SF作家のアキバ事件簿226 ミユリのブログ さらばパンピー
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第226話「ミユリのブログ さらばパンピー」。さて、今回も引き続き秋葉原が萌え始めた頃に描かれたヒロインのブログで始まります。
突然開いた"リアルの裂け目"の影響で腐女子がスーパーヒロインに"覚醒"し始めた秋葉原。覚醒の秘密を描いたブログを追うヒロイン、そして謎の組織…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 恐怖のSF研究会
"アキバで働くミユリのブログ 4月19日。最近ずっと考えているコトがある。私は、元の平凡な一般人に戻るコトが出来るだろうか。私の中で、全てが予想通りに収まる、あの愛すべき平凡な日々に戻りたいと思う気持ちがアル一方で、このまま、テリィ様と未知の世界へと飛び込んでみたいと願う私がいる。果たして、私は戻れるのか。テリィ様と出逢う前の、未だスーパーヒロインに"覚醒"スル前の、タダのパンピーだった頃の私に"
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アヲデミー賞を総ナメにしたSF怪獣映画"メカゴジラ -2.5"のコンセプトカフェを出したら世界中からインバウンドが推し寄せて連日超満員だw
「マジすごいお客だわ。しかも、こんな時に限って歯槽膿漏学会の歯医者さんが大挙襲来だなんて!」
「ソンな学会、なんでアキバでやるの?」
「観光でしょ。日本語の通じるインバウンドだと思いましょ」
殺人的混雑のホールを抜け出して、キッチンで一息つくメイド長のミユリとチィママメイドのスピア。
「ホルセ!3番テーブルの客が怒り出しそうなの。急いで」
「無理だよ。精一杯だ」
「ミユリ姉様のオーダーばかり先にして」
ふくれるスピア。因みに2人は銀ラメのキャットスーツで"ブラックホール第2.5惑星人"のコスプレだ。
「あのね、スピア。大叔母さんが金曜に来るの」
「え!私、あの人大好き」
「でしょ?なんたって私のルーツだもの」
バンダナをしたアジアンなキッチンクルーからホールのメイド2人に微妙なアクセントで声がかかる。
「ミユーリ!6番テーブル出来たよー」
「ありがとう」
「ホルセ、私の3番テーブルは?」
投げキスが返って来る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
メイド長のミユリ自らお給仕。
「ほら、あのメイドさんだ!」
「お待たせしました。"金星ミートローフセット"がコチラで、アチラは"スタートレックスペシャル"ですね。ごゆっくりどうぞ。もう一つの"メガポテト"も今すぐです」
「素晴らしいな」
「全くです」
「何か?」
ミユリさんは、絡んでくる歯医者に笑顔を返しながらカウンターに座る僕を見つけ、小さく手を振る。
「今ちょうど話していたトコロだが、君、実に良い噛み合わせをしているね」
「噛み合わせ?あ、歯ですね?そんなコト逝われたのは初めてです。でも、ありがとうございます」
「悪いけど、イーってしてみてくれないかね。いや、私は歯槽膿漏学会を代表して頼んでいるんだ」
コレがカスハラって奴ね?と苦笑いしながら、イーをするミユリさん。率直に逝って…萌える光景だ。
今度チェキのポーズでリクエストだな。
「おおおっ!」
「素晴らしい。実に見事なイーだ!」
「では、ごゆっくりどうぞ」
ミユリさんのイーに一斉にのけぞり、ドヨメく歯医者達のテーブルを後にして僕のカウンターに来る。
「テリィ様。あの人達、みんな歯医者さんなの」
「らしいね」
「歯槽膿漏学会ですってウフフ」
ミユリさんの方から粘着してくる。ついイチャイチャする僕達を振り返りヒソヒソ話の腐女子の1団がいる。
「テリィ様。何方かと待ち合わせですか?」
「違うよ、ランチさ…この"スーパーヒロインとデート"をセットで食べたいな」
「素敵ですぅ」
うっかり口走って真っ赤になるミユリさん。萌え。
「え。なんだって」
「別に!忘れてください。えっと、御注文は"スーパーヒロインとデート"ですね?」
「…あのメイド?」
テーブルを小さくトンと叩く腐女子の一団。全員チアガールのコスプレだが…予約名は"SF研究会"?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
閉店。外のネオンサインを消してテーブルの上にイスを上げるメイド達。私服に着替えて家路に着く。
ミユリはパーツ通りの街灯の下で突然人影に取り囲まれる。おや?全員チアガールだ。例のSF研究会?
「何かご用かしら?」
「貴女がミユリね?"彼"に近づかないで」
「"彼"って?」
突然、羽交い絞めにされるミユリ。お腹にライダーキックが刺さる!
