2 『能力と代償』
「2つ目の条件は、代償として、あなたの魂ーー
つまりは寿命を削り取らせてもらいます。」
女神のような格好で悪魔との契約みたいなことを言うもんだから、少し冷や汗が流れる。
条件を言い切った女性は真剣な表情で見つめている。今度こそは冗談じゃないのだろう。
寿命を削り取るーー決して予期してなかったことじゃないーーだけどやはり言われてみると少しドキっとくる。
女性の方を見ると、未だ真剣な面もちで自分の方を見つめていた。さっきまでしていた考え事が気まずさで掻き消される。
その気まずさを紛らわそうと、口を開いた。
「どのくらい、削られるんですか?」
女性はさっきまでの表情を緩め、口を開いた。
「どのくらい削られるかは、あなた自身に決めてもらいます。」
???
頭の中が疑問とともに安堵の気持ちで埋め尽くされた。
相場こういうのって、相手が提示するもんじゃないのか?
そう思っていると、女性が話を続ける。
「まあ、唐突にこう言われても、理解できないですよね。」
彼女は微笑むように言った。
「まず、能力の説明をしなければなりません。
あなたに授ける能力は過去に戻り、ある操作を行うことによって運命を変えるーーいわゆるタイムトラベルとかタイムリープと呼ばれるものです。」
タイムリープ...漫画とかでよく題材にされてるあれか。
「それと、削り取られる寿命を自分が決定することになんの関係があるんですか?」
「先ほど、過去に戻ると申し上げましたね。」
「はい、そう言ってましたが...」
もしかしてーー
「使用する寿命の分だけ過去に戻れる...ってことですか?」
「その通りです。寿命を1ヶ月使えば1ヶ月前、1年使えば1年前、10秒だけ使うことだってできます。」
なるほど、と言いたいところだけど...
「自分はあと1秒後に死ぬんですよね?残りの寿命って10秒もないんじゃ....」
「いえ、残りの寿命はこの世界での寿命です。」
この世界での寿命?何を言っているんだ。
出てきた疑問を遮るように、女性は話を続ける。
「今回の寿命は、1ヶ月です。」
今回?話がわからなくなってきた。
質問をしようとしたその時、またそれを遮るように女性が話し出す。
「それでは、使う寿命を宣言してください。」
この世界だの今回の寿命だの、さっきから聞きたいことが山々あるんだけど...
「早くしないと、死んでしまいますよ?」
悪戯っぽい笑顔で急かすように言ってきた。
まあとりあえず今回とか言ってるし2回目があるのかもしれない。存分に1ヶ月使う...いや、やはりここは1週間だけにしておこう。
「では、1週間でお願いします。」
「えっと、宣言なので声高らかに、使う寿命の量だけ宣言してください。」
あっ、そう言う感じなんだ。なんか恥ずかしいな。そう思いながらも精一杯の声で仕切り直す。
「1週間!!」
、、、
何も起こらないぞ?女性の方を見ると申し訳なさそうに話しかける。
「あっ!工程を間違えてしまいました。実は伝えることがもう一個ありまして...」
「なんですか?」
「能力の使用前に、運命を変えるヒントを与えることができますが、いかがなさいますか?」
そういえば運命を変えるっていっても、どこをどう変えるか分からなかったな。
まあ貰えるもんはもらっておこう。
「じゃあもらっときます。なんですか?」
「ヒントはーー」
できた間に緊張が走る。
「あなたの過ちを正すことです。」
その瞬間、思考と混乱を許す間もなく、視界が暗転したーーー