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十節/3

 準備の時間は、そう掛からなかった。

 懸念事項であった杖の所在云々は、レイフォードが空間干渉の術式を使用し取り出して、あっさり解決したので、残るは結界の調整だけだったのだ。

 


「お二人さん、痛覚の反映や負傷の上限設定どうするん?

 上限は欠損、痛覚はほぼ反映せん方がええと──」

「いえ、現実準拠でお願いします。

 全反映かつ死亡するまでで」

「……はい? ちょっと耳悪うなったかな。

 もう一回聞いてもええか?」

「現実準拠でお願いします。

 全反映かつ死亡するまでで」

「……あかん。うちの耳壊れてしもうたわ。

 自慢の狐耳やっていうのに」

 

 

 帽子の下で耳をへたらせながら、再度二人に確認する。

 結界の効果で現実の肉体への影響はないとはいえ、精神は保護されないのだ。

 

 

「本当にええんやな?

 痛覚は兎も角、死んだ感覚なんて人によっちゃ心の傷(トラウマ)もんやで?」

「承知の上です。だろ?」

「うん。そうじゃなきゃ納得できないし」

「……やっぱ怖いわあ、修羅の地は」

 

 

 これが十二歳かと慄くが、覚悟が決まっているならそれを否定するのも良くないだろうと、二人の意思に従う。

 調整自体は誰でもできるように説明書が置かれ、コレット自身も慣れていたので所要時間は一分ほどだった。

 


「改めて確認や。

 痛覚軽減なし、死亡判定まで中止なし。

 禁止事項も特になし、位階も術具も制限なしや。

 審判はうちが行う。

 賭けの内容は……敢えて聞かんわ。

 質問は?」

 


 二人が首を振ると、コレットは結界の仕様を決定させる。

 

 

「よし、始めるで! 双方規定位置へ!」

 

 

 地面に置かれた白い板の側に立つ二人。

 間の距離は約三・三尺(十メートル)

 詰めようと思えばいくらでも詰められる距離だ。

 

 互いに己の武器を構える。

 ユフィリアは銀の短杖、テオドールは杖と言い張っている木剣。

 精霊術使い同士の決闘に見えるが、彼女らにとって、杖とはそれが無ければ発動出来ないと思わせるはったり(ブラフ)と、術式を付与させて物理的に殴るための手段であるため、遠距離での撃ち合いはそこまで期待できないだろう。

 

 ユフィリアもテオドールも、レイフォード相手だと手を抜いている。

 本気を出されれば、レイフォードは一分も持たない。

 彼らの強さに、決闘部の上級生や、レイフォードたちと同じように施設見学に来た新入生は、度肝を抜かれることになるはずだ。

 

 

「ほな……決闘開始!」

 

 

 コレットが手を振り下ろすと、二人はまず一斉に距離を詰めた。

 

 

「お? まさか杖で殴り合うつもりか?!」

「金属とはいえ、短杖じゃあ分が悪いんじゃ──」

 

 

 隣で観覧する部員の懸念は、()()()()()正しい。

 しかし、あの二人は常識的外れだ。

 本来詠唱に十数秒掛かる高位の術式でも、短縮に短縮を重ね、片手で数えられるほどで発動できる。

 その中には、俗に『近接殺し』と呼ばれるものまでも。

 


「──〝蝕む(エルド・ネ)(テル・)氷の(グラシア・)(スピュア)〟」


 

 懐に潜り込もうとするユフィリアに木剣が振り下ろされる瞬間、白銀の氷茨が杖に絡み、また辺りに広がった。

 接触する氷茨と木剣、氷茨と足。

 鍵句からして、起こる現象は明白だ。

 

 

「……──〝溶解(ディソルティー)〟!」

 

 

 テオドールは即座に概念上位を取り、あの茨の山から撤退する。

 もう少しでも遅ければ、全身に茨が巻き付き、氷漬けにされてしまっていただろう。

 

 