第2章 大叔母さん来秋
翌日の"マイガイダ・サンドウィッチズ"。出勤前のメイド達が流行りの"朝ドッグ"を頬張ってる。
「チアガール?まさか練塀町に出来たコスプレ居酒屋の子達かしら?…まさかカレルもいたの?」
「カレル?全員女子だったけど、どーして?」
「だって、ミユリ姉様を追って秋葉原に来たのでしょ?未練タラタラょね。既にストーカー」
カレルは、ミユリさんの池袋時代のTOだ。
「カレル…とにかく、女子ばかりだったわ」
「超能力で消しちゃえば?」
「エアリ。ヤメて」
ミユリさんと仲間のエアリ&マリレは"覚醒"したスーパーヒロインだ。今は超能力を隠しお給仕中。
「じゃどうするの?姉様は待ち伏せされたのよ?やられっぱなしでいる気?」
「エアリ。やったりやり返したりを繰り返せば、必ずアキバで噂になるわ。謎の組織がアキバの地下で"エスパー狩り"をしてるって話も聞くの。今は、余りヲタクの注目を集めたくナイわ」
「姉様!ソレを防ぐためにも、今の内にチアガール達の口を閉じておくべきなのょ」
かぶりを振るミユリさん。
「あのね。私達スーパーヒロインは、もっと慎重にならないと。ヲタクとの接触を避けて摩擦は避けましょう。あのチアガール達には手を出さないで。私も、御屋敷オーナーであるテリィ様やスピアとも距離をおくわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"メカゴジラ -2.5"カフェ。既に歯槽膿漏学会の団体予約で満員だ。メイド長のミユリさんは大忙し。
「ミユリ姉様!何、陸上ブルマデーのお知らせなんか見てるの?テリィたんが御帰宅したら、パンチライベントのフリして抱きついちゃおうかなぁーなーんて思ったりしてない?当たりでしょ?」
「スピア、いーから逝って」
「ミユリさん!」
ソコに御帰宅した僕の前でハデに転ぶミユリさんw
「テリィ様?ごめんなさーい…」
「(ドジっ子アピール?)…ミユリさん、ソンなコトよりハデに立ち回りやったんだって?あれ?傷なし?」
「(パンチラ無視?)立ち回りって…転んだ程度です」
実はライブ帰りに現場を目撃したヲタ友がいて、様子は聞いている。ミユリさんは決して負けてない。
「平気なのか?メイドvsチアガールのコスプレファイトで全員からギブアップを奪ったって聞いてるけど?最後の1人はロメロスペシャルで仕留めとか」
「(げ。どんな噂を聞いてるの?)…だ・か・ら!転んだだけです。では、日本歯槽膿漏学会ご一行様のお給仕がありますので」
「あちょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
続いて御帰宅して来たカレルもミユリさんに絡む。
「今夜、個撮のオーダー入れて良いか?久しぶりに乙女ロードでさ」
「カレル、困るわ。ココで池袋の御屋敷の営業はNGよ。私、ココのメイド長ナンだけど」
「とにかく!"スタジオ乙女"に6時だ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。"マチガイダ・サンドウィッチズ"には昨夜のチアガール達がタムロしている。この店はアキバのコスプレ女子が集う交差点みたいな店なのだ。
「ウメき声が耳から離れないわ。アタシがライダーキックした腹には、きっと痣が出来てるわね」
ヘラヘラ笑うチアガール達。追加注文で振り向いたトコロに偶然エアリの膝が股間にグサリとハマる。
「ちょっと。どこを見てんのよ?」
「ごめん。悪かったわ、納豆ドッグが粘っこくて」
「全く最近のメイドって…」
顔をしかめるSF研のチアガール。
「どうかしたの?」
「ヤダ。どこ掻いてるの?」
「ソレが、ちょっと何か痒くなっちゃって…股間が。あぁ我慢出来ないわ」
デリケートゾーンをボリボリ掻くチアガールw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
コンカフェではミユリさんが焼きたてカップケーキをトレイに移してる。ソコヘ大叔母さんが御帰宅。
「大叔母さん!」
「元気だった?私の仔猫ちゃん」
「大叔母さんこそ!」
僕を無視してハグする2人。
「まぁどうしたコトかしら?去年はほんの子供だったのに、こんな素敵なメイドに成長しちゃうなんて」
「金曜日に来ると思ってたのに、早くなったのね?例の本は描き上げたの?先輩メイドである大叔母さんには話したいコトが山ほどアルの」
「そーなの?じゃミユリに夢中な御主人様の話を全て聞き出さなきゃね」
全て話そうと意気込むミユリさん。
「とにかく!カレルとはTOまではとても考えられないけど…タダの推しって感じかな。確かに推してくれればソコソコ楽しいし、チェキも撮るけど、ソレだけなの」
「ミユリ。完璧な関係なんて、そうそうあるモンじゃナイのょ」
「そうなの?」
大叔母さんは語る。
「誰もが魂のTOを求めているけど、実際に出会うのは難しいわ。ソコソコ楽しめる相手もヲタ活には必要なのよ」
「実は…もう1つ気になるコトがアルの」
「もう1つ?」
愉快そうに微笑む大叔母さん。
「ううん。正確にはもう1人」
「はるばる飛行艇で来た甲斐があったわ」
「そのもう1人の人はひょっとしたら"私の魂のTO"なのかもしれない」
大叔母さんは、身を乗り出す。
「そうなの?」
「だけど、自分でもよくワカラナイの。あり得ないほど話しが複雑で」
「これだけは言えるわ。複雑でなきゃ"魂のTO"とは言えないわ」
ソコヘもう1人飛び込んで来る。スピアだ。
「大叔母さん!」
「スピア!ココにも美人メイドがいた。キレイになって。こんなヲタクの街にはもったいないわ」
「もうオーバーなんだから!」
ミユリさんは、まるで自分のコトのように超古代学会の学会誌を見せびらかす。上から目線でスピアに解説。
「コレ、大叔母さんの論文よ。超古代文明に関する調査でタイトルは"来るべき文明"。今度、超古代学会誌にも載るんですって」
「スゴいわ。でも、ソレよりも大叔母さん。私、聞きたいコトがアルの。この髪型、雷雨に遭ったシルビーバルタン星人って感じ?」
「貴女の方がずっと可愛いわ」
スピアのツボ直撃。
「やっぱり?で、何の話をしてたの?」
「別に」
「TOのコトよ」
目をキラキラさせるスピア。
「あらカレル?テリィたん?」
「スピアのおしゃべり!」
「あら。本命の彼は、あの国民的SF作家なの?スゴいわね。大金星だわ」
さすがの大叔母さんも驚く。
「違うの。テリィ様は、まるで違うの。その、なんて逝うべきか」
「ユニーク?変人?」
「少しだけ」
何処が変人ナンだ?!
