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十四節/2

 どう動けばいい、どうすればいい。

 悩み続けるレイフォード。

 ユフィリアは、その姿を見て笑いがこみ上げるどころか、最早可哀想だなとまで思ってしまっていた。


 レイフォードは、本当にユフィリアが計画に気付いてしまうことを予測していなかった。

 『ユフィリアに察知されないこと』、それこそが礎であったから。


 だが、現実は無情である。

 信じたくないことばかりが、事実なのだ。



「……ねえ、レイ。

 私ね、多分殆ど分かっているの」

「……それ、は。

 どこからどこまでだとか、訊いても……?」



 震えた声で、レイフォードはユフィリアに問う。

 知りたくないけれど、知らなければいけない。

 そんな彼の心情が声に滲んでいた。



「えっと……まず、レイがあと半月くらいしか生きられないこと」

「……そこから、そこから……?!」



 レイフォードは目の前の柵に手を着く。

 信じられないと言外に伝えているようなものだ。



「次に、お父様やシルヴェスタ様、テオも含めて、色んな人たちが計画に協力していること」



 レイフォードは頭を抱える。

 計画の内容がばれていなくても、それを知られていれば意味が無いではないか。



「最後に……レイが、自分が死んでも私が哀しまないように全部仕組んでるっていうこと」



 レイフォードは膝を付いた。

 完敗だ、隠さなければいけないことの大体が露呈している。

 試合は、始まる前から終わっていたのだ。



「でも、皆の言動から推測しただけだよ。

 誰も……レイとお父様以外は、計画自体について誰も話していないから、安心して」

「何も安心できないし、何してるんだよディルムッド様……!

 娘に甘すぎるよ……!」



 小さな背中を丸めて、レイフォードは嘆く。

 腕に顔を埋めたその姿に、悪役の雰囲気など欠片も無かった。


 

「もうやだあ……家に帰りたい……」



 今日この新年会に来なければ、レイフォードは残酷な真実を知らずにいれたかもしれない。

 

 それでも、結局のところ、ユフィリアにばれているのは変わりない。

 早く知るか遅く知るか、それだけの違いしかなかった。


 しかし、幸運だったこともある。

 一番重要なことを、ユフィリアは知らない。

 あれ(・・)さえ知られていなければ、まだどうにでもできる。


 だが、だが。

 かなり、結構。

 自分のせいで計画の大部分が露呈してしまったことは、心に来た。

 

 大きく肩を落とすレイフォード。

 その頬をユフィリアは突く。



「……何?」

「拗ねてるなあって思って」

「それはそうだよ。

 だって頑張ったのに、全部水の泡なんだから」



 くすり、と笑う少女。

 それに笑わないでよ、と怒る少年。

 永きに渡る仲違いは霧散し、そこには親しい友達同士の会話があった。


 一頻り笑い終えると、ユフィリアは空を見上げた。



「憶えてる?

 一年半くらい前、シューネの劇場の帰りのこと」

「憶えてるよ。

 あの日も、今日みたいに満月だった」



 王国随一の劇団による演劇、それを観覧した帰りのことだ。

 幾千の星が夜空に煌めき、月輪が淡く輝いている。

 夜風の爽やかさも相まって、とても美しい光景であった。



「あの時……なんで、あんなこと訊いたの?」



 ────例えば、大切な人が亡くなったとき。

 君は、その人を憶えていたいと思う?


 

 それは、レイフォードの迷いの象徴。

 償いきれない罪、後悔。

 


「……なんでだろうね、憶えていないなあ」



 嘘だ。本当は、憶えている。

 


「……そう、思い出したら教えてね。

 ずっと、気になっていたから」



 ユフィリアだって、彼の返答が嘘だと直ぐに気付いた。

 そして、嘘を吐いた理由に、彼の『大切な人』が関わっていることも。

 この状態のレイフォードは、意地でも口を割らない。

 問答するだけ無駄だった。


 互いに無言になる。

 冬の匂いを残す風が草木を揺らし、葉を散らす。

 月明かりに照らされた庭園には、冬咲きの花が植えられていた。



「……来週の夜の曜日、クロッサスに行くの」



 静寂を切り裂いたのはユフィリアだった。

 


「一人で行く。

 お父様にもお母様にも、ユミルにも。皆に内緒で」

「……どうして?」



 ユフィリア一人でクロッサスに来る意味なんて、考え付かない。

 クロッサスで揃うものは、シューネで苦無く揃う。

 態々何時間も掛ける意味が分からなかった。


 真意を探るため、隣のユフィリアの顔を見る。

 いつにもなく、真剣な顔をしている。

 呆けて見つめ続けるレイフォード。

 彼女は、その手を取って自分に引き寄せた。

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