とうとう大人になってしまった
『BLACK SHY1』
何が、「くだらない」だ。彼等は何も分かっちゃいない。
いや、ある意味分かっていてこれみよがしにそう言っているのか?だとしたら彼等はよっぽど怠慢だ。
おっしゃる通り、これは実にくだらないのだ。
逆にこれが彼等にとっても大層な難題だったなら、僕はこんなに苦しまずに済んだのに。
壁があるのだ。勿論「くだらない」と語る皆には分からぬであろう。これは僕等にだけに荷せられた壁なのだ。
「荷せているのはお前自身だろう?」
僕はこの忌ま忌ましい台詞が大嫌いだ。今までも何度か上司やら小数の友人やら、神に撰ばれた『人付合いエリート』達が、まるで諭と言わんばかりに遥か高台からこの類いの言葉を吐いたものだが、そんな事は言われなくても十分分かっているのだ!
自ら作り上げたこの酷く薄い壁は、確かに彼等の言う通り脆いのかも知れない。触れただけで、もしかしたら触れなくとも、跡形もなく消し去ることが出来るのだろう。
でもそれは、彼等ならば、の話であって、それが僕に当て嵌まるとは限らない。
僕の見解はこうだ。この壁を壊すにはある種の能力が必要なのだ。それは力技などではなく、きっと超能力のようなものだ。だから、どんな優れた格闘家でもこの能力がなければかすり傷すらつけられないが、逆に能力があれば手足の無い人にだって簡単に打ち倒すことが出来る。
「もしかしたら僕にもこの能力があるのかも知れない」と考えて奮起しようと思い立ったこともあったが、やめた。
だって、確かめる術が、やってみる事しかないのだ。しかし、実際にぶっつけ本番でやっぱり自分には出来ず、彼等の感じる『脆い』と、僕の感じる『強固』が同意義であると改めて思い知らされたら………と想像したたけで、僕は恐ろしくて、恥ずかしくてたまらなかった。
僕等は言わば難病を抱えているのだ。だから皆、僕を笑ってはいけない。皆、僕を馬鹿にしてはいけない。でも僕を捨て置くというのは良くない。僕は決して人と断絶したいのではないのだ。
僕の望みは、ごく当たり前の輪に、君等の中に組み込まれる事だ。それもごく自然に、向こうからやって来なければならない。
だから僕に手を差し延べたまえ。僕から討って出るなんて真似は出来やしない。いや、一心に覚悟を決めればもしや僕にもそれは可能かもしれないが、それでは不平等であろう?
君等に簡単に出来ることを僕が命懸けでやらなければならないなんて。
だって僕は怖いのだ。
だって僕には至極難しいのだ。
ならば当たり前のことのようにそれを熟すことが出来る君等が僕を助けるのが合理的慈愛というものである。
それなのに君等は、助けるどころか罵倒し、嘲笑するばかり。
だから君等は怠慢である、全く怠慢である………。
テキストメモをそのままコピーしてしまったので、振り仮名が入っていますがすみません。ついでに、誤字脱字、ご容赦下さい。