「素敵じゃナイ!危険なSF作家って線なのね?」
「まぁ確かに…謎が多いのよ」
「へぇ謎めいてるのね?」
大叔母さんとスピアで話が盛り上がる。
「ソコで終わり!2人とも悪乗りし過ぎ」
「そーかしら」
「さて、今宵は何をする?」
大叔母さんは、メイド2人の肩を抱く。
「今宵?」
ふとカレルとの約束を思い出すミユリさん。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"超能力センター"。
ココでも"歓迎!歯槽膿漏学会さま"のプラカードを持つ翠髪のエスパーのマネキンがお出迎え。
その奥で解剖されてるエスパー人形の腹に内臓を仕込んでる僕。センターの黄色いベスト着用だ。
「テリィたん、何しているの?」
「エアリ?見ての通りさ。インバウンドの子供がイタズラしたんで修理してる。その、まぁ、このエスパーの内蔵を」
「立派なお仕事ね。テリィたんって電力会社に勤めてなかったっけ?」
ミユリさんのメイド仲間のエアリだ。
「今、軌道勤務明けで昨日、宇宙から降りて来た。今日は休暇でコレはスキマ時間の有効活用」
「ミユリ姉様が襲われたの、知ってる?」
「え。エスパー狩りか?ついに南太平洋条約機構が動いたンだな?」
アキバの地下では謎の組織による"覚醒"した腐女子狩りが極秘裏に行われているとの噂が絶えない。
「いいえ…あの、ちょっとソッチじゃナイのょ」
「じゃドッチだ。ってかミユリさんは無事ナンだろうな?僕の御屋敷でメイド長やってもらってルンだけど」
「そのヲタクのメイド長、昨夜襲われたのょ?相手が誰だか聞いてる?」
相手までは知らない。
「最後はロメロでキメたらしいから女子プロレス同好会じゃナイかな」
「いいえ。SF研のチアリーダーょ。どーもテリィたんが姉様を推してるコトが気に入らナイみたい」
「SF研究会って、まさか僕の青森時代のファンの…ミユリさんは何で僕に話さないのかな?」
エアリはフランス人みたいに肩をスボめてみせる。
「聞いたら怒ると思ってるのょ。だって、自分を襲ったのはテリィたんを推してくれてる大事なファンなのょ?ソレと今、秋葉原で噂になりたくナイんだって」
「とりあえず、ケガは負ってナイんだね?SF研の連中の方だけどさ」
「うーん姉様はお腹蹴られたとか言ってたけど、どーせ全員ギブアップさせたに決まってる…とにかく!テリィたんは姉様にもっと気を使って。そもそも、ミユリ姉様は、テリィたんが推したばかりに、こんな目に遭ってるのょ?OK?」
全然OKじゃナイ。
「わかってる。ミユリさんとも距離を置くよ」
「何言ってンの?ソンなコト、誰も言ってナイし」
「じゃ何なんだ…イテテテ」
エアリにホッペタをヒネられる。
「痛そうね。超能力を使って直してあげようか?」
「おい。人間の腐女子がそんなコトをスルか?もっと普通にしてろょ。ミユリさんに怒られたいのか?」
「ふん」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
池袋の乙女ロード。個撮の帰り道。
「こんな最低のコスプレ、よく借りられたわね?信じられない」
「ちょっと!ひどい言い方だな。セーラー戦士はヒロピンAVの基本形だぜ?特別養護老人ホームを襲うミニうさって設定さ。このミユリの個撮画像、大叔母さんもきっと喜ぶょ」
「こんな幼女のコスプレ、誰にも見せられないわ。ネットにUPしないでね」
呆れ顔で角を曲がると…"メカゴジラ -2.5"のコンカフェの前にインバウンドなど多国籍な人だかりw
「どーしたの?何かあったの?」
救急車が赤い回転灯をクルクル回転させストレッチャーを下ろし、そのママ店内に消える。無線の声。
「外神田ER、スタンバイ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
外神田ER。
大叔母さんに馬乗りになり心臓マッサージを施す救急隊員を載せたストレッチャーがICUに飛び込む!
