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ちゃらん・ぽ・らん  作者: ふくはら 茶釜


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初投稿!よろしくお願いします。


栞子が住むことになった町は、言葉を選ばずに言うと、とても古い。


いまだ細い煙突から煙をあげる1回の利用100円の番頭さんがいる銭湯だってあれば、隣り合った小学校と中学校の近くに駄菓子屋さんだってあるし、ほとんど眠っている猫が留守番をしている煙草屋なんていうのもある。

古びた広い市役所の側にはレンガ造りの交番がある。そこに勤めている数名のお巡りさんも、基本的には留守にしていて、町のあちこちでおじいさんのお茶相手やおばあさんの買い物の荷物持ちなんてしている。

大体の建物はレンガや木造の平屋になっていて、ごちゃごちゃとした雰囲気がかえってこの町に似合っていた。


初めてこの町に足を踏み入れた栞子は、すわ昭和の時代にタイムスリップでもしたのか、知らないうちに海外に来てしまったのかと目をせわしなくぱちぱちさせるしかなかった。



母は忙しい人だった。

仕事で全国を飛び回り、直接顔を見るのは2年に一度あるかないかの大イベントで、電話で話をするのは一ヶ月に一度。

どれだけ忙しい仕事をしているのか、自分よりもそれは優先する事なのか、と幼い頃は地団駄を何度も踏んだものだが、それも小学生を3年ほど過ぎれば諦めの感情が大きくなった。

母が居なくても、父が居た。

父はすこし頼りなくて、なにくれ些細な出来事の度に涙を流したり、大げさに騒いだりと忙しなかったが、ひとりでいるよりはずっとよかった。


己には祖父母は居らず、この気の弱い父を頼りにするしかなのだと理解をする頃には、栞子は身の回りのことはすっかり一通りできるようになっていた。


父は日常生活においてとんと使い物にはならなかったが、栞子がどうしようもないほどの感情の波にのまれそうなときは嫌になるほど察しが良かった。

「栞子はお母さんに似てるねぇ」

眉を下げて、栞子と同じ色の瞳を瞬かせて、父はよく栞子の頭を撫でた。

そうされると、栞子の肩に圧し掛かっていたモノが溶けてゆくのだ。

大きく息ができるようになって、楽になる。

「栞子が高校生になったら、お母さんもきっと帰ってくる。そうしたら、一度お父さんとお母さんの生まれた町に引っ越そう。きっと栞子は気に入ると思う。どうかな?」

言葉に詰まる栞子を心配そうに見て、父は続ける。

「栞子がどうしてもここで暮らし続けたいというのならお父さんは反対しない。でも、ほかの暮らしを知ってから自分の道を決めるのも悪くないんじゃないかな」

父の急な提案に、ややあって、栞子は頷いた。

この地域からは離れたい。よほど仲の良い友達もいないし、通いたいほどの高校も見つからなかった。

この風代わりな父と母の生まれた町を見たいというのが、栞子を頷かせた理由の一つだった。

こんな話を、中学2年のときにした。

高校は、この便利だけど窮屈な街から出られるのだ。

栞子の高校入学のタイミングで、母も父も三人がそろい、やっと普通の家族になれるのだ。

栞子の心は久しぶりに晴れ晴れとしていた。




ある日、栞子が学校から帰ると一枚の手書きの手紙と、何枚かの書類が入った分厚い封筒、全国で使える銀行の通帳、印鑑、それからこの家の物ではない鍵がテーブルに並んでいた。



栞子へ

おかえりなさい。

突然のお話になってごめんね。

お仕事で海外に行くって話が急に進んだの。何年かは向こうに行くことになりました。

顔を見せる暇がなくてごめんなさい。


お父さんにも説明は頼んでいるけど、多分使い物にならない気がするので、手紙を残します。

もちろんお母さんの時間があるときは電話もするからね。


お母さんたくさん稼いで帰るからね。

栞子の迷惑にしかならないと思うので、甲斐性の無い父親もきちんと連れていくから、安心してください。




そんな言葉の並んだ手紙を前に、茫然とするしかなった。



若王子 栞子(わかおうじ しおりこ)、高校進学を控えた、15歳の3月のことである。



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