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魔王、女子高生に転生する。  作者: 平木明日香
第1章 スカートとパンツ
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第1話 悪魔とは!?



「じゃあ、脱がすぞ…?」


「…ん」


俺は遂に一線を越えようとしていた。付き合ってはや一年。高校2年になって初めてできた彼女と、バイトで貯めたお金ではるばる愛媛まで温泉旅行に来ていた。温泉好きの彼女のためにとプランを練って、デートの計画をもう一か月以上前から立てていたのだ。


デートはうまくいった。


怖いほど、順調に…


俺は今彼女と暗い部屋で2人きり、燃え上がるようなシチュエーションの中にいる。熱い心臓の鼓動を感じている。背中には、変な汗が。


 ハア、ハア


なんなんだこの緊張感は。トントン拍子とはこのことだった。いや、別にヤりたくて温泉旅行に誘ったわけじゃない。俺もまさかこんなことになるとは思わなかったんだ。付き合って1年とはいえ、今までキスさえしたことがなかった。


それがどうだ?


今日は天気も良く、街を散策するには最高の散歩日和だった。城を見るのが好きな彼女に連れられ、松山城を見て回った。人の行き交う温泉街に、道後ハイカラ通り。路面電車に乗って、港まで歩いたんだ。いよかんソフトクリームを口に頬張り。


思えばあっという間の1年だった。今まで彼女なんてできたことなかったのに、突然告られたんだ。訳が分からなかった。返事を一旦保留にさせてもらったくらいだった。何かの罰ゲームかと思って。


俺の彼女、——龍宮寺さくらは、あの三葉財閥の令嬢で、学校では誰もが羨む存在だった。学校は三葉ホールディングスが経営している私立学校で、基本的には金さえ積めば誰でも入れる。しかし学科やコースにはいくつかの種類があり、超難関の普通科特進コースはかなりの学がないと入れない。


偏差値は70前後。偏差値70は、上位から約2.28%の学力層だ。100人中3人未満の、まさに最上位の学力レベルということになるが、どうせコネでも使ってそのコースに入ったんだろうと、俺らの間ではもっぱら噂だった。


ただ、俺は彼女が、決してそこに“ズル”で入ったわけじゃない事を知っている。彼女には「夢」があって、今も直向きにそれを追いかけているということ。親に反対されながらも自分の道を歩いていること。だから俺は、気晴らしにでもと思って温泉旅行に誘ったんだ。この「場所」には、彼女の憧れの人がいたから。


勉強ができて金持ちで、オマケに美人。『高嶺の花』とはまさに彼女のことだが、俺は別にそんなことはどうでも良かったんだ。彼女からの告白は最初断った。


“好きになった相手と付き合う”


「関係を築く」ってのはそういうもんだと、俺は思ってた。だから友達からって言ったんだ。その次の日からだった。積極的に話しかけてくれるようになったのは。


俺と彼女の馴れ初めをベラベラと自慢する気はない。俺が言いたいのは、俺たちがいかに“健全な”カップルかってことで、ヤッたとかヤッてないとかのくだらない色恋沙汰とは無縁だって話だ。


「今」もそうだ。こんな展開になるとは思ってもみなかった。部屋の中で一緒に映画を見て、他愛もない話で盛り上がってた。そっと彼女の手が触れて、はだけた浴衣がそこにあった。顔を近づけてくる彼女がいた。一瞬どうしようかと迷ったけど、拒否る理由もなかった。



キス。



人生で初めての体験だった。コツンと、歯と歯がぶつかってしまった。テレビとかでしか見たことがなかった。見よう見真似だったんだ。きっと、——彼女も。


唇に触れた時、硬直する体がお互いにあった。心臓がバクバクだった。次にどうしていいかも分からず、終始ドギマギしていた。柔らかい感触が、頭の奥に突き刺さった。


何もかもが初めてだった。


撫でるようなシャンプーの香りも、目眩がするほどの甘い感触も。


彼女の手が、首の後ろに伸びてくる。


「来て」


そう言われた気がした。だから彼女の腰に手を伸ばした。固く結ばれた帯の縫い目が、指の先に絡んで。



白い肌に、透き通った髪。


首の根本に顔をうずめる。


息を吹きかけると、微かな声が聞こえた。



もう十分すぎるほどに大人びたその体は、俺には刺激が強すぎた。だからできるだけ直視しないようにした。必死に自分に言い聞かせた。


“ガッカリさせちゃダメだ“って、ただ、——なんとなく。


不思議なもんだなと思った。俺だって男だ。エロ本だって見るし、友達同士下ネタで盛り上がったりもする。だがいざこうして本番を迎えると、意外と理性が働くもんだと思った。彼女の裸を想像してなかった?って言われたら、そりゃ嘘になる。想像したりもした。いつか、こういう時が来るのかもって。