「ほう……触れた箇所から凍らせる術式か。

 あれほど直前で発動されてしまえば、対処は難しい」

「それだけじゃない。

 質の悪いことに、あれは水さえあれば何でも凍らせられるんだ。

 つまり、無理に全部溶かそうとすると……」

「寧ろ被害が拡大する、と」

「正解。空気中の水蒸気すら利用できるからね。

 しかも、攻撃性の術式じゃないんだ。

 本質的には、接触した箇所を凍らせるだけ。

 指向性も攻撃性もない術式の源素消費量は、高が知れている。

 維持の消耗狙いで粘り勝つのは難しいよ。

 それに、時間が経てば経つほど、強固な壁にもなるんだから」

 

 

 次々と迫りくる氷。

 宛ら追い込み漁だ。

 前進は論外、後退は逃げ場を失くすだけ。

 生半可な術式では破壊しきれず、進行を遅らせるくらいだろう。

 

 ユフィリアは、基本的な術式を斜め上の方向に応用させることが多い。

 レイフォードやテオドールのような、人の域を出た源素量の持ち主と過ごしてきたからだろうか。

 消費源素量は少なく、それでいて相手に最大限に効果を与えられる方法を試行錯誤してきた。

 

 術式の簡略化、短縮化。

 逆に複雑化させてみたこともある。

 しかし、攻撃性の術式である時点で、どれだけ抑えても、かなりの量の源素を消費する。

 

 そこばかりはどうしようもない。

 『攻撃』という概念の付与をしなければ、相手を倒すことはできないのだ。

 ただ火を出したり、水を出したりで、相手を傷付けられるかというと──。

 

 そこで、ユフィリアはあることを閃いた。

 

 

 ────別に、相手を直接攻撃する必要って……無くない?

 

 

 多くの攻撃術式を撃てないのならば、少ない数でも確実に倒せるように環境を整えれば良い。

 寧ろ、倒すくらいなら物理攻撃だって構わない。

 だから、その分の源素を使って動きやすいようにしよう。

 

 舞台そのものを己の有利なように変化させ、相手に不利を押し付ける。

 直接命を奪うことはしない。

 ただ、相手が自滅していくだけ。

 

 それは、動けば動くほど身動きが取れなくなる蜘蛛の巣のよう。

 獲物は逃げることができず、檻の中へと囚われてしまう。

 いずれ動かなくなった獲物の元へ歩み寄った蜘蛛は、その牙を相手へと突き刺す。

 

 最小最低限の動きで最大の利益を出す、超広範囲環境侵略戦法。

 攻撃方法はただ一つ、短杖での刺突のみ。

 ユフィリアの最善の戦法とは、まさに蜘蛛のような戦い方であった。

 

 『近接殺し』、または『初見殺し』とも呼ばれるこれに、初見で対処出来た者は未だにいない。

 そう、()()では。

 

 

「そういうやつはもう、手の内割れてんだよ……!」

 

 

 彼女の戦法には、ひとつだけ弱点がある。

 少ない消費量で、大きく環境を変化させる──それなら、その環境をまた変化させてしまえば。

 元通りにしてしまえばいいのだ。

 

 消費する源素量が少ないということは、物質界への干渉力も必然的に弱くなる。

 そんな術式を『破る』ことなど、テオドールには容易かった。

 

 

「──〝術式(アルス・ディ)破壊(ストルーク)〟!」

 

 

 際限なく伸びた茨がテオドールに触れようとした刹那、ぴたりと静止したかと思うと、それは自壊した。

 罅割れた茨は新たに結氷することなく崩壊し地に落ち、大きな土煙を立ち昇らせ、そして源素の光へと綻びていく。

 


「術式破壊。

 それなりに高等技術……というより、相手の干渉力を上回らなきゃいけないし、相手の術式内容にしっかり合わせて打ち消さないといけないから、使い手が少なくて効率悪い術式だね。

 普通に使うけど」

「それはきみが並外れた源素量だから……いや、わたしも人のことをとやかく言えるようなものではないが。

 ……後で教えてもらおう。便利そうだ」

 

 

 そのようにレイフォードとローザが何気なく会話している横で、部員や新入生は沸き立っていた。

 

 

「術式破壊?! 初めて見た! あんな感じなんだ……!」

「あの氷、位階的には大体五くらいか。

 術式自体はそれほど難しくないとはいえ、あの規模を打ち消したなら、相当な源素を消費しているはずなんだが……ケロッとしてるな。

「……もしかして、打ち消した分の源素を回収してるのか?