「意識を失う前、左下半身の脱力感を訴え、ロレツが回らなかったそうです」
「血圧160、脈拍100、呼吸20!」
「直ぐに心電図だ。関係者には出てもらってくれ」
ベテランのERナースがミユリさんを遮る。
「外でお待ちください」
「待って。私は…」
「外でお待ちを」
ナースはミユリさんを推し返す。
「直ちにスキャンだ!BTとBTTの準備を。あと点滴を頼む」
「わかりました」
「胸部X線写真も撮るぞ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
待合室。ふと立ち上がりフラフラとコーラを買いに逝くミユリさん。ついつい僕にスマホしてしまう。
「テリィ様…え。あ、留守録?テリィ様、ミユリですけど、今、外神田ERにいます。大叔母さんが倒れて…未だ確かなコトはワカラナイけど、かなり深刻な状態。私、なんだかスゴい不安で…でも、何でテリィ様にスマホしたのかしら。ただ、テリィ様の声が無性に聞きたくて。突然スマホなんかしてごめんなさい。忘れてください。病院には来なくて良いから。スピアも来てくれるし。また明日、御屋敷に御帰宅してください。ホントに変なスマホをしてしまってゴメンナサイ」
僕のスマホはベッドサイドのテーブルの上だ。リアルタイムで僕はミユリさんの留守録を聞いている。
「それじゃ。おやすみなさい、テリィ様」
僕は、ベッドから起き上がる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
数時間後。待合室にドクターが現れる。
「サチス先生。わざわざ来てくださって…大叔母さんの容体は?」
「やあ、ミユリ。脳卒中だょ。油断は出来ない状態だが、今のトコロ、脈拍その他のデータは安定している」
詰め寄るミユリさん。
「必ず回復しますよね?」
「脳卒中になっても回復なさる方は大勢おられるのだょ。今は様子を見ないと何とも言えない。気を落とさず、みんなで回復を祈ルンだ」
ミユリさんの肩を叩きサチス医師は去る。入れ違いに僕が飛び込むとミユリさんはパッと顔を輝かす。
「テリィ様!」
「やあ」
「大叔母さんが脳卒中なの」
僕と同着で駆けつけたカレルが僕をキッと睨む。その視線を面の皮で跳ね返して、ミユリさんに質問。
「ソレは心配だな。ところで、ミユリさんはどうなんだ。大丈夫かい?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おい、テリィ。今日は何で病院に来た?」
「従兄弟が事故を起こしたんだ」
「そうなの?」
露骨に失望した表情を浮かべるミユリさん。ソレをチラチラ見てはイライラと僕を睨みつけるカレル。
男のジェラシーだょ超厄介w
「大した事故じゃないんだ。じゃ僕は従兄弟を見舞ってくるよ」
「そう」
「早く見舞った方が(都合が)良いな」
道を開けるカレル。去る僕。立ち竦むミユリさん。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ERの出口。ケッテンクラートを発車させようとしたら正面にカレル。右手を直角に曲げて発車を制止。
「おい。事故に遭った従兄弟はどうした?」
「ヲ陰様」
「ホントは事故になんか遭ってなかったんだろう?ミエミエだ」
当然だ。そんなのウソに決まってるだろ?
「うーん病院側の勘違いだった」
「発砲事件のあった日、ショックで倒れた彼女を助けてくれたコトには、俺も感謝はしている。だが、ソレ以来ミユリにつきまとっているコトは、とても不愉快だ。俺だけじゃない。秋葉原中が気にしてる。良いか?俺はミユリの元TOだ。だから、もう俺の前でミユリに近づくな」
「よーくわかったよ」
適当に答えてケッテンクラートに発車させる。ハンドルに手をかけスゴんでたカレルは見事にコケる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「カレル、大丈夫?」
ERの駐車場の真ん中でコケたカレルだが、次の瞬間ミニスカのチアガールに取り囲まれる。
倒れたカレルは、チアガール達を下から見上げる形で…最早パンチラどころではない眼福。
「貴方、カレルでしょ?池袋でミユリの御主人様だった」
「き、君達は?」
「SF研究会」
え。SF研女子って、もっとムサイ巡洋艦…じゃなくて、ムサいだろ?微かに訛る津軽弁も気になるし。
「な、何でチアガール?レトロフューチャー系のSFスーツかスチームパンク?にしても、チアガールって健康的過ぎるだろ。ココは秋葉原だぞ!」
「え。今、チアガールがキテルって聞いたンだけどアレって新橋だっけ?…とにかく!私達はタダのSF研ではない。国民的SF作家テリィ様の熱狂的ファンクラブの仙台方面親衛隊の者ょ。コレは私達の制服で、テリィ様が世界で何よりも愛してるチアガールのコスプレ」
ソレは…高校時代の話だ。
「ところで、朝敵ミユリは今日、ヤタラと活動が活発だったけど何かあったの?」
「え。朝敵?…ミユリさんなら大叔母さんが脳卒中だけど」
「それはお気の毒に」
「命は取りとめたよ」
「そうなの。よろしく伝えて…ところで、貴方。何か悩みでもあるの?」
ズバリ切り込むチアガール。
「能天気な田舎のチアガールに話したって無駄だろ?俺の独白を聞いて後でクスクス笑う気だ」
「とにかく話してみて」
「それじゃ聞くが、TOなのに推しを妙に遠く感じる寂しさってワカルか?一緒にいても心は違うトコロにアルように感じる寂しさのコトだけど」
早くもクスクス笑い出すチアガール。
「つまり、ミユリについて貴方はそう感じているワケね?クスクス、アハハ」
「あぁ俺ってチアガールに応援されるどころか笑われてるし」
「"一緒にいても心は別のトコロにアル"って?」
爆笑1秒前のチアガール達。
「他にTOがデキたんだ、多分」
「ぶわっはっはっは。その、他のTOっていうのはテリィ様のコト?」
「なんでソンなコトまでチアガール、しかも東北のチアガールが知ってルンだよ?」
絶望の叫びをあげるカレル。
「カレル、よく聞いて。テリィ様とミユーリが付き合うのをやめさせるの。私達と貴方は利害が一致している。手を組みましょう」
「ミユリからテリィを遠ざけるのは大賛成だが、魂までは売れない。君達が何を企んでるのかを聞かせてくれ」
「とにかく、女房気取りのミユーリをテリィ様に近づかせないタメには手段を選ばない。OK?貴方、もう私達のパンツを充分に見たわょね?今なら私が悲鳴を上げて涙声でアンタは痴漢だと万世橋に突き出すコトだって出来る。さぁ私達と組むの?組まないの?」
