四節〈機械仕掛けの神は暇を持て余している〉/1
右に曲がって、左に曲がって。
また右に曲がって、更に曲がる。
迷い無く、ずんずん歩いていくオルガ。
『至って普通』という顔をしているが、流石に何度も曲がっていれば気付いてしまう。
彼が、複雑怪奇な道筋を辿っていることを。
クロッサスの裏路地は、それほど入り組んでいない。
街を建設する際、かなり徹底的に計画を詰めているからだ。
意図的に分かりにくい行き方をしているのは、秘密基地とやらの場所を覚えさせないようにするためだろう。
しかし、その類の手はレイフォードには通じない。
隣のテオドールに視線を寄越せば、彼は頷いた。
「……ごめんね、オルガくん。道覚えちゃった」
「は? んなわけ……いや、待て。もしや本当に……?」
疑わしそうに見るオルガに、レイフォードは懇切丁寧に道筋を教える。
曲がり方から逆算した、本来の行き方と共に。
レイフォードは、瞬間記憶能力が凄まじく良い。
一瞬だけ見せた精霊術の陣を、筆一本で描けるほどだ。
そんな少年にとって、こんな小細工を破ることくらい朝飯前だった。
「……クソ、類友ってやつか」
「おい、どういうことだよ」
「そのまんまの意味に決まってんだろボケナス」
ぴきと聞こえそうなほどに青筋を立てるテオドールを宥めながら、更に奥へと進んでいく。
通常の道筋に戻したのか、先程までの苦労は何とやら、六人は直ぐに目的地へ辿り着いた。
「ようこそ、とは言わねェが……ここがオレたちの秘密基地だ。
他の誰にも言うなよ」
廃材で組み立てられた小屋。
子どもだけで造ったとは思えないほどの完成度だ。
扉代わりの幕を上げると、中には本格的な家具が置かれていた。
|塗れの卓に、椅子。
随分古いものだが、術具の灯籠まである。
「シャーリー、ただいま!」
「大丈夫……あれ、居ない?」
ルーカスとウェンディが、いの一番に中に入る。
向かった先は、仰々しい玉座のような椅子。
座面には柔らかそうな座褥が置かれていたが、その上には何も居ない。
隠れているのだろうか。
二人は躍起になって、椅子や机の下、棚の裏まで探す。
けれど、姿が見当たらない。
融けて消えてしまったように。
「……シャーリーどっか行っちゃった」
騒がしく探し終えた二人が発したのは、そんな言葉だった。
「……ああ、最悪だ。何でこんな時に……」
「オルガくん、その子は動ける状態だったの?」
「いや、そんなはずがねェ。
起き上がるだけでも精一杯、歩くことなんて無理だった。
……オレたちの知る限り、だが」
オルガは頭を掻き毟り、どかりと椅子に座る。
椅子の近くに置かれた水桶と餌を見れば、彼が嘘を吐いていないことはよく分かった。
ルーカスとウェンディが、オルガに寄り添う。
ぴったりと、隙間無く。
彼の庇護下に入るように。
「別にテメェらは悪くねェ。だから泣くな、いいな?」
荒く二人の頭を撫でたオルガだが、その顔は暗かった。
「……シャーリーは、気まぐれで自由で賢い。
気に入ったヤツの前にしか姿を現さねェし、姿を見せても直ぐにどっかに行っちまう。
だから、見つけ出すのは──」
「いや、出来るはずだよ」
俯いていた三人の顔がばっと上がり、レイフォードを見つめる。
「なんてったって、僕らには『かくれんぼの達人』とその弟子が付いているんだから」
振り返れば、仁王立ちする師弟が居た。




