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色鮮やかな華

夏でも山の夜は非常に涼しいく網戸にしておくとそれだけで涼しい風が入ってくるため、陽が沈めば半袖だと少し肌寒いと感じることさえあった。

そんな涼やかなある夜、祖父母が花火をしようと誘ってくれた。

数日前、「出掛けて来ると」言い残し、祖父が山の麓まで軽トラックを走らせて行ったのは今夜のためだったのかと気付きなんだか擽ったい嬉しさが込み上げた。

祖父がバケツに一杯の水を汲み、私と祖母が仏壇からロウソクとライターをそれぞれ持ち出し、そうして砂利が敷き詰められた庭先に3人で寝巻き姿で出かけて行く。

ここには電柱が殆どなく、夜が深まれば深まるほど月明かりだけが頼りになり天の川さえ見えてしまう場所だった。

そのせいで裏手の山々や夜空に広がる漆黒の空に吸い込まれて逃げられない、そんな気持ちにさせられて少しだけ心臓が跳ねた。


「どれからやるだ?」


祖母が花火の入った袋をガサガサと漁りながら私に尋ねてきた。


「ちょっと待って、今選ぶ」


祖父が買ってきた袋に詰められた花火はどれも心を躍らせるかのように、たくさんの手持ち花火が詰められ、非常にやりごたえがありそうだった。

さあ、どれから遊ぼうか。なかなか選ぶことができずにいると、横から「これ」と鈴を鳴らしたような可愛らしい声と共に、1つを指さす真っ赤な着物を着たあの少女が立っていた。

「じゃあこれにしよう」


少女の声に答えるように私は大きく頷き「どうぞ」と女の子に1本手持ち花火を渡し、私も同じものをもう1本取り出した。

私たちの様子に少しだけ目を見開いた祖母は、


「じゃあ一緒にやってみりん、でも振り回しちゃいかんよ、危ないでね」


そう一声掛けてから、縁側に座って微笑んでいる祖父の隣に腰掛けた。

少女と一緒に火の灯る蝋燭へ近づき花火に火が点くまでじっと見つめ続けると、程なくしてパチパチと音が鳴り初め、次第に2人を明るく照らしていく。


「綺麗ね」


女の子がそう呟いた。


「うん、綺麗だね」


ただそれだけの会話の中に、なんだか温かいようなそんな気持ちになったのはこの花火のお陰だろうか。

花火が最後にぼっと2つ音を上げると、また静かな闇が2人を包み込んだ。

水の汲まれたバケツの中に花火を入れ、さあ次の花火を取りに行こうと立ち上がる。


「ねぇ、ありがとう。葵ちゃんによろしくね」


そう少女は声を掛けると、月明かりを頼りに軽快に闇夜へと走り出して行ってしまい、私が何かをより先に少女の姿は見えなくなっていた。

それならば仕方がない、彼女の願いを叶えてあげよう。


「おばあちゃーん、葵ちゃんによろしくだってー!」


少女にも聞こえるように、夜ということも忘れて大声でその言伝を叫ぶ。

葵は祖母の名前だ。きっと2人は知り合いなのだろう。

私の声に祖母は「こら!」と声色だけ一瞬怖くするが、どうしても笑いを押さえられなかったのだろう、ぷっと噴き出した後、またおいでと伝えるように私に声を掛けた。

私は急いで少女が向かった方へと振り返り、今度も大声で闇の中にきっと隠れている少女へと声を掛けた。


「またおいでってー!」


もう見えなくなったその背中を、祖母はいつまでもいつまでも見つめ続けていた。

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