結局、チアガールに魂を売るカレル。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
一方、僕は至福の時間だ。
"マチガイダ・サンドウィッチズ"で絶品チリドッグを頬張る。ココのチリは、YUI店長が修業時代にセネガル人コックから盗んだレシピで滅法ウマい。
この時間を邪魔するコトを唯一許されてるのは…
「テリィ様」
「…ミユリさんか。大叔母さんは?」
「きっと持ち直すと思います。生命力の塊みたいな人だから。で、お願いなのですが、もし元気になったら会って欲しいの」
親類への挨拶って奴?重いなw
「良くなると良いね。じゃ」
「テリィ様。昨夜のコトなのですが…」
「余計なコトをしちゃったね」
激しく首を横に振るミユリさん。
「そんなコトありません。嬉しかったわ。テリィ様が来て下さって…でも、気マズい思いをさせたんじゃないかと思って」
「そうだね。カレルがいたし」
「私、テリィ様にお電話すべきじゃなかったです」
否定を期待するミユリさんの眼差し。
「そうカモしれないね」←
そう答えて振り返るとミユリさんが凍り付いてる。
怯えた小動物のような眼差し。残酷だがダメ推しw
「さ。こんなトコロを見られたら大変だ。ホラ、僕達は約束したょね」
「あ、はい」
「ソレじゃまた」
今度は振り返らナイ。きっとミユリさんは悲しそうな目をしてる。いったい僕は何をしてルンだろう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マチガイダを出て、パーツ通りの街灯を蹴飛ばしていたら、通りかかりのエアリにクスクス笑われる。
「笑うな」
「テリィたんでもキレるコトがアルのね」
「うるさいな」
路上で絡むエアリ。
「ミユリ姉様の池袋時代のTOが現れたコトがそんなに気に入らないの?」
「違うょエアリ。しかし、君ってヲタクを怒らせる天才だな」
「あら。男を喜ばすのも上手いわょ?」
勘違いして変な営業をかけてくるエアリ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
僕に敬遠されたエアリは、歯槽膿漏学会の歯医者で超満員の"メカゴジラ-2.5" へ転戦スル。
てんてこ舞い中のミユリさん以下ホールの全メイドから顰蹙の目線ビームの十字砲火を浴びる。
「あのね、エアリ。どうせメイド服だったらお給仕手伝ってよ。…ところで、貴女。まさか謎のチアガール探しとかしてないわょね?あの子達には手を出さないで。私、目立ちたくナイの」
「(え。上野駅のロッカーにイタズラはしたけど)特に探してはいないわ…でも、そもそも姉様がテリィたんにモーションかけたりスルから始まったコトなのょ?最初にヲバカなコトをしたのは、いったい誰?」
「ソレは逝わナイで」
が、エアリは粘着。
「もしテリィたんが私達を裏切ったら?」
「何逝ってるの?テリィ様はスーパーヒロインを裏切ったりしないわ」
「姉様、私は誰も信じない。秋葉原では」
そう逝い捨て、歩き去るエアリ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ソレを見て歩み寄るスピア。
「ミユリ姉様。大叔母さんはどう?」
「未だ何とも…意識が戻らないの」
「姉様、病院に行かなくても良いの?」
修羅場のホールを抜けてバックヤードに移動スル。スピアの膝枕にゴロニャンと横になるミユリさん。
「一晩中付き添っていたから、ドクターが少し休んで来いって。容体が変わったら直ぐに教えてもらえるから」
「じゃヲウチで、お一人様限定ジャンクフード宴会とかやっちゃえば?」
「そうね…」
スピアはミユリさんの髪を撫でていたが…突然ガバッと起き上がるミユリさん。意を決して語り出す。
「スピア。最近テリィ様の様子がオカシいの」
「どんな風に?」
「その…変にヨソヨソしいっていうか、そもそも私とテリィ様は未だ"推しとTO"ってワケではナイのだけれど。何だか私のコトを避けてるみたい」
溜め息をつくミユリさん。
「でも、姉様の方から周囲のヲタクに怪しまれないように距離を置くって約束したんでしょ?」
「そーゆーンじゃナイのょ。さっきも少し話したのだけど、急に冷たくなったっていうか、まるで朝敵を見るような目をしていたの」
「朝敵?少し悪いように考え過ぎナンじゃナイ?ホラ今、姉様は大叔母さんの件で参ってるから」
バックヤードのドアがバタンと開く。
「メイド長、歯槽膿漏が大挙襲来!コード5!」
立ち上がる2人。
「じゃまた後でね」
「姉様。お給仕は休めば良いと思うわ」
「ダメよ。だってテフニもカレンも休みだし、歯槽膿漏は推し寄せるし…貴女とアグネだけでは無理だわ」
アグネは…札付きのグータラメイドw
「姉様は大叔母さんに寄り添ってあげて。御屋敷は私に任せて」
「スピア…マジ大丈夫?」
「大丈夫!だって、アグネもいるコトだし」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
1時間後。御屋敷は大忙しだ。スピアはメイド長代理として八面六臂の大活躍でお給仕を取り仕切る。
「メイドさん!もう30分も待ってるぞ」
「はい、ご注文をどうぞ」
「おいおい。コッチが先だろ?」
四方八方から声がかかる。振り返って叫ぶスピア。
「少々お待ちください」
「あぁ!ちょっと、注文を頼むよ」
「すぐ来ますから」
聞き流し、別の客の注文を取りに逝くスピア。
「何にしましょう?」
「うん。R1号セットと黒沼司令セットは、詰まるトコロどちらがお得なのか迷っているのだが…ねぇメイドさんはどっちがお得だと思う?」
「はい?」
オーダーと思い描き止め中だったスピアはガックリ脱力。その目にバックヤードに消えるアグネの姿…
「アグネ!何処行くの?オーダーとって」
一緒にバックヤードに雪崩れ込む。ポーチから電子タバコを取り出すアグネ。流れる仕草で着火スルw
「何やってんの?」
「休憩よ」
「休憩ですって?」
1服して光悦の余り目を瞑るアグネ。
「貴女、さっき休憩したばかりじゃない。ソレに御屋敷は禁煙ょ?タバコはケムい、ダサい、クサいのトリプルパンチ!」
「電子タバコょ?ソレにアタシ、コレ以上ホールにいたらノイローゼになっちゃうわ」
「ノイローゼになるのは私!」
スピアはポーチからアロマオイルの小瓶を取り出して、急いで香りを嗅いでから、再び地獄のホールへ飛び出すと、エアリがメイド服で御帰宅。休憩か?
