだよ。大丈夫。今んところ俺となっつんしか知らんから」
「広まったら殴るからな?」
「大丈夫大丈夫。なっつんだって俺だから喋ってくれたようなもんだし」
そもそも俺が許可してないのに広まってること自体が問題なんだが?
…まあいいや
どうもこうもないっつーの。旅行自体は楽しかったぜ?さくらも喜んでくれてたし。
「…なんもなかったん?」
「どういう意味…?」
「男と女が一つの部屋で夜を共にしたんだろ?やることは1つじゃねーか!」
この猿が…
だからお前は童貞なん…
って、俺もか。
あわよくば卒業できたような気もするが、まさか、あんなことになるとはね…
「浮かない顔だな?」
「んー?」
「まさか、ほんとに何かあったとか…?!」
「なんもねーよ」
「…ふー。だよな。良かった」
何安堵してんだコイツ。
…それにしてもどーすっかなー。最近じゃ、ろくに連絡も取ってなかった。そもそも俺とさくらじゃ校舎も違う。すれ違うとしたら校門だが、生憎今日はすれ違えなかった。
ま、別にコソコソするつもりもないんだが、さくらのやつすっかり傷心しちまってさ?慰めようにもわからないんだ。俺は俺で、まだ整理が追いつかなかったし。
「この色男。寝癖がついてるよ?」
「テメー」
夏海のやつ、なんの悪びれもなく登校して来やがった。なんで孝太に喋ったんだよ。言っとくけど、コイツ口がすげー軽いんだからな?学校中に広まったらどうするつもりだよ…
「で、結局どうなったの?ラインも返信ないしさぁ」
「なんもねーっつーの」
「だってさ?」
「何嬉しそうにしてんの孝太」
「だって先に童貞卒業されたくねーし」
朝から下品な会話をするな。孝太と夏海は小学生からの幼馴染だ。家も近いし、時々3人でバーベキューもする。今年の夏休みもそうだった。花火大会の後に夏海の家でバーベキューをした。スーパーで大量に肉をカゴに入れて、急遽お金が足りないことに気づいて…
今年のバーベキューは4人だった。
俺と孝太と夏海。
あと、さくら。
話を持ちかけたのは夏海だ。元々4人で遊ぶことはなかったが、夏海とさくらは時々武道館で鉢合わせることがあるみたいだった。夏海は弓道部。さくらは茶道部。2人とも部活の練習場が近く、お互い文化部ってことで気が合うみたいだった。弓道はどっちかって言うと運動部か?まあ、似たようなもんだろ。俺たち剣道部も、「スポーツ」か「武道」かで分かれるし。
「なあ、夏海。悪魔って信じる?」
「はあ?悪魔??」
「…いや、その、いるじゃん、翼が生えてるようなやつ…」
「それが、何」
「信じるかって聞いてんの」
「…うーん?ちょっと意味がよくわからないんだけど」
「…もういい。孝太は?」
「え?」
「悪魔。信じる?」
「悪魔ぁ?…悪魔って何?幽霊なら信じてるぞ?見たことあるし」
はいはい。
この際幽霊でもなんでもいい。俺が聞きたいのは、超常的な存在がいるか?って話だ。2人とも首を傾げてた。まあ予想はしてた。なんて聞くのが正解かもよくわからん状況だ。ジッちゃん(※ユウトの師範でもあり、父親代わりでもある祖父)に聞いたけど、答えは曖昧だった。
「悪魔なんてものは、心の持ちようでなんとでもなる」とかなんとか…
そういう話じゃねーっつーのに…
あの時起こったことを誰かに話すつもりはなかった。口止めされてるわけじゃない。ただ、今まで秘密にしてきたことだったらしいから、喋っちゃいけないかなとは思ったんだ。喋ったところで、誰も信じてはくれないだろうが…
「そういえばなっつんは?」
「え、何?私?」
「夏休みに東條先輩とユニバに行くって言ってなかった?」
「…ああ」
「どうなったん??」
そうだ。確かそんなこと言ってたな。ユニバに行ったのか?
東條先輩というのは1学年上の先輩で、野球部のキャプテンだ。控えめに言ってめちゃくちゃかっこいい。かっこいいっつーか、清涼感の塊?あくまで男目線で評価すると。
「楽しかったよ」
「…なんだそのビミョーな感想は」
「そう?」
「もっとこう、なんか無いの?超楽しかったー!!!みたいなさ?」
「語彙力無さすぎ。楽しかったって言ってんじゃん」
…全然そんなふうに見えないんだが?めっちゃ楽しそうにしてたよな?ダイナソーは絶対乗る!!」とかなんとか。
「絶対付き合った方がいいって」
「なんでそんな話になるの?」
「…え、逆にそういう話にしかならなくね?」
「先輩はいい人だよ。話しててもおもしろいし」
「付き合わない理由がねーじゃん!」
「だーかーら…」
孝太は納得してないみたいだった。気持ちはわかる。俺もてっきりそういう話になるのかと思ってた。でもそんな感じじゃなさそうだった。東條先輩の方から誘ってきたって言うから、告ればうまくいきそうだけどな。それか、あっちから告ってくるとか??
「…告られた」
「え、まじ!?」
「うん」
「返事は??」
「保留中」
「えぇ…」
保留中??なんで?!