 パサッ



帯をほどくと、彼女の身体が露わになった。胸の上にあるホクロと、水色の下着。彼女は恥ずかしそうに腕で顔を隠してた。俺はブラジャーのホックに指をかけた。


次のプランなんて、なにも考えてなかった。



「おい」



ホックを外して、ブラジャーを剥がそうとしていた。ヘソの近くに顔を近づけ、おもむろに舌を出し…



 ガッ



突然彼女の腕が、俺の首元を掴む。喉仏が勢いのあまり奥に引っ込む。首の骨が曲がる音がした。


グラッと、脳が揺れ——



「ファッ!?」



思わず声が出てしまった。


唐突すぎて訳が分からなかった。


視線の先には、頬を赤らめれている彼女の「顔」が。



…なんか、怒ってる?



ものすごく深く、眉間に皺が寄っている。ホックが外れてこぼれそうになっている胸を右手で隠しながら、左手は、まっすぐ突き放すように俺の顔を持ち上げていた。


その勢いのまま、皮膚に爪が食い込み。


「貴様、今何をしようとしているかわかっているか?」

 

…な、な、何を…?


そりゃ、決まってるだろ?


俺たちは…今…


「…さ、さくら…?」

 

頭の中が真っ白になる。だって、今すごくいい感じだったじゃないか…?


…え、違う…??


なんでそんな怒ってんだ?


服を脱がしたのがまずかった?


…それとも、触っちゃいけないとこでも触った!?


「…人がスヤスヤと眠っている時に、貴様というやつは」


スヤスヤと眠る?


何を言ってんだ…?


今、俺たちは…


「ちょ…、痛いって!」


なんだ、この握力…


とても女の子とは思えないほどの力が、首の根本にあった。さくらは160センチを越える高身長だが、スポーツをやってるわけじゃない。白い肌に、華奢な体。胸は思いのほか大きいが(あんまり関係ないかもしれないが)、決して、男1人を封じ込めるだけの「力」はない。


それがなんだ?


この「腕力」は…


「当たり前だ。「私」を誰だと思っている」


「誰」って、さくらだろ??


急に人が変わったような口調で俺のことを睨む。


……絶対に何かしくじった。


もしかして、舌を出したのがまずかった…??


パンツは目と鼻の先だった。


さすがに理性がぶっ飛びそうだった。


痩せすぎてない程よいお腹の弾力に、スベスベな、風呂上がりの手触り。


抵抗する素振りなんて彼女にはなかった。


それなのに…


「貴様が宿主の「恋人」でなければ、首が吹き飛んでいたところだぞ?」



…宿…主…?



ますます訳がわからん。


あまりに苦しいから両手で彼女の手を引き剥がそうとした。


でも、ダメだった。



 バンッ



部屋の壁に追いやられ、さくらは下着姿のまま仁王立ちしている。俺は床にへたり込んでいた。…というか、無理やり押し倒されたと言っていい。ブラジャーのホックを付け直している。けど、浴衣を拾おうとする素振りはない。ズカズカと近づいてきては、ヤンキー座りをして額に“あるもの”を近づけてきた。


「誰が許可をした?」


「…だ、誰…って…」


「今日は“デート”だと聞いていたが、貴様らはまだ付き合って一年くらいだろう?それに高校生だと聞いている。それなのになんだ、これは」


な、なんだと言われましても…


状況がうまく整理できない。確かに俺たちは高校生だ。付き合ってまだ一年しか経ってない。それに「デート」だって、数える程度のものだ。言われてみれば確かに、今日の行為は先走りすぎていたとも言えるかもしれない…



…と、言いましてもですね



「わ、悪かったって…!」


「「私」が出てこなければ、どこまで進んでいたんだろうな?」


言ってる意味がわからない。何もかも謝るって…!行き過ぎてたと俺も思う。今思えば、キスをしたのだって半ば強引だった。…いや、「強引」って言うと語弊があるな。なんとなくというか、そういう「雰囲気」だったからさ…


スッ


さくらは鞄からある「物」を取り出していた。それは俺もよく知っている物だった。


“知って”はいる。


けど、「それ」は、日常的というにはあまりにもかけ離れた物だった。


「…それ…」


「これは“魔弾”と呼ばれる特殊な弾丸が込められている「銃」でな。下級魔族なら頭で撃ち抜くだけで事が済む。もちろん、「人間」にもな」


…は?


