未来的な
ある日の昼下がり、街中を歩いていたとある男。
彼は目の前を歩く女を目にした途端、体に電流が走った感覚がし、思わず近寄り声をかけた。
「プ、プリティッシモン……」
「パ、パウ?」
女は突然、男が口走った言葉に驚きはしたが悪い気はしてない様子。
男もそれがわかると、ソワールソワールと女を口説きにかかる。しかし……
「……ゲグ、グライガガウゥ?」
「ピ、ピネ……」
「ガイガッガガウゴウア!」
「ペピン! ペピン!」
突然、二人の間に別の男が割って入ってきて、女を怒鳴り散らした。どうやらこの二人は恋人同士のようで、彼氏は声をかけられ満更でもなかった彼女にお怒りといったところ。それがわかり、退散すべきところだが、彼女の余りの怯えように危険を感じた彼は引き下がらなかった。
「……ゲグ、スタンピオ」
「ガガァ? ジーグワズ、ダン!」
「フゥー、ケレケレ。トトイトトトッツ」
「ゲガァウ、ゾギィ……」
「ピピモニ! ペペウニ!」
男二人の間に漂う険悪な雰囲気に、女が止めに入る。が、彼はそれを手で制し、構えた。男もまた構える。
カルタジャルナの始まりである。女もこうなっては仕方がないと二人から離れ、そして声を出した。
「ク!」
「クランパウナ!」「クシクススノウナン!」
「ワンテン!」
彼女が出したお題に同時に答える二人。と、どこからか湧き出た審判に彼は少々面食らったが、すぐに呑み込んだ。周りを見ればいつの間にか人だかりができている。が、どうでもいいことだ。彼女がこの雄姿を見ていてくれてるなら。
だが、それもこの男に勝たなければ意味がない。最初のポイントは取られてしまったと苦い顔をする。
「ロ」
「ロロンアモニカ!」「ロパウトルト!」
「トゥートゥー!」
彼は危うく地面に膝をつくところだった。答える速さは一回目と同じく、ほぼ同時だった。しかし文字数はこちらが上。勝ったと思ったのだが、まさかそれを予期しテルタを放ってくるとは、この男、強い……とそう思ったのだ。
「ジ」
「ジュロビッチ!」「ジョバジョウジルバ!」
「……ワンテン!」
審判が彼に向けて手を上げる。ようやく一点返した。観客が沸く。しかし、アイテムであるピケットを使ってしまった。破損し、もう使用することができない。どうする……と彼は次の手を――
「おい」
「はい」
「いや、なんだそれは。全然わからんぞ。なにかのスポーツなのかゲームなのか、どういうルールかも何もわからん。言葉で戦うのか?」
「カルタジャルナです」
「だからそれがわからないと言っているんだ! まったく……これがお前の想像する未来の小説か。ふん、やはり創造性に欠けるようだな」
男はそう言い、アンドロイドに跪くよう指示した。
暇つぶしにと小説を作らせてみたが、こんなものかと鼻で笑う。世の、そしてこのアンドロイドに搭載されているAIも進歩しているがやはり機械。人間には程遠い。
「登場人物が話しているのは未来の言語か……。大方、戦争だなんだで数が減り、最終的に人々が集まり新国家ができて、生まれた新言語ってところか。世界は一つに平和にか? ああ、それともある日、宇宙人が地球に訪れ、彼らと交流するうちに言語も変化しという風にか?」
「いえ、登場人物はすべてアンドロイドです。人類は絶滅しました」
「それもありきたりすぎる」
男はそう言い、跪くアンドロイドの頭を足で小突いた。
アンドロイドは男に聞こえないようただ一言。
「ゾギィ……」