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勇者になれなかった僕 1-2

 蓮は唯一の味方の拓也と引き離されたことで、不安が一気に押し寄せてきた。



 ――どうしよう、このまま本当に勇者にされちゃうのかな?



 落ち着かなくてあたりを見渡していると、銀髪の短い髪を揺らした耳の尖った女性が蓮の前に現れた。その女性の手には蓮の荷物が握られていた。


 蓮はその荷物をひったくるようにして奪い返すと、それを胸の前に抱きしめながら睨みつけた。


 拓也がいないことは不安で仕方がなかったけど、自分だって男だ。やれることはなんでもやってやる、と意気込んでいた。


「突然のことで申し訳ありません。きっと、驚いていらっしゃるのでしょうが、今は我々の言うことに従ってください」


 しかしその銀髪の女性は、先ほどの人たちよりも冷静なのか申し訳なさそうにそう言った。


「私はエレイン。勇者様の身の回りの世話をさせていただきます」


 エレインと名乗ったその女性は、先ほどの乱暴な男たちのように粗雑に扱うことも、老人のように蓮の意見を無視する様子は見られなかった。


 だけど、何も思っていないように見えたその瞳の奥に、一瞬憐みの感情が見えたような気がして、蓮の心はドキリト跳ねる。


「……エレイン、さんは、僕たちがこれからどうなるか知ってるの?」


「……はい。勇者様たちはこれから一定期間の鍛錬を積んだのち、北にある魔王城に向かっていただきます」


「鍛錬……魔王城……まるで、ゲームみたい」


 蓮が思ったことを口に出すと、エレインは不思議そうに首を傾けた。


「げー、む……? ですか?」


「ゲームを知らないの? これくらいの機械で、ソフト入れると動く、遊べるものだよ」


「……申し訳ありません。私にはわからないようです」


 目尻を下げて謝るエレインに蓮は首を横に振って答える。ゲームを知らないなんて、よっぽど箱入りなのだろうか、と考えていた蓮はようやくあたりを見る余裕が生まれた。周囲を確認した蓮は、自分の知っている日本との違いに大きく目を見開く。


 その部屋にあるものは何もかもが一人用とは思えないほど大きかった。天蓋付きのベッドは大人が二人寝てもありあまりそうなくらい大きく、両開きの窓は蓮の身長の二倍はありそうだった。窓の外は直接バルコニーにつながっているようで、燦々と降り注ぐ太陽の光が眩しかった。


 蓮は見慣れない家具と景色によろよろと立ち上がる。そして、そっと窓に手をついて外を見渡す。


 そこには漫画やゲームでしか見たことのない街が広がっていた。


 蓮がいる部屋は街の中心の高いところに位置しているようで、街の様子がよく見えた。そこには見慣れた木造建築物やマンションなどは一切見られなかった。車は走っておらず、代わりに馬が荷台を引いている。近くから見なくても、そこが日本ではないことはよくわかった。


「……な、なんですか、これ」


「何、とはどう言うことですか?」


「だって! 現代の建築物っていうより……中世時代とかの建物のように見えるし。何より車は走ってないし! こんな世界、僕は知りません!」


 詰め寄るようにエレインに向かっていくと、彼女も困惑したように視線を泳がせた。


「も、申し訳ありません。私には、いつもと変わらない景色にしか見えず……」


「じゃあ、これが普通ってこと? それなら、僕たちは一体どこに連れてこられたっていうんですか……?」


 混乱する頭でここに来るまでのことを思い返す。


 なぜ自分は、途中まで当たり前のようにこの不可思議な現象を受け入れていたのだろうか。


 よく考えてみれば、勇者召喚も魔王城も聞き馴染みのある言葉じゃないはずなのに。


「……言葉?」


 ハッとして蓮は部屋の中心に戻る。

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