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十節〈記憶の彼方に〉/1

 あの騒動から半年が経った。

 町はすっかり元通りになって、騒ぎの見る影もない。

 勿論、あの騒動を憶えている者もいなかった。



「レイくん、大丈夫? 辛くない?」

「大丈夫だよ。そこまで弱くないって」

「そうですよテオ。

 レイフォード様はもやしですけれども、ずっと外を歩く練習を頑張って来ましたから!」

「いつも一言余計なんだよ、セレナ」



 幼い子ども二人と若い女性一人。

 子どもの一人は杖を付き、もう一人はそれを心配そうに気に掛けている。


 現在、レイフォードとテオドール、セレナの三人はクロッサスの町へ買い物に来ていた。


 




 ユフィリアへの贈り物を選びたい。

 豊穣の月も中旬を過ぎた頃、レイフォードがそう言った。

 

 二人の文通も半年が経って手紙も大量に出していたものの、面と向かい合ったのは怪我を見舞いに来た日以外ついぞなかったのだ。


 そして一週間後、漸く会う都合が付いた。

 ほぼ半年振りに会うということで、何か贈り物を。


 しかし、今の自分には贈れるような物を持っていない。

 ならば、どこかに買いに行けば良い。

 そこまで考えてから、レイフォードは気付く。


 世間知らず過ぎて、何が適しているか全く分からない。


 欠陥も欠陥。

 論文ならば、根拠すらないような状態だった。


 

「……セレナ、仕事中にごめん。

 相談したいことがあるんだけど」

「レイフォード様が? 珍しいですね」



 この屋敷の使用人で一番若く、気心の知れているセレナに相談を持ち掛ける。

 揶揄われることは承知の上だった。



「……なるほど、それなら私が適任でしょう。

 この不肖セレナ、レイフォード様の初恋相手に相応しい贈り物を見つけて見せます!」

「だから初恋じゃないんだって!」

「……初恋……?」



 背後から聞こえた声に振り返る。

 そこには銀の差し色が入った黒髪の少年、テオドールが居た。



「ねえ、レイくん。俺何も知らないんだけど。

 初恋って何? レイくん、好きな人がいたの?

 誰、どんな人?」



 逃げられないように正面から肩をがっと掴み、前後に揺さぶって尋問する。

 鬼気迫るテオドールに気圧されつつ、レイフォードは誤解を解こうと必死に弁明した。



「誤解、誤解だから!

 ユフィのことだよ、友達の!

 そうだよね、セレナ!」

「そうですね、お友達で『初恋』のユフィリア様です。

 ……という冗談は置いておいて。

 テオ、レイフォード様は今度、ユフィリア様に会う際に贈る物について悩んでいたのです」



 セレナの冗談で一層強くなった揺れが、ぴたりと収まる。

 油の切れたブリキ人形のように首を傾げるテオドール。



「本当に?」

「本当です。私、嘘吐きません」



 元々の原因はセレナだろう。

 そうツッコミを入れたくなるレイフォードだったが、揺らされたことにより受けた傷が思いの外大きかった。



「……それで、町に買いに出掛けようとしたんだけど、僕だけじゃいけない。

 だから、セレナに手伝って貰おうとしたんだ」



 納得したらしいテオドールは、レイフォードの肩を離す。

 安堵して胸を撫で下ろした。

 

 が、依然テオドールは離れようとしない。

 今度はレイフォードの脇下に手を回し、後ろから抱き着くように拘束する。



「それ、俺もついて行きたい」



 予想通りの言葉が彼の口から飛び出した。


 テオドールがこの屋敷で過ごすようになってから、特に彼が自分付きの従者となってから。

 彼は、レイフォードを過保護なまでに守護していた。


 虫が出ればレイフォードの半径二(メートル)以内に近寄らせず、暑い日は逐一体調を確認し、咳でもしようとものならば寝台(ベッド)に強制送還しようとする。

 過保護を通り越して最早恐怖でしかないのだが、レイフォードもどこか螺子が外れているので『何か申し訳ない』くらいしか思っていなかった。

 類友である。



「仕事の方は大丈夫?」

「終わらせる。間に合わせる」

「私も問題ありません。

 主任に伺って参りますので、少々お待ちください」



 そうして十分後、許可をもぎ取って来た二人と共に、レイフォードは町に繰り出したのであった。

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