表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/170

十節/3

 とある路地裏。

 座り込む少年と、仁王立ちする女性。

 


「レイフォード様」

「……はい」



 ──あれほど町中では手を離さないでくださいねと言っていたのに、何故離したのですか。

 仮に誰かが困っているとしても、自身を鑑みない勇気は蛮勇と言うのです。

 周りに相談できる人がいるのですから、相談してください。


 等々、レイフォードは正論によるお叱りを受けていた。



「ですが、私も至らぬ点は多くありました。

 今回は大事にならなかったことと、その行動理由により不問としましょう」



 溜息混じりに微笑んだ──ように見えるセレナは、レイフォードの体調を確認する。



「お怪我はありませんか?

 それと〝眼〟の調子はいかがですか?」

「どこにもないよ。

 こっちも落ち着いて来たから、大丈夫」



 情報過多により熱を上げていた脳は、小休憩によって通常へと回帰していた。

 再び加熱する可能性は大きいが、こまめに休息を取ることで、先の様にはならないだろう。



「……取り敢えず信用いたしましょう。

 人通りの少ない道を選び、的に休息を取りつつ露店街に向かいます。

 お二人もよろしいですね?」



 セレナがそう声を掛けたのは、背後に居た二人だ。

 片方はテオドール。

 もう片方は先程泣いていた少女、ローザ。

 どうやら迷子らしい。


 ローザは、共に来ていた両親と市場で逸れてしまった。

 原因は珍しい商品に気を取られて、繋いでいた両親の手を離してしまったからだった。


 レイフォードは降り注ぐ視線に堪えつつ、少女に|初めて会った振りをした《・・・・・・・・・・・》


 彼女は憶えていないのだろう。

 あの夜空の下の攻防を。

 レイフォードとテオドールが立ち向かったことを。


 それは、忘れていなければいけないことである。

 忘れていた方が幸せなことである。


 それでも、憶えられていないというのは、些か堪えるものがあった。


 ローザと直接話したわけではないから、ぼろはまだ出ていない。

 現に、彼女はテオドールと仲良く談笑していた。

 取っ付きにくい印象のあるレイフォードよりも、テオドールの方が打ち解けるには適任だったのだ。


 ローザ曰く、両親は雑貨店に行くと話していたらしい。

 行き先も被っていることだから、親探しも並行してやることになった。


 前後二人ずつ別れ、大通りから外れた小道を歩く。

 入り組んでいるが、人はあまりいない。

 潤滑に進んで行くと、ぱっと拓けた場所に出た。

 装飾品や雑貨店の露天街だ。



「どうですか、ローザ様?」

「……分からない」



 少女の背丈では見渡せないから、とセレナはローザを肩車し持ち上げた。

 幾許か高くなった視界の中少女は両親を探すが、見当たらないようだ。


 ローザの言葉からすると、別れてからあまり時間は経っていない。

 セレナのような慣れているものでなければ、人の波を掻き分けるのは難しい。

 逆走するのであれば尚更だ。


 市場の人混みの一部は、辿っていくとここに着く。

 この町出身でないローザの両親は、ほぼ確実にこの辺りにいるはずだった。



「もっと別の場所も探しましょう」

「……それなら、提案があるんだけど」



 テオドールが手を挙げる。

 彼がが提案したのは、『空』から探すことだった。


 テオドールは、今はある術具を使って《人族》と大差ない容姿となっている。

 当然、二対の翼もない。


 彼が主張したのは『術具を外し本来の姿になった上で、隠蔽術式を掛けてローザと共に上空から彼女の両親を探す』ということだ。



「隠蔽術式はセレナさんに掛けてもらうことになるけど、これが一番早く見つかると思う」

「……そうですね、レイフォード様はいかが思いますか?」



 レイフォードは逡巡する。

 セレナの隠蔽術式は目を見張るものがある。

 並の者では気付くことはできない。


 また、上空から探す、というのも理に適っている。

 唯一の懸念点は『ローザの安全と精神の保護が不安定であること』だった。



「ローザちゃん。

 貴方さえ良ければテオ……あの子と一緒に空から探せるんだけど、どうかな?」

「わたし、は……」



 不安そうに服の裾を掴む。

 それはそうだ、ローザにとっては空を飛ぶということは未知の恐怖である。

 神秘に馴染みのない者が選ぶのは難しい。


 レイフォードが別の方法を提案しようとした、その時だった。



「やる、わたしやる!」



 翡翠色の瞳を目一杯見開いて、少女は啖呵を切る。

 レイフォードは、再度ローザに確認した。



「危ないかもしれないし、怖いかもしれないよ」

「それでもやる!

 テオくん、手伝ってくれるんでしょ?」



 勿論、と背後の少年は拳を差し出す。

 勇気があるなら、それを挫くのは無用だろう。



「任せたよ、テオ」

「任された」



 テオドールは、下げていた首飾りをレイフォードに手渡す。

 瞬間、腕が翼になり、腰から二対目の翼が生える。

 瞳は猛禽類の様な鋭さを宿し、手足も鋭利な爪が目立つ。


 テオドールはローザを背負い、翼を伸ばした。

 殆ど同じ体躯であるというのに、彼は体制を崩すことはない。



「セレナさん、お願いします」

「承知いたしました。頑張ってください」



 セレナにしては長い詠唱だ。

 余程念入りに掛けているのだろう。


 最後の一節、そして《鍵句》を詠み終われば、レイフォードのような特殊な〝眼〟を持っている者でなければ見えないほどに存在が希薄になった。


 ふわりと風が巻き起こる。

 足は地を離れ、身体が宙に浮く。

 夜空の翼は、正反対な青い空へと羽撃いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