「そうだ!貴女がいたわ。エアリ!」
「何?ってか、お帰りなさいませ、お嬢様?は?」
「良いから!ねぇお願い、話があるの」
露骨にウンザリ顔のエアリ。
「ねぇ。私達、人前では話しかけないって約束じゃなかった?」
「ルール違反なのはわかってる。でも、私一生恩に着るから御屋敷を今だけ手伝って!」
「え。私が?」
笑い飛ばすエアリ。
「ご冗談でしょ?」
「お願い」
「ハッキリ言わせてもらうけど、私、メカゴジラって嫌いなの。アレはゴジラへの冒涜ょ」
一理ある。
「ミユリ姉様の大叔母さんが倒れて入院してるの。姉様は大叔母さんのコトで頭がいっぱい。御屋敷のコトで姉様を心配させたくない。私じゃナイの。姉様のためだと思ってお願い!」
「情に訴えるつもりなら…無駄よ!」
「そこを何とか」
食い下がるスピア。拝み倒す。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ICU 104号室。コード・オレンジ発生!ガンジ先生、至急ICU 104にいらしてください」
「大叔母さんだわ」
「ご家族の方?こちらへ!」
ERナースに連れられICUの控室に急ぐミユリさん。
ガラス越しにICUの中が見えるが声は聞こえないw
「拍も血圧も計測不能です」
「パドルを200にチャージ」
「了解」
医師が飛び込んで来て、何か指示を飛ばしてる。
「離れて」
「クリア…反応なし」
「くそ!300にチャージ」
「クリア…反応なし」
「400に上げろ」
「反応ありません!」
隣室は何も聞こえない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
病院にスピアが駆け付ける。ミユリさんが振り向き2人は見つめ合う。手をつなぐ。そして、ハグ。
「大丈夫。きっと良くなるわ」
「でも、ドクターは悲観的なの。こんなの信じられないわ。昨夜はあんなに元気だったのに」
「そうね」
珍しく取り乱すミユリさん。
「こんなコトなら、昨夜カレルの個撮で幼女のコスプレなんかしないで、大叔母さんとずっと一緒にいれば良かった。なのに、私ったら個撮のオファを受けちゃって…なんてバカなの」
黙ってミユリさんを抱きしめるスピア。次の言葉を待つ。
「わかってるわ、スピア。私ったら、今、とってもバカなコトを語ってる」
「ねぇタマには、思い切りバカなコトを言えば良いのょ。自分を責めないで。姉様のせいじゃナイし。私も残る?」
「いいの。心配してくれてありがとう…あら?でも、御屋敷は今、どーなってるの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
僕の部屋。
エアリが背中の羽根で飛びながら窓から侵入しベッドに着地。僕に馬乗りになる。彼女は妖精ナンだ。
「おいおい、何の冗談だ」
「黙って。しばらく、コンカフェのメイド長の代理の代理ってのをやるコトにしたわ。だから、テリィたんも1日に3回御帰宅するコト。OK?」
「朝昼晩かょキツイな…ひょっとしてミユリさんの件で、何か劇的な心変わりをしたとか?」
言葉に詰まるエアリ。図星だ。
「何?悪い?テリィたんだって、ミユリ姉様を助けてあげられなくて、1人で悶々としてたンでしょ?世の中や秋葉原に腹を立ててる?ソレなら、最後の手段でテリィたんがメイド服を着てお給仕スルってのもアリだけど?」
「じゃチェキのバック50%で…エアリ、図星だょ。気分は最悪だ」
「ミユリ姉様の大叔母さん、容体が悪化したんですって。姉様を励ましに行けば?」
鏡を見ながらエプロンをつけるエアリ。萌え。
「スピアが逝ってる。カレルだって」
「でも、姉様が真っ先に電話して来たのは誰?自分でもわかってるでしょ?」
「あのさ。いつもエアリはミユリさんに近づくなと逝ってたょな?どーゆー風の吹き回しだよ?」
少し真面目な顔になるエアリ。
「ちょっと考えたのょね。もし自分の大切な人が倒れた時、1番大事な人にソバにいて欲しいって。とにかく!私は御屋敷でメイド長の代理の代理っていうのをやって来るわ。だから…何してるの?テリィたんは外神田ERに行って。今すぐ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
上野駅構内のコインロッカー。チアガール達が戻るが解錠しても開かズ、係員がバールでこじ開ける。
「一二の…やっと開いた!」
「何だったの?誰かのイタズラ?」
「誰かがアセチレンガスバーナーでも持ち込んだのか?鉄の鍵が…完全に溶けて溶接されてる。コレじゃ開かないハズだ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
満員のコンカフェの中を悠然と歩くエアリ。完全なる美貌を目の当たりにし満員の歯医者達は平伏す。
辛うじてテーブル席から声がかかる。
「あの…お姐ちゃん」
「お姐ちゃん?私には、貴方みたいな弟はいませんけど」
「しかし…このステーキ、ウェルダンで注文したのに、レアが出て来たンだ」
鼻で笑うエアリ。キッチンに下がるフリして皿に手をかざすと忽ちジュウジュウ音がして油が爆ぜる。
