救済
四話目ということ。
「ぶうへぇっ!ごほっごほっ。いつまでこんなことをしないといけないんですかぁ…」
僕が喉から無理やり引っ張り出したかのようなか細い声で言う。
「お前がこの‘‘呪い‘‘をほんの少しでも使いこなせるようになるまでかな。」
目の前に血を吐いている人間がいるにもかかわらず何一つ表情を変えずに無慈悲な言葉を発した不愛想なこの男は七草 仁。
なぜ僕がこの不愛想な男によってスパルタな教育を施されているのかは二日前に遡る…
ー二日前ー
僕はいろいろあって暮らしていた町が焼け野原になり、突然現れた女二人組に襲われていた。そんな絶体絶命なところにこの男は現れた。
「こんなか弱そうな男に二対一。お前らも落ちたもんだな…」
そう言い放った仁は僕を見ながら悲しそうな表情を浮かべていたのは色濃く印象に残っている。
「誰だ貴様!!」
背の高い女がそう言うと、小柄な少女は鬼の形相で女に質問を投げかけた。
「本当にあの男の顔に見覚えはないのか?あの裏切り者の顔が!!」
「裏切り?私には見覚えがありませんが。」
「そうだったな。お前がウチに入ったころにはもういなくっていた。教えてやろう。あの男は…」
「お喋りはそこまでにしてもらおうか。」
少女が何かを言いかけた瞬間、仁は話を遮る。というか今の話からするにあの少女は女よりも年上ということなのか?僕は常識とはかけ離れた世界に足を踏み入れ始めようとしているのかもしれない。と今更感のあることに僕が気付いたところで突然少女が仁に飛び掛かった。
「目標が変わった。今すぐ貴様を排除する!」
少女は手刀にオーラをまとわせ仁に切りかかった。それに対抗するように仁も手にオーラをまとわせ手刀を防ぐ。それを煽るかのように少女は言う。
「あの時みたいに、手を異形の形に変えないのか?それに純粋な魔力の放出量も下がっているな。」
「あの力はもう俺の手元にはありませんから。それにしても先輩はあの時から全く成長していませんね。」
仁から帰ってきた言葉が癪に障ったのか少女は声を荒げる。
「うるさい!とにかくお前はここで殺しておかなければいけない人間なんだ!」
少女の手にまとわせたオーラが大きくなり、対抗していた仁を押し飛ばす。
「アマツさん!‘‘黒の呪い‘‘のことはもういいんですか?」
「そんなただ見ているだけで攻撃もしてこないやつのことなど放っておけ!それよりもこいつを一秒でもはやくこの世から葬り去るぞ!」
どうやら僕は彼女らからのターゲットから外れたようだが今の言葉は中々に傷ついた。たとえ本当のことだとしても言い方ってもんがあるだろう。無理やり力を渡され何も知らないまま巻き込まれた被害者に言っていい言葉ではない。文句を心の中で響かせながら三人の戦いを眺めていると仁が押され始めてきた。この機を狙っていたかのように少女はニヤつき女に向かって言った。
「トウカ!今すぐあれの準備を始めろ!」
「了解。」
女はそういうや否や大きな結晶に対して力を籠め始めた。
「やはり禁術を使ったのか…落ちるとこまで落ちたもんですね。あんたらも。」
残念そうにそういった仁はそれを見通していたかのようにポケットから小さな結晶を取り出し、力を籠め始めた。その一連のしぐさで少女は何かに気付いたように焦り始めた。
「させるか!」
「もう遅いですよ。魔力…開放!」
次の瞬間、その結晶は仁の手から離れ、女に向かって飛んでいく。
「よけろトウカ!」
少女が女に怒鳴ったが既に遅かった。結晶は女に着弾し、爆発した。偶然か必然かはわからないが女に怪我はなく、結晶だけピンポイントに壊れていた。そのことに腹を立てたのか、少女は声を荒げながらいう。
「貴様…あいつを殺さないのか。お前はなら殺せたはずだろう!」
「そんな力今の俺にはありませんよ。それにあいつ気に入っているんでしょ?昔の借りを返したってことで。」
「ちっ…つくづく甘いやつでうんざりする。トウカ!もういいから引き上げるぞ。だが次あった時には必ず殺すから貴様もそのつもりでこい。」
「了解。」
僕はどうやら助かったみたいだ。そのことに安堵し胸をなでおろしていると、仁が話しかけてきた。
「お前が今の‘‘呪い‘‘の保持者だな?」
呪いという言葉がどういう意味なのかわからず僕は首を傾げる。それを察したのか仁は説明し始めた。
「カナリという男にその力を渡されたはずだ。その力のことを俺らは‘‘黒の呪い‘‘と呼んでいる。」
こいつはカナリのことを知っているということに僕は一筋の光を見出した。そしてこの力についても知っている。‘‘黒の呪い‘‘というこの力は確かに呪いというには十分すぎるものである。仁はさっきの話の続きを話し始める。
「お前がどういう経緯でその呪いをもらい受けたか知らんが、持ち続ける限りさっきの奴らから追われ、嬲られ続けるぞ。それに見たところ呪いを使いこなすこともできないようだしな。」
「この呪いを使いこなすことなんてできるんですか!?」
純粋な疑問だった。もしこの呪いを使いこなすことができるのなら不老不死にプラスして強力な力まで自分のものにすることができる。そんな妄想をしにニヤついていると、仁が無慈悲な言葉を言い放つ。
「もし使えこなせたとしても100%の力を出し切ることはほぼ不可能だ。出せてもせいぜい40ってところだな。それにその痛みは消えないぞ。あと夜に悪夢を見るだろう。それは歴代の呪いを持っていたやつらの悲惨な記憶と叫びだ。」
とんでもないことを言い放つものだ。それを聞いて僕は今すぐにでもこの力を手放したくなったがそれは不可能だ。がっかりしている僕に向かって仁は言う。
「だがある程度あつかえれば、今日みたいなやつらを撃退することはできるようにはなるし、俺は多少扱い方を知っている。教えてほしいのならば教えてやってもいい。」
きっとこの呪いを持っているうちはさっきの奴らはまた来るだろう。今回はたまたま運が良かったものの、またこんなことがあればどうなるかなんてわかったもんじゃない。
「僕に呪いの扱い方を教えて下さい。」
「いいだろう。ただ一つだけ条件がある。」
また条件か。僕はあのことで少し条件という言葉に敏感になっている。それほどあれは怖かったのだ。
「それは決してその力を生きている自分以外に渡さないということだ。」
「どういうことですか?」
「そのままの意味だよ。まぁとりあえず守ってくれればなんでもいい。」
「分かりました。僕から一つ聞いていいですか。」
「かまわないよ。」
「なんで呪いについてこんなに詳しいんですか?」
仁はどこかさみしげな表情を浮かべながら答える。
「俺は先々代の呪いの保持者だ。」
なんとなくわかっていたが聞かされてみると少し驚く。先々代ということはカナリに力を授けた人物ということになる。そのことを仁に質問する。
「あんまり答えたくないし一つって言っただろ。あと俺は七草 仁。お前の名前は?」
「僕の名前は光…平 光です。」
ちょっと長めです。