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マジで誰!?

それは、あまりにも静かな朝だった。


窓の外では鳥が鳴き、カーテンの隙間から朝日が射し込んでいる。

いつも通りのはずの景色なのに、世界から何か大切なものだけがごっそり抜け落ちてしまったようだった。


その日は学校が休みで、父とふたり、家で朝食を取っていた。

といっても、口に運んだトーストの味はしなかった。


食卓の向かいで、父はいつになく言葉を選ぶように、ゆっくりと息を吐いた。


「……透花」


「……なに」


「おばあちゃんが……昨夜、……亡くなったって。神社で、ひとりのまま……。」


その一言が、部屋の空気を張りつめさせた。


「…………え?」


時間が止まった。

耳がキーンと鳴って、父の口がまだ何かを言っているのに、それが聞こえなかった。


まるで、映画の中に閉じ込められたみたいだった。

自分だけがそこに取り残されて、世界の音がどんどん遠ざかっていく。


「……嘘、でしょ?」


椅子の背もたれが、軋んだ。

体を支える力が抜けていく。けれど、涙は出なかった。出せなかった。


父が黙って立ち上がり、透花の頭をそっと撫でた。

いつも不器用な父の、震える掌。その温度だけが、やけにリアルだった。



ーーー



夜になっても、眠れなかった。

葬儀の準備がどれほど慌ただしくても、心の中はずっと空白のままだった。


(どうして……? 昨日、会ったばっかりだったのに……)


天井を見つめながら、透花は一人、ぽつりとつぶやいた。


「……ばあちゃん、なんで……?」




パチッ。




突然、何かが弾けるような音がして、台所の奥から煙が立ち昇った。

続くように、バチバチと電気が明滅し、火の手が上がった。


「え……? えっ、なんで!?」


あまりに唐突な光景に、体が動かなかった。

火は瞬く間に天井を這い、家具を焦がし、息を吸えば煙が喉に刺さる。


周囲では近隣の人々の叫び声が響き始めていた。

だが、透花の足は床に根を張ったように動かない。



「……もう、いいかな……」



胸の奥にぽっかり穴が開いたみたいで、何も感じられなかった。

大好きだったおばあちゃんがいないなら、自分が生きてる意味なんてあるんだろうか。

家の中に、ゆっくりと煙が満ちていく。


そのとき――。



「……か…」「……うか……」「透花!!」



誰かが名前を呼んだ。

知らない声。低くもなく、高くもない、だけどやけに通る声。


「え……?」


顔を上げた瞬間、視界の隅を何かが横切る。


次の瞬間、透花の体は宙に浮いていた。


「わっ!? えっ!?な、 なに!?!?」


「なにじゃないよ! こんなとこで燻されてんじゃないっての!」


振り返ると、目の前にいたのは、見たことのない少年だった。

中性的な顔立ちに、どこか儚げな雰囲気。

それでいて、瞳の奥にどこか凛とした強さが宿っている。


「だ、誰……!? え、マジで誰!?」


「 質問はあと!!とにかく逃げるよ!!!」


そのまま彼は透花を抱えたまま、外へ飛び出した。



ーーー



気づけば、透花は病院のベッドの上にいた。

腕に包帯。頬に四角い絆創膏。火の手はすぐに消し止められ、大事には至らなかったらしい。


診察室を出ると、父が駆け寄ってきた。

目は赤く、体は震えている。


「透花っ……!! よかった……ほんとに……ごめんな……!!」


透花の胸の奥に、じんわりと温かさが戻ってきた。

初めて親子としての距離がほんの少し、近づいたような気がした。


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