貴方は……一体……???
火事のあと、透花と父は、駅前の小さなビジネスホテルに身を寄せていた。
幸い、透花の怪我は大事には至らず、検査の結果も問題はなかった。
とはいえ、家はもう住める状態ではなく、しばらくはここでの仮住まいが続きそうだった。
「じゃあ、何かあったら電話するんだよ」
隣室のドアに消えていく父の背を見送り、透花はひとり、シングルの部屋に戻った。
スーツケースから無造作に服を取り出し、パジャマ代わりにTシャツをかぶる。
ベッドに腰を下ろし、ふぅと長く息をついた。
気づけば夜の十時を過ぎていた。
けれど、眠気はまったく訪れない。
ふと、カーテンの隙間から見える夜の街を眺めながら、あの出来事を思い返す。
(そういえば……あの人、誰だったんだろう)
火の中で、助けてくれた少年。
中性的な顔立ちに、不思議な雰囲気……
気づけば彼はどこかへ姿を消していて、それっきりだった。
(幻だったのかな……?)
目を伏せたその瞬間だった。
バチッ。
唐突に、部屋の照明がすべて落ちた。
「……えっ?」
暗闇が、部屋をまるごと包み込む。
エアコンの送風音も止まり、耳に残るのは街の遠い喧騒だけだった。
「停電……?最悪なんだけど……!?!?」
不安が胸をよぎる。
非常灯も点かず、非常ベルも鳴らない。
一拍遅れて、パッと灯りが戻った。
「……な、なんだ……」
透花は安堵のため息をついた。
けれど、そこで終わりではなかった。
彼女がふと、右へ顔を向けた、そのとき。
「…………ッ!?!?!?!?」
そこに、『誰か』がいた。
ほんの数十センチの距離で、真正面から目が合った。
「ぎゃあぁあぁあぁああぁあぁあ!!!!!!」
透花の悲鳴が、壁を突き破らん勢いで飛び出す。
しかしその叫びは、直後、手のひらで押しとどめられた。
「しーっ!! 静かに!!!」
目の前の『誰か』が声をひそめる。
その顔を、恐る恐る見上げた。
「……えっ……あ、貴方……」
間違いない。
火の中から透花を助けてくれた、あの少年だった。
そして、少年は笑みを浮かべ、透花の頬に手を置いた。
「ほんと、感謝してよね〜助けてあげたんだから」
「貴方は……一体……???」
「俺?俺の名前は霧沼夜宵。最強の怨霊でもあり、君の守護霊様だよ!」
「……はぁ!?」
突拍子もない自己紹介に、透花は思考を止めるしかなかった。