「コレでよろしいかしら?」
隣のボックス席では、残飯が山になっている。思い切り大きな溜め息をつき、黙々と片付けるエアリ。
「嫌だ。もしかして、エアリ?マジ?」
「なんで"ブラックホール第2.5惑星人"のコスプレで残飯の後片付けなんかしてるの?」
「エアリ。コスプレイヤーは何よりもイメージが大切なの。わかってるでしょ?貴女がそんなみっともないコトをしていると、友達の私達までグレードが落ちちゃうわ。直ぐにヤメてくれない?」
文句を逝うコスプレ仲間。鼻で笑うエアリ。
「ふん。くだらない」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「テリィ様。少しお話し、出来ますか?」
メイド服のエアリが(窓からw)飛び出して逝った後でチャイムが鳴る。扉を開けたら…ミユリさんだ。
第3章 神の領域
夜の和泉パーク。ベンチに2人、腰掛ける。
「どうして、外神田ERからテリィ様にお電話したのか、自分でもわかりません。その理由をずっと考えてきました。私は、約束を破ったワケですし、気まずい思いをさせるコトになって…でも、あの時はどうしても電話せズにはいられなかった。大叔母さんが倒れて、スッカリ気が動転して。とてもマトモに考えられる余裕がなくて、理性なんか吹っ飛んじゃって、ただ自分の心の声に従うしかなかった…ソレでテリィ様に電話したのです。だって、あの時、誰より話したいと思ったのはテリィ様だったから」
ミユリさんは、何か話があってERを抜け出して来たのだ。僕は、黙ってミユリさんの次の言葉を待つ。
「ソレから、もう1つ考えたコトがあります。こんなコトを口走って悪いのですが…もし、出来るコトなら大叔母さんの命を救いたい。もし、テリィ様に人の命を救う超能力がアルとしたら…」
そーきたか。
「ミユリさんは、僕に人の命を救う超能力ナンてナイことは良く知ってるハズだ。でも、こう思うンだ。仮に、ソンな超能力が使える人がいるとして、ソレを使って人の命を助けるのは、ソレは誰かが起きてはならない事故に見舞われた時だけだって」
「私が音響兵器で撃たれた時とか…ですか?」
「YES。恐らくミユリさんのようなスーパーヒロインにとって音響兵器は唯一の弱点なのだろう。でも、大叔母さんの場合は違う。人の寿命や運命を変えるコトは、例えスーパーヒロインにだって許されない。ソレが可能だとしても、決してやっちゃいけないコトなんだ。なぜなら、ソレは神の領域だから」
ミユリさんは静かに聞いている。最後にうなずく。
「そうですょね。テリィ様、よくわかりました」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
東秋葉原のコスプレ居酒屋でチアガールと懇親中のカレル。傍目には店員に粘着してるように見えるw
出禁行為だw
「ねぇカレル。私達、いつも新幹線を上野で降りて駅のコインロッカーでコスプレしてから秋葉原に繰り出すンだけど、この前、ロッカーの鉄製の鍵が見事に溶接されてたの。溶接ょ?鍵が完全に溶けて固まってた。誰かがバーナーでも持って来て溶接したのかしら」
「マジ?金属製だろ?」
「例のエスパー女子が超能力で仕返ししたとか。ホラ、私達が袋叩きにしてやったから」
どっと笑い声が起きる。実際には、全員が1人ずつミユリさんにギブアップさせられたらしいのだが。
「あら?ミユーリには良い警告になったんじゃないの?女房気取りでテリィ様につきまとうなって」
「カレル、貴方も喜んでよ」
「…何?君達、ミユリを闇討ちしたのか?そりゃまた余計なコトを!」
ベンチ席から立ち上がり居酒屋を飛び出すカレル。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「まもなく面会時間終了です」
館内アナウンスを聞き、ひとまず大叔母さんの病室を出るミユリさん。ソコヘ飛び込んで来るカレル。
「大叔母さん、どんな様子かな?」
「変わりないわ」
「ちょっと良いかな。話があるんだ」
west wing entranceで話をする2人。
「今、ミユリが大変なのはわかってるけど、チアガール達は、僕とは関係がないんだ。ソレだけはゼヒ明らかにしておきたかった」
「ソレ…一体どーゆーコト?」
「チアガール達が勝手にやったコトなんだ。つまり、俺の仕切りでやらせたワケじゃないんだょ」
ますます怪訝な表情になるミユリさん。
「何の話なの?マハラジャ」
「ミユリをパーツ通りで闇討ちにして、みんなで袋にしてギブアップを奪ったコトだ。ミユリ、元TOには何も隠さなくて良いンだょ」
「…あのチアガール達は、どうしてそんなコトをやらかしたの?」
答えに詰まるカレル。
「どうしてって…ソレは池袋でミユリのマハラジャだった僕のためカモしれない」
「はぁ?マハラジャのために、東北地方のチアガールがナンでそんなコトをスルの?」
「ソレがわかれば止めたさ」
急に怒りが込み上げてくるミユリさん。
「マハラジャ。そんな人達とよくヲ友達でいられますね?どーゆー神経?」
