学校に行かないのはいい。事情もあるだろう。しかし、勉強をしないと大変なことになる。いや、俺が迷惑を被った話
「山田さんの教え方、全然分かりません。教育係を変えて下さい!」
バイトの新人が、課長に食って掛かっている。
新人教育が始まって2週間目に突入している。
教育係の教え方が悪くて、耐えられないと言う理由で無断欠勤もした。
3日、いや、1日で覚えられる会社のシステムへの入力作業を、一週間経過しても覚える見込みがない。
しかし、
「・・・・・・」
課長は黙ったままだ。
話し声が大声で響くが、
誰も俺の代りに彼女の教育係を引受けると申し出る者はいない。
俺も、
「交代させて下さい。無理です」
「山田君、皆、嫌がっている。もう少し頑張ってくれ」
と言われる始末・・
何故なら、課の者は、皆、彼女の行動を目撃しているからだ。
「1、2,3・・・」
と、彼女が指を使って、数を数えている姿だ。
近くに計算機もあるし、いつもイジっているスマホに計算アプリあるだろうに、目もくれない。
仕方ないからと、半日、俺が算数を教えている姿も目撃されている。
(ヤベえよ)
と声がチラホラ聞こえてきた。
俺は山田だ。入社二年目の事務方だ。
決して、頭が良い方ではない。
私も、教わった時、前任者は、例外を事細かく説明するタイプだったので、うんざりしたのだ。
私の覚えが悪いのもあって、3日かかった。
いや、最後は、過去の書類を見て逆算をして覚えたのだ。
今教えている仕事は、その程度の内容とも言える。
他に覚える仕事は沢山ある。
初歩で躓いている状態だ。
☆
「山田君、君が教えてくれ」
「はい、わかりました」
「よろしくお願いします」
彼女の第一印象は、明るく、人に好かれるタイプだ。コミュニケーション能力が高いと思った。
周りともよく話す。
しかし、初日で躓いた。
「勤務時間は、1日7時間と45分だから・・・」
「????え~と、でも、会社にいるのは、8時からだから、1、2,3・・・う~と、9時間くらいいますよ」
(え、指で数えているの?)
「いや、休み時間、午前中、午後、10分ずつ取るでしょう?お昼休みは50分だよ。それを引いた時間だよ」
「・・・・・はあ」
黙っちゃったよ。ここは「実労働時間ですね!」とかにならないか?
おかしいと思えることが続く。
「今日は、残業コンマ75ね。あ、0.75時間ということだから」
「???え、1時間は60分ですよ」
・・・もしかして、この子、学校行っていない?
と思わざるを得なかった。
PCの前に、マニュアル、過去に打ち出した書類があるが、それを見ないで、うんうんうなっている。
時々、思い出したように、入力するが、おかしいくらいに全部間違っている。
「マニュアルと書類、見て仕事しても良いのだよ」
「・・・・・」
終業間近になっても、まるで出来ていない。課長に見せなければならないのに・・・
もしかして、文字読めないのか?
と疑問に思ったが、メモを取る能力はあるが、
(文字汚くて、読めねえ)
本人は読めるのだろうか?と不思議に思う汚さだ。何か、幼児の覚えたての文字と言う感じだった。
結局、私は0.25=15分、0.5=30分とメモに書いて渡した。
「どうして、15分が、25になるか理由が分からないと前に進めません」
と彼女は反発した。
「うわっ」と声に出てしまった。
この時ぐらいから険悪になった。
「何故、皆、30分引くのか分かりません」
「トイレや移動時間などの手持ち時間だよ。仕事の進み具合を管理しているよ」
「皆、違うかも知れないじゃないですか?いいんですか、それで?」
「じゃあ、君の仕事にするから、この事業所の全員に聞いて回ってよ」
「・・・・」
☆結局
「山田君、彼女、今日から職場に来ないことになった。辞めてもらった」
「クビですか?」
「ああ、試用期間中だからね。実は・・・」
話を要約すると、
会社に提出した履歴書と、入社してから書かせた書類の文字が違いすぎる。
と言うことで、不審に思った人事が取り調べをしたそうだ。
結果、
「お母さんに履歴書を書いてもらった?」
「彼女のお母さんは趣味で、書道をやっていたみたいでね・・・困ったものだ。この会社は、バイトは中卒でもやる気と能力があれば採用するが、履歴書と彼女の第一印象で、採用が決まったそうだ。彼女の最終学歴は、個人情報だから聞いてない」
「ええ、多分、小学校の高学年ぐらいから、学校に行ってなかったのでしょう。
彼女、比例の概念もありませんでした」
この人数でこれぐらいの仕事が出来たから、人数を増やしたら、これくらいになるなと予測が出来ないのである。
彼女に、半日かけて算数を教えたときに、いろいろ分かったのだ。
-の計算が、理解出来なかった。
小数点も最後まで理解出来なかった。
それに、学習することになれていないなと思った。
「義務教育って、実はすごいのではないか?」
その後、採用したバイトは、その業務を、片手間で覚えた。