二節/2
四年ほど前、レイフォードが目覚めた後。
ユフィリアと話し終えると、シルヴェスタ他数名から事情聴取を受けることになった。
しかし、一週間も眠り続けていたことから、調査自体は数日後に行われることになった。
ユフィリアが身体を再構したからか、体調はすこぶる良い。
久し振りによく眠れたし、失っていた肉体機能も完全に取り戻している。
レイフォードとしては今すぐしても良かったのだが、皆がそれを許さなかった。
精密検査や診療を代わる代わる行い、担当者全員が『良し』と言うまで離してもらえない。
そんな生活を丸三日ほど経て、ようやく事情聴取が執り行われた。
だが、レイフォードが話すべき内容は殆ど無い。
結界内の出来事は九割方ユフィリアから聞いていたし、外の状態は言うまでもない。
事実確認というより、二人の認識の擦り合わせのようなものだった。
ただ一つを除いて。
────お前は、どうやって結界の中に入ったんだ?
これこそが本題だとでも言うように、シルヴェスタが身を乗り出して問い掛ける。
それは、至極当然の疑問だった。
当時、二重に張られていた結界。
一つ目の結界は、精霊術の行使を妨げるもの。
二つ目は、外部からの干渉を一切通さないものだった。
殴り蹴り、机などを投げ付けても罅一つ入れられず、成す術もなかった貴族たち。
その間を潜り抜けてやって来たレイフォードがするりと侵入したことに、彼らは心底驚いていた。
────……僕にも分かりません。
入ろうと思っていたら、入れたとしか。
しかし、レイフォードでさえ、真実は知り得ない。
ユフィリアを救うために、無我夢中だったからだ。
可能、不可能以前に動かなければいけない。
そうして、あの結界に手を伸ばすと、何故かするりと入れてしまった。
だが、要因自体は見当が付く。
レイフォードの体内源素量だ。
精霊術は、源素量によって干渉力の強度が変わる。
あの結界を構築した術具にもかなりの源素が込められていたそうだが、無限にも等しいレイフォードと比べると、その差は歴然だろう。
同じような推論をしていたのか、シルヴェスタたちは特に何も言わず、事情聴取は終わった。
昏睡している間に諸々の処理は終わっていたから、本当に最後の作業だったのだ。
そこから一月ほど経った頃だろうか。
レイフォードは、初等学校に編入することになる。
アリステラ王国において、初等教育は義務教育であり、特殊な事情がない限り学校に通わなければいけない。
様々な問題が解決し、健康体となったレイフォードが通うのは自然なことだった。
通常就学は六歳から十一歳までの六年間。
レイフォードは一年遅れの就学であるが、学力に不都合も見られなかったことから、他の生徒と同様に二年生として生活することになったのだ。
そうして、五年の月日が経った。
滞りなく時は進み、現在は高等学校──《国立中央総合高等学校》の試験を控える六年生。
祝福保持者は入学が確約されているため、試験に落ちるということはない。
開けっぴろげに言えば、体のいい研究対象としての入学だ。
しかし、個人の能力値を測定することは必要であるから、試験自体は受けなければならない。
祝福保持者なんて未知の能力ばかりなのだから、尚更だ。
レイフォードにとっては、シルヴェスタやクラウディア、イヴたちが過ごした学び舎。
彼らのように最上位とはいかなくても、良い成績を取りたい。
そう思ったレイフォードは、テオドールと共に日々学習や鍛錬に取り組んでいた。
昼過ぎまである授業を終え、いつものように帰宅しようとした際のことだ。
────テオドール、悪いが教材を運ぶのを手伝ってくれないか?
四限目を担当していた教師が、帰りの支度をしていたテオドールに声を掛けた。
彼が振り返って許可を求める前に、レイフォードは教室で待っていると言う。
基本、頼まれ事を断らない性格のテオドールだ。
付き合いも長いことから、彼がどうしたいかなんて手に取るように分かる。
────ごめんね、直ぐ終わらせてくるから!
駆けていくテオドールの背に手を振って、レイフォードは机に頬杖を付いた。
ただ運ぶだけではなく、分配まで手伝わされそうなあの様子。
要領の良い彼なら、他の生徒と比べ然程時間は掛からないだろう。
要する時間は、恐らく十分ほど。
それほど苦でもない時間だ。
手持ち無沙汰に、窓の外を見る。
人の居ない中庭。
枯れた落ちた木の葉が、風に乗って舞っていた。
静かな中庭。
それとは正反対な、賑やかな教室。
誰も居ないから、誰も見ていないから。
だから、分かってしまう。
人の視線を集め、かつ遠巻きにされていることを。