 誰か視てなかったか?」

「視てた視てた。確かに、壊れた後不自然に消えたよ。

 でも術式使って吸い取ってた感じはなかったから、本人の体質か何かだと思う」



 考察を重ねる決闘部員。

 いつの間にか観覧者が増えていた。

 おそらく、外にいた部員たちだろう。

 見覚えのある銀髪が、『うちの後輩だぜ! 凄いだろ!』と言い張っていた。

 

 土埃が未だ晴れない状態で、ユフィリアは第二の策を仕込む。

 テオドールの源素量ならば、後三回は術式破壊を行える。

 相手の知らない精霊語による術式を組み立てるのも、彼の知識量からして難しいだろう。


 しかし、術式破壊にもまた、弱点がある。

 あれは、術式がどんなものかを認識しなければ、発動できない。

 つまりは、術式の詳細を見切られる前に発動仕切ってしまえば、破壊されることはないのだ。

 

 恐らく、テオドールは今、土煙の中に身を隠している。

 その手に持った木剣に、『力』を宿しながら。

 

 遠距離型の攻撃術式を撃つ、という可能性は少ない。

 そもそも彼はその辺りは不得意であるし、居場所が露呈するくらいならば近接での不意打ちを選ぶはずだ。

 

 ならば、打つ手は一つ。

 迎撃用攻撃術式の設置だ。

 

 奇しくも先の試合と同じような展開となったが、ユフィリアは自爆なぞする気はない。

 耐久力の面からして、もろに喰らえば、先に死ぬのはユフィリアの方であるからだ。

 

 幸い、どれだけ仕込んだところで相手からは見えず、源素残量も十分。

 四方八方の地面および空中に、おびただしい数の術式を構築する。

 


「──〝蝕む(エルド・ナル)幾百の(セントゥラ・ネテル)結氷の(・グラシア)の針(・アクス)〟」

 

 

 源素に反応して連鎖的に発動する罠。

 一度触れれば、陣から放たれる数百の氷柱が標的を射抜き、縫い止めるだろう。

 空気中の水分を利用して生成するようにしているため、一から創造するより源素消費量は少ない。

 そして、先程の茨と同じように、接触部分から凍らせる効果もある。

 

 精霊術は、異なる術式の同時使用は出来ないが、異なる術式を一つにまとめた複合術式は、一つの術式と見なされるため、擬似的な同時使用が可能になる。

 また、源素量に糸目を付けなければ、発動数も無制限である。

 ユフィリアが設置した攻撃術式は、そのような複合術式の一つであった。

 

 飽和攻撃の中で術式破壊を唱える隙はない。

 木剣で切り払うにも、この数では蜂の巣になるだけ。

 テオドールにとっては、ほぼ『詰み』と言ってもいいだろう。

 

 ──奇策がなければ、だが。

 

 念には念を入れ、ユフィリアは右手の杖を強く握り締め、いつでも()()を使えるようにした。

 

 あと数秒もすれば、砂埃は晴れる。

 テオドールは目が良い。

 姿を視認するのは、彼の方が早いだろう。

 

 加速か、転移か。

 手段は多くあれど、接近してくるのは確かであった。

 

 目を開けたまま息を潜め、耳を澄ます。

 少しの物音も聞き漏らさぬように。

 

 その時、突風が吹いた。

 砂埃が一気に晴れ、テオドールの姿が露わになる。

 

 が、一瞬にして姿を消した。

 

 ──縮地。

 声に出さずとも、ユフィリアはそれが何であるかを理解する。

 

 縮地とは、身体を大きく前傾させ、重力を利用して素早く移動する技である。

 そう、素早く移動するだけ。

 視界から消えるなどという効果はない。

 

 しかし、テオドールの場合は違った。

 彼の類稀なる身体能力による縮地は、その爆発的な速度によって、一時的に人の認知を外れることができるのだ。

 

 だが、それも近付いて来たことには変わりない。

 

 

「これで……終わり!」

 

 