ま、まだん…??


俺が目を疑ったのは、それが明らかに「銃」の形状をしていたということ。彼女が言うように、それが「銃」であることは間違いなかった。


…でも、なんで…?


「エアガンか、それ…」


「レプリカに見えるか?貴様で試してやってもいいんだぞ?」


額に突きつけられる。銃口がおでこの皮膚の上に接触する。


…さっきから目のやり場に困ってしょうがなかった。


さくらとはもうなんでも言い合える仲だ。海で一緒に泳いだりもした。…だけど、下着姿で至近距離に近づいて来られると、どうしても…


「どこを見ている?」


うぐっ…


ついパンツの方に目がいきそうになり、視線を逸らす。彼女は銃口を口の中に突っ込んできた。ゴツゴツして、鉄の味がする。


「この一年貴様のことは見てきたが、宿主に相応しい人間であるかどうかは「保留」の段階だった。この意味がわかるか?」


「…モ、モガモガ(わ、わかりません)」


「仮に相応しい人間であると認めたとしてもだ。宿主の体に触れるということは、私の「体」に触れるということでもある。そんな傲慢不遜な行為が許されるとでも?」


喋りたいが喋れなかった。さくらとは思えないほどの威圧感。なんだ、このピリピリとした空気。背筋に悪寒が走る感覚が、ゾゾゾっと這い上がってくる。


「目」が本気だ。


本気で怒っている。


…でも、さっきまで一緒に笑い合ってた仲だろ…?


そこまで怒らなくても…


「貴様に忠告しておく。私と宿主は対等な関係にある。すなわち、宿主と私は一心同体であり、お互いがお互いの「時間」と「空間」を分け合うものだ。今、この瞬間に於いてこの「肉体」の主導権は私にあり、そのテリトリーも私の手中にある。今度私の「許可」なしにこの体に触れてみろ?2度と触れる事ができぬよう、まずはその指を切り落とす」


…言ってる事が恐ろしすぎる


一体どうしちまったんだよ!?



…まあでも、確かに「許可」は得てなかった。単なる雰囲気で袴を脱がしてしまったことは事実だ。


そりゃそうだよな…


仮にも俺たちは高校生なわけだし、成人するにはまだ一年足りない。常識がないのは俺の方だったのかもしれない。いや、さくらが悪いって言ってるわけじゃなくて、この「状況」そのものにだな…


「…ご、ごめん」


「わかればいい。さくらが幸せなのであれば、私も2人が付き合うことには異論を立てまい。好きに談笑し、豊かな時間を過ごすがいい。だが、わかっているな?2度はないぞ」


さっきから言ってる事がよくわからんが、彼女が言いたいことはなんとなくわかった。ようするに、ちゃんと「許可」を得て段階を踏めってことだろ?


重々承知しました。


反省します。


「そうそう。自己紹介が遅れていたな。私はブーニベルゼと言う者だ。宿主とは旧知の仲でな。貴様とは、こうして出会うのは初めてだ。今後出会うことはあまり無いかもしれんが、この名を教えておこう」



…は?


…ブーニ…ベルゼ…?



訳がわからない。


「宿主」ってのもそうだが、自己紹介??


なんでそんなことを急に…



 ゴオッ



突然、部屋の中で吹き荒ぶ風。机の上のお菓子が吹き飛び、カーテンが舞い上がる。ベットのシーツはクシャクシャだ。床に脱ぎ捨てられた袴もそうだった。暴れ回る大気のように、部屋中が揺れ動く。


「風」の中心は、彼女だった。


向かい風で持ち上げられた前髪の先で、空気が震えている。



…なんだ


…一体、何が…



物が持ち上がるほどの風圧にやられ、目を閉じてしまった。反射的に翳した手。その指の間から、恐る恐る瞼を開く。



そこには、信じられない「物」が。




 「…翼…?」




透き通った白い肌。


水色の下着。


スタイル抜群で、恥ずかしがる素振りもない。


一喝した俺を見下ろすように佇んでいた美しい彼女の「姿」が、“一変”していた。黒くしなやかなロングストレートヘアー。その黒髪は銀髪に変化し、耳はエルフのように尖っていた。瞳は紅く、鋭い。



 そして、何より——



背中には黒い翼が生えていた。


部屋中に舞い散る漆黒の羽根。


その「姿」は、人間と呼ぶにはあまりにもかけ離れた禍々しい容貌をしていた。


肌の色は変わっていない。体つきも、下着姿もそのままだ。


だけど、“わかる”



