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神様

一体この状況はなんだ?

俺は誰に何を言われている?


いつも通りの時間に出社して。

道路の反対側にいる子供が急に親の手を離れて。

狙い澄ましたかのようにトラックが突っ込んできて。

とっさに道路へ飛び出して。

そして……。


「おーい、聞いとる?」


エセ関西弁のおっさんに話しかけられている。

……なんで?


整理したところで状況が飲み込めないことを確認し、俺は仕方なく目の前のおっさんと会話することにした。


「あなたは一体誰なんですか?」


「君、声は聞こえてるけど話は聞いとらんみたいやな。何回も言うとるやんか。神様よ、神様。もうこれ言うの5回目くらいやで?」


呆れた顔をしたおっさんが、まだ3回目の説明を繰り返す。

ただ、5回聞いても10回聞いても到底納得できるようなことではない。


「いや、だってどう見てもただのおっさんじゃないですか。神々しいオーラが出てるわけでもなければ、何かそれらしい格好をしているわけでもない。せめて頭に輪っかのひとつでも載せていれば信じられるんですけど。」


「ただのおっさんて……。初対面のおっさんにすら流石に言わんやろそんなこと……。あと輪っかとか気軽に言うけど、軽率に既存の宗教と被せたら面倒なんやで?君が日本人だからあんま気にしないだけかもしれんけど。」


「神様を騙る割には人間が勝手に考えた話に左右されるんですね。」


ほれ見たことかと言うと、目の前のおっさんは露骨に嫌そうな態度で愚痴を言い始めた。


「勝手に考えた言うけどね。推測で自分の存在を言い当てられて、しかも本物より高尚にされてるこっちの身にもなってみ?おかげで君みたいなやつを信用させるのも一苦労やで。」


「それは……なんかすいません。」


不本意ながら謝ってしまったが、勢いがついたおっさんの愚痴は止まらない。


「というか状況的にわかるやん。君がちびっこかばおうとしてトラックにぶつかって死んで、こんな真っ暗な世界でぼうっと見えるおっさんと話しとるんやで?こんなん神様以外の何物でもないやん。」


……やっぱり、俺はあの子をかばった時点で死んだんだ。

だが死んだ後悔よりも先におっさんからの説教に対する怒りが来るのは、最早おっさん側に人を怒らせる才能があると言ってもいい。

こちらもムキになって喧嘩腰で話す。


「いくらここが非現実的なところでも、やっぱり現実的なおっさんに私が神様ですよと言われて『はいそうですか』ってわけにもいきませんよ。それに俺が死んだって言うなら早く天国でも地獄でも連れて行ってくださいよ。さあ。」


「天国でも地獄でもって、君が勝手に死んだからどっちにも連れて行かれんのやないか!その話をしに来たのにおっさんだとか信用ならないだとか、ええ加減にせえよ?」


俺の言葉を聞くや否や、それまで愚痴愚痴と言っていたおっさんの語気が強くなる。

その後もおっさんの愚痴は止まらない。


「まったく、全ての生には定められた寿命があるってのに。なんでそれを勝手に変えようとしちゃうかね?人間は。おかげでこっちの仕事は増える一方なんよ。ほーんま、無駄に知恵ばっかつけおって。何が医学の進歩やねん。人の命を弄びおって。」


なんだかものすごいことを言っているぞ、このおっさん。

たとえ神様だったとしても随分とご挨拶な物言いだな。


「あのー……それも含めて調整とかできないんですかね?」


恐る恐る質問する俺に、おっさんは呆れ顔で返す。


「いやできるよ?できますとも。こっちも医学の進歩に対抗して新種の病気生み出したりしてんのよ?でも人間共がそれを上回るんやもん。まったく新米に何やらせとんねんって話やで。」


「人間共って……。というかそもそも、それだけ大変なら人手を増やしたり自動化したりできないんですか?」


「あのなぁ。そんなポンポン神様が増えると……いや、増やしちゃえばええやんな。わしんときみたいにな。そうか、そういうことだったんか。なるほどなー。」


おっさんは突如一人で納得したような口ぶりを見せ、その後ポケットから電話を取り出して遠ざかっていき、何やら連絡を取り始めた。

そういうところが人間じみてるから神様っぽくないんだけどなぁ……なんて言ったらまた愚痴愚痴と言われるんだろうな。


とかなんとか思っているうちに、電話を終えたおっさんが戻ってきた。


「君の処遇が決まったで。君は今日から神様や。同じ神様としてよろしゅう頼むで。」


「えぇっ!?いきなり神様ってどういうことですか?それに今日からって、そんな横暴な!」


「じゃあこのまま君の意識をぷつんと切って人生おしまいでええか?言っとくけど天国も地獄もあらへんからな。ここで君が断れば、後に待つのは完全な『無』や。おーこわ。どうする?」


今までの鬱憤を晴らすかのように、おっさんが脅し文句を投げかけてくる。

おっさんに気を取られて忘れていたが俺はすっかり死んでいるわけだし、ここで断れば『無』が待っているというのもあながち嘘ではないのだろう。


「……わかりました、じゃあ神様になります。」


俺がそう言うと、おっさんは今までで一番の笑顔を見せながら詳細を説明し始めた。


「おーそかそか、なってくれるか。いやー助かるね。じゃあ最初のうちは君ん家の近所を担当してもらおうかな。しばらくの間よろしく頼むで。」


こうして俺は二つ返事で神様になってしまったらしい。

まだ実感が伴わないけど、しばらく神様として振る舞っていけばそのうち板についてくるのかな……。






「すいません、聞いてますか?」


「あァ!?誰だよオッサン!つーかここはどこなんだよ!」


「何回も言ってるじゃないですか。俺は神様で、あなたは死んだんです。」


「んな訳あるか!スーツにネクタイの神がどこにいんだよ!神だってんならもっと神らしくできねぇのか?」


……なるほど、神様も大変だ。

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