 突然眼前に現れたように見えたテオドールに、予め設置していた術式が牙を剥く。

 振り下ろされかけた木剣も、未成熟ながらも鍛えられた身体も、全て射抜かれ縫いとめられた──はず、だった。

 

 鋭利な氷柱は、彼の身体を確かに射抜いた。

 だが、それが縫い止めたのは()()()()()()

 

 その姿は、陽炎の如く。

 揺らめく身体に、実体は無い。

 

 ──〝幻影(イドレア)〟。

 寸分違わぬ幻影を作り出し、対象が取るであろう行動を取らせる術式。

 

 まさか、ここで使うとは。

 面を食らったユフィリアは、すぐに正気を取り戻し、背後を振り返る。

 

 彼のことだ。

 どうせ背後、しかも空中かつ上段からの一撃必殺を狙った振り下ろし。

 圧倒的な膂力と速度の乗ったそれを喰らった者は、頭蓋を破壊され、即座に死亡するだろう。

 

 ああ、一手取られた。

 これは素直に賞賛してやろう。

 そう動くとは、頭の隅にもなかった。

 

 銀の瞳が、己を見据えていた。

 『これで終わらせる』と、ぎらぎらとした意志が輝いていた。

 

 その一撃を回避することは出来ない。

 防ぐことも出来ない。

 時間が足りない。

 

 

 ──だけど、素直に負けてやる義理もない!

 

 

 握り締めていた銀の短杖に、ありったけの源素を注ぎ込む。

 

 銀という金属は、いくつか特徴がある。

 金属の中で最も熱を伝えやすく、金に次いで展延性に優れており、錆びにくい。

 また、毒に反応して変色することから、食器等にも使用されることがあり、その派生なのか、伝承では魔を祓うものともされる。

 

 これらの特徴により、銀は金属杖に使える数少ない素材の一つに選ばれている。

 

 杖の素材は大切だ。

 一部の精霊術使いにとっては、生命線とも言えるものである。

 

 しかし、そのような者たちの中でも、金属杖というのは圧倒的不人気であった。

 

 理由はただ一つ、『扱いにくいから』。

 木よりも重く、取り回しにくい。

 源素の通りが良すぎて、逆に術式を編みにくい。

 すぐに曇るため、常時手入れをしなければいけない。

 

 他にも多くのダメ出しがあり、『初心者は絶対使うな。金属杖にするくらいなら、その辺の木の棒の方がマシだ』とも言われる始末。

 

 けれど、ユフィリアには、それでも銀で無ければいけない理由があった。

 

 ユフィリアは、一般的には体内源素量は多い方だ。

 だが、レイフォードたちと比べると、天と地ほどの差がある。

 その差を埋めるためには、彼らが出来ないことをするしかない。

 

 そこで目を付けたのが、銀であった。

 この考えが実現可能ならば、己は彼らと同じ土俵に立てるだろう。

 

 夢物語のような話だった。

 誰もがユフィリアの話を一度は笑った。

 

 だが、彼女はやってみせた。

 夢を叶えてみせたのだ。

 

 銀。

 木よりも重く、取り回しにくい。

 しかし、それは確かな重さがあるということ。

 源素の通りが良すぎて、逆に術式を編みにくい。

 しかし、それは上手く使えば源素の消費量を抑え、即座に術式を発動できるということ。

 すぐに曇るため、常時手入れをしなければいけない。

 しかし、それは『月』との概念関連をより強固にできるということ。

 

 ユフィリア。

 その名に込められた意味は、『美しき月』。

 

 ユフィリアと銀、月へ繋がるものたち。

 

 名は、物語は、言葉は、ときに世界へ影響する。

 

 だからこそ──どんな逆境であったとしても、それらは奇跡を起こすことが出来る。

 

 短杖には。

 正確には、短杖に取り付けられた精霊石には、一つだけ術式が刻まれている。

 それは、『銀を自由自在の変形させること』。

 

 源素を込めるだけで、短杖はユフィリアの意思に従い、自由自在に姿を変える。

 宛ら、満ち欠けする月のように。

 

 伸びろ、鋭く伸びろ。

 貫け、すべてを貫け。




挿絵(By みてみん)