「人間」じゃない



その“印象”が、ありありと瞳の中に焼き付いていた。


今まで感じたこともないような気配が、脳内に駆け走り。


「…な、な…」


「驚いたか。まあ、無理もない。だがこうするのが一番手っ取り早かろう。言葉では、うまく理解できんだろうからな」


理解が追いつかなかった。


…一体なんだ…これ…


彼女は不敵な笑みを浮かべている。ビビる俺を見下ろしながら、堂々と腕を組んでいる。


凛とした立ち振る舞い。


圧倒的な存在感。


その“何もかもが”、さくらとはかけ離れていた。


 

突然「姿」が変わった。


見た目が変わったとかじゃなく、姿、「そのもの」が。


コスプレなんかじゃない…


かといって、別の人間が現れたわけでもない。


目の前に現れた“もの”がなんであれ、異常な出来事には違いなかった。



…だって、翼だぞ…?


翼が生えてるんだぞ…??


目は紅いし、ツノみたいなものまで生えてる。



人間…じゃないよな!?


どう見てもそうだよな?


じゃあ、なんだ…?


なんなんだ、これは…



「この姿は私の完全な「姿」ではない。だが、十分だろう?改めて挨拶させてもらうが、「私」は人間ではない。数ある魔族のうちの1人だ。…ふむ、そうだな。人間界で言うところの「悪魔」と言った類のものか?なんにせよ、人間ではない」


一度考えたように言葉を選び、そう説明する。



…いや、いやいやいや


悪魔?


悪魔ってあの!?


人間じゃないって当たり前のように言うけど、冗談…だよな?


悪魔なんて存在するわけないだろ…?


なんで急に見た目が変わった?


大体その「翼」は?


なんで、尻尾が動いてる…?



ってか、尻尾!??


見れば見るほどあり得ないんだが…



…え、これ、現実だよな…?



「…ふむ。少々驚かせすぎたか。案ずるでない。話が終われば元の姿に戻る。それに、この姿だと色々と不便でな。契約に差し支えるのだ。さくらはああ見えて神経質だからな」

 

「ブーニベルゼ様。人間の前で姿を変えるのは御法度ですよ?さくら様との契約でも、注意事項として記載されている事ですし…」


な、なな、今度はなんだ!?


空中にふわふわ浮いている得体の知れない生き物が、彼女の背後からヌッと現れた。


牙と羽。それから、濃い紫色の体。


動物…?


いや、動物は喋ったりなんかしない。


それに、ゲームセンターとかで売ってるぬいぐるみみたいな丸い体だ。


全身がもふもふの毛で包まれていた。


「仕方がないだろう。こうでもしなければ、此奴はまたさくらを襲おうとするぞ」


「さくら様は同意しておられたようですが…」


「ほう。お前はさくらの味方をするのか。ではなんだ?私の「体」を此奴の好きにさせていいとでも?」


「ブーニベルゼ様の体である以前に、この体の所有権は主にさくら様にあります」


「だとしてもだ。それに、こんな小僧に何ができる?なぜ私が此奴らのままごとに付き合わなければならんのだ」


「それはそうですが…」


謎の生き物は、パタパタ羽を動かしながら彼女と話していた。声は高く、女の子っぽい声色だった。


…いや、そんなことはどうでもいい。


一体なんで「喋って」るのか。それが謎すぎるんだが…


「…ふん。まあいい。おい、小僧。「私」が何に見える?」


「何…って…」


「私は貴様が思っているような単純な生き物ではない。いや、本来「生き物」というのはどこにも存在していないかもしれんな。この”地上“では」


「…はい??」


「私がさくらではないことは、なんとなくわかるか?」


「…あ、えっと…」


「つまりそういうことだ。さくらと私は1つの体を分け合っている。契約を交わしたんだ。もう10年以上も前に」



…契…約…?


1つの体を分け合っている…って??



「“無断で体に触れるな”とはそういうことだ。わかるな?」


「さくらは…?さくらはどこに?!」


「案ずるなと言ったろう。話が終われば元に戻る」


「あんたは誰だよ…!」


「だからさっきから説明しているだろう。私は人間ではない」


人間じゃないって言われたって…


「悪魔」とか、そんなふざけた話が…


「さくらが望めば、お前を殺すことだって容易い。ありとあらゆる「死」の体験をさせてやることも。…まあ、せいぜいそうならないことを祈るんだな」


「ダメですよ。あまり怖がらせては」


「ふふ。しかしこんな小僧の何が良いのか私にはわからん。自分よりも弱い生物を好きになるなどと…」



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