「ま、待てょマハラジャ思いの良いチアガール達って美談ナンだ。訛ってるけど」
「いいえ、全然良くないわ」
ミユリさんの気迫に推されるカレル。
「何でそう決めつけるんだ!勘弁してくれ!」
「何を勘弁するの?」
「俺は関係ナイって言ってるのに、何でそんなに怒ルンだ」
この人はダメだわと切り捨てるミユリさん。
「貴方がテリィ様のコトを悪く話したのでしょ?でなきゃ純朴な東北娘が私を襲うハズがナイわ!」
「ミユリ!何でそんなに奴に肩入れすルンだ?」
「テリィ様が理由もなく中傷された被害者だからょ。テリィ様は、ヲタクを傷つけるようなコトは何1つしてないのに!」
歯ぎしりして悔しがるカレル。
「やっぱりな。ミユリ、テリィは君のTOなのか?」
「いいえ、違います」
「良かった…」
安堵するカレルに決然と告げるミユリさん。
「貴女もTOじゃないわ」
真正面からカレルを直視スル。
「カレル。貴方を出禁にします。もう2度と私を推さないで」
「トミ子達が君をギブさせたから俺と別れるって言うのか?」
「いいえ、理由はそれだけじゃないわ。もっともっと複雑なの」
「テリィのせいだな」
ほとんど泣き声のカレル。
「テリィは危険だ。南秋葉原条約機構も目をつけてる。だから、アイツだけはヤメておけ」
「もう逝くわ。大叔母さんが心配だから」
「ミユリ!」
歩き去るミユリさん。振り返る。
「さようならマハラジャ」
決然と歩き去る。残されたカレルは頭を抱える。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「大叔母さん」
病室。涙声で呼びかけるミユリさん。後ろ手にドアを閉めながら入室スル僕。ミユリさんは振り向く。
「ミユリさん。運命を変えるコトは許されないけど"さよなら"を逝う権利は誰にでもアルと思うょ」
ミユリさんは頷き、管をくわえベッドに横になっている大叔母さんの脇に立ち、その手を両手で包む。
大叔母さんの心の中に入って逝く…
目を瞑る。フラッシュバック。息を飲む…やがて世にも情けない顔をしてミユリさんは僕を見上げる。
「ダメです。テリィ様」
「良いんだ、ミユリさん。もう泣かないで」
「ミユリ。私の可愛いメイドさん」
振り返る。僕達は、ソコにパジャマ姿の大叔母さんを見る。ニコニコ笑っている。コレは…幽体離脱?
「その人がテリィたんね?TVで見るより貧相」
余計なお世話だが、大叔母さんは、うれしそうだ。僕は舞台役者のような仕草で気取った挨拶をスル。
「大叔母さん!私にとって大叔母さんは何よりも大切でかけがえのない人だった。だって、大叔母さんは、いつも私のコトをどこか特別だって感じさせてくれる人だったから。私、大叔母さんがいなくなったら、コレからどうしたら良いの?」
「ミユリなら大丈夫よ。自信を持ちなさい。だって、貴女は私にソックリだもの。私はね、貴女にソレを伝えに来たの。貴女は、いつも自分の人生を前向きに見つめてる。瞳を輝かせてね。その前向きさは、神様からいただいた大切な宝物、永遠の宝物なの。だから、約束してちょうだい。コレからも、何ゴトをも恐れズ、いつも正直に生きて逝くと。結果を恐れてはダメ。自分の心の声だけを信じて逝きなさい」
「約束するわ、大叔母さん」
ミユリさんは涙を拭く。そっと大叔母さんの手に触れる…次の瞬間、量子多体系における古典確率では説明不可能な相関が現れる。量子もつれの発現だ…
心音停止を指す無機質な電子音。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"アキバで働くミユリのブログ 4月24日。自分の心の声に正直に生きて逝く。ソレは、とても難しいコトだ。私の心の声は、刺激的で、魅力的であると同時に、とても危険で、恐ろしい世界へと私を誘う。その逝く末に、必ずしもハッピーエンドが待っているとは限らない。そして、今日。改めて自分に言い聞かせる。私は、あの愛しい一般ピープルの日々へは2度と引き返せないのだと。"
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夜のパーツ通り。街灯の下でミユリさんと向き合う。
「テリィ様、ありがとう。私…」
その唇に手を当てて言葉を遮る。黙って手を広げると、真っすぐに駆け込んで来る。街灯の下でハグ。
さらば、愛しきパンピーの日々よ。
もう僕達は帰らない。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"日記"をテーマに、日記、というか日記をブログに置き換え、ブログが流行り出した頃を懐かしく思い出しながら、描いてみました。ジュブナイルに必須の青春期に日記をつける乙女心、人の日記を見たがる心理などを描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、インバウンドが増えすっかりヲタク指数が減った秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。