理由は教えてくれなかった。なんか、深い事情があるみたいで
「たのもー!!」
教室のドアがガラッと開く。騒然とするクラス。ドアの方を見ると、空手部の先輩が。
「葛城ユウトはいるか?」
…げ
またかよ…
俺は「ヤツら」を知っている。孝太や夏海も同じく。
まさか教室まで来るとは…
ってかこれからホームルームなんだけど??空気ってものが読めないのか?このアホ共は。
「試合を申し込みたい」
「…はい?」
「わかっているだろう?貴様の土俵で戦ってやろうと言っている」
「これからホームルームなんですけど?」
「そんなことは知っている。今日の夕方5時だ。わかっているな?」
…なんなんだよ
コイツらは通称『葛城ユウト討伐隊』と言われている。空手部に柔道部、あとボクサーとかラグビーとか運動部全般の奴らだ。なんでそんなふうに呼ばれてるのかって言うと、全ての元凶は「アイツ」にある。
さくらの妹。
龍宮寺陽菜。
お姉ちゃん大好き人間で、自分以外の人間のほとんどをゴミだと見做している外道。さくらに対する溺愛度は半端なく、いずれ龍宮寺家の別荘でさくらと生涯を共にしたいと考えているとんでもシスターだ。その化け物ぶりは凄まじく、さくらが寝ている部屋に夜這いを仕掛けようとするほどの逸材。
どうも、俺とさくらが付き合っていることに納得がいっていないらしく、次々と刺客を送り込んでくるんだ。喧嘩っ早い野蛮人共を招集しては。
ホームルームの時間が来て先輩はそそくさと帰っていったが、すごく迷惑だ。話があるんなら直接言いにくりゃいい。わざわざ「刺客」なんて雇わなくても。
龍宮寺家のファミリーは変な人が多い。
さくらには悪いけど、唯一まともなのはさくらとさくらの家にいる家政婦の葉子さんくらい?
葉子さんに至ってはそもそも血筋じゃないから「龍宮寺家」という括りにするのはおかしな話か…
となるとまともなのは「さくら1人だけ」ということになる。
さくらの兄弟は全員で4人いて、4人とも女性だ。
さくらは三女で、上に2人いる。
上の2人は上の2人で曲者だった。
1人は今全国を放浪中で、なんでも全国のラーメンを食べ尽くす計画を立ててるとか。そしてもう1人は『極悪鬼』という暴走族の初代族長で、その金脈と腕っぷしで渋谷一帯を手中に納めてるらしい。直接会ったことは何度かある。話したことはないが、…まあ、厄介そうな雰囲気だった。
金持ちの家系ってのは皆ああなのか?
そう思ってしまうくらい、独特な存在感を放っていた。
「あーもうめんどくせーなぁ」
「またなの!?」
「みたいだが?」
「この前やっつけてなかった??」
「櫻坂高校の奴らだろ?一応剣道部だったみたいだが、話にならん」
…全く。
俺の土俵で勝負してくれるのはいいが、大体が雑魚なんだよな。龍宮寺陽菜の触手は県外にも及び、そこら中の他校の男子生徒を傀儡のように操っている。どこからそんな人脈が湧いてくるのか知らんが、その人脈を他に活かせばいいのになって思う。ちょっとした企業を立ち上げることもできるんじゃないか??それか大規模な事前活動とか。
もっと人のためになることをすればいいのに。
俺を倒すためだけに人をかき集めんでも…
「でもさ、冷静に考えたらヤバいよね…。もし一斉に仕掛けてこようもんならひとたまりもないよ?」
「間違いなく死ぬな」
「ああ、それは大丈夫」
「え!?なんで??」
「“流儀”に反するらしい」
「流儀???」
「あくまで一対一の勝負。さくらに見せつけたいみたいなんだ。俺が負ける姿を」
こう見えて俺は全国大会で一位の実力者だ。「剣道」という道に関して言えば、誰にも負けない自信がある。俺は子供の頃からジッちゃんの背中を見て育ってきた。ジッちゃんは警視庁剣道の歴代師範の1人で、その実力は歴代最強と言われている。俺はその背中を見てきて、ただひたすらに「最強」になりたいと思い続けてきた。言っちゃなんだが、そこらへんの剣道経験者なんかに負ける要素なんてない。ましてや、竹刀も触れたこともないような奴らに負けるわけがない。剣道じゃない方法でって言われたらヤバいけど…
「どうすんの?」
「どうするもこうするも、行くしかないだろ」
「断ればいいじゃん」
「そんな簡単な問題じゃねーの」
「ふーん」
「さくらの妹は案外筋を通すんだよ」
「筋?」
「…なんつーの?お姉ちゃんに嫌われたくないらしい」
「へぇ…」
「筋違いなことはしたくないんだってよ。喧嘩は吹っかけてくるが、どれも正面切っての喧嘩だ。一対複数とか、負けを認めないだとか、そんなのはとくにない」
「まず喧嘩を売ってくるのがどうかとは思うけどね」
「まーな」
「さくらに言えばいいじゃん。困ってるって」
「余計なこと考えさせたくないんだよ。ようは倒せばいいんだろ?」
「はー。立派ですこと」
「ユウトは昔からそんなだよ。自分で解決しようとするんだ。他人に頼るのが嫌いでさ?」
…別にそんなんじゃねーけど、めんどくさいだろ?さくらに頼んだところであの妹は納得しないだろう。それにわざわざ俺の土俵で戦おうとしてる。ご丁寧に公平な審判をつけて、だ。部活の練習ついでだし、逃げる理由もなかった。対戦を断って、裏からコソコソつけられるのはマジで勘弁なんだ。だったら、相手が納得するまで付き合ってやった方がいいだろ?今のところ、負けたら退場していくんだから。