 

 知性をかなぐり捨てた頭のまま、反転した勢いそのままに、右手の短杖を──否、細剣をテオドールの首へ向けて突き出す。

 頭のすぐ上には、すでに木剣の刃が迫っていた。

 

 頭蓋が割れる痛み。

 脳がぐちゃぐちゃにかき混ぜられた感触。

 視界が暗転し、天地が分からなくなる感覚。

 

 けれど、己の右手は。

 銀の細剣は、確実に彼の首を貫いていた。

 

 

 

 

 

 目覚めたのは、ほんの数秒後だった。

 長い夢から目覚めたときのように現実感がない。

 

 落下感と痛みと疲労。

 そして、死の感覚。

 

 あのとき、己は確かに死亡した。

 その自覚が遅れて襲ってくる。

 

 人であるからには避けられない恐怖心。

 どうしようもなく、肌が栗立つ。

 

 だが、同時に、どこか心が高揚していた。

 ──これが『死』か、と。

 

 

「おーい、大丈夫かいな二人とも?」

「……問題ないです」

「……俺も」

 

 

 駆け寄ってきたコレットに、ユフィリアとテオドールは返事をする。

 起き上がった限り、怪我はない。

 本当に、結界の中での怪我などは、現実には反映されないようだ。

 

 それはテオドールも同じようで、身体を見回した後、倒れた際に付いた砂を払い、立ち上がった。

 


「どうだった?」

「どうもこうもないよ。分かるでしょ?」

「……そうだな」

 

 

 言外に、()()を問うテオドール。

 そういえば、初めに提案したのは彼の方だったか。

 あまりにも潤滑に受け入れてしまったものだから、自分から言い出したものかと錯覚していた。

 


「貴重な体験だった。

 ……だけど、二度も味わいたいとは思わない」

「同感だ」

 

 

 同時に溜息を吐く二人。

 それがどこかおかしくて、少しにやけてしまう。

 

 しかし、このままでは駄目だと目を見合わせると、気を引き締めてコレットを向く。

 

 

「で、勝敗はどうなりましたか?」

「おう、聞きたいか。聞かんでも分かっとると思うんやが……ほい」

 

 

 半透明の板のように、空中に投影された結果には、大きく勝敗が明示されていた。

 

 そして同時に、歓声が巻き起こる。

 

 

「……まあ、うん。そうだよね」

「そりゃなあ……ああなったんだから」

 

 

 二人の名前の間に輝く『引分』二文字。

 どうやら、判定上も同時死亡であったようだ。

 

 

「……どうするよ、賭けは」

「どっちも、でいいんじゃない?」

「駄目だ。

 やるならどっちもなしか、一日独占権を半日にするかだな」

「……けち」

「何とでも言え」

「クソザコナメクジ意気地なし」

「そこまで言えとは言ってねーよ」

 

 

 小突くユフィリア。

 呆れたように返すテオドール。

 

 どこまで戦っても勝ち負け一対一になる二人は、今日もまた変わらない。

 


「またやろうよ。今度は勝つ」

「いいのか? 俺は騎士科の経験値が貯まるが」

「それでも勝つ。突破策なんて思い付かないくらいに完封するから」

「そうかよ、やってみろ」

 

 

 数尺ある身長差。

 けれど、立場に上下はない。


 どちらも彼を愛し、どちらも彼を欲し、そしてどちらも互いを戦友と思っている。

 絆というには些か血生臭い関係だが、このようなものの方が切れにくいのだ。


 一方、上から眺めていた賭けの対象はというと。

 

 

「ああやって拳を合わせてるけどさ、一回死んだんだよね二人とも。

 どんな精神力してるんだろう。頭おかしいよね」

「きみがそれを言うんだね……? 上に投げた短剣のようなものだろうに」

 

 

 幼馴染に対しては、何故か若干雑な対応をするのであった。






かくしてコレットによる校内案内は終了し、レイフォードたちは高等学校での日常を過ごすことになる。

 そして、四か月後。

 生命の月中の準備期間を経て、彼らは初めての文化祭を体験するのだ。

 

 ──その裏に、暗黒の陰謀があると知らぬまま、

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