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六節/3

 ヴァンが一通り説明を終えると、レイフォードは頭を抱えながら簡潔にまとめた。



「気配が人外(バケモノ)のそれらしく、戦慄していた……と」

「うん……包まず言えばそうなんだが」



 今まで浮いていた原因がやっと解明されたことで、レイフォードは納得するとともに、落ち込んでいた。

 まさか、そんな理由からだったとは。

 ()()()()()()()()()()()()、そこまで避けられると精神は相応に傷つくのだ。

 ましてや、自分では直しようのないものであるのだから。



「……取り敢えず、すみません。驚かせてしまって」

「こっちこそ、勝手に怖がってすまん。

 居ない三組目の奴らも含めて謝罪する。

 本当にすまなかった」

「ごめんなさい!」

「ごめんね、レイフォードちゃん」



 そう同時に謝られても、逆に困ってしまう。

 七人からの謝罪を何とか受け取った後、レイフォードは彼らの勘違いを訂正した。


 そもそも、こんなことになったのは、その勘違いが原因だったのだから。



「この状況じゃ非常に言い難いんですけど……僕、男です。

 ごめんなさい」



 一瞬の沈黙の後、全員の口から吃驚の声が漏れる。

 それもそうだ。

 彼らがレイフォードのことを幽霊だと勘違いしていたのは、彼のことを少女だと誤認していたのが原因だったのだから。






 中央校には、伝統のある学校でよくあるように、『七不思議』なんてものがある。

 そのうちの一つが、『校舎内を徘徊する少女霊』。

 夜中に忘れ物を取りに来た生徒や、戸締まりをしようとした教師陣がよく遭遇するのだとか。


 見た目は白黒の服に、青い瞳。

 金色掛かった肩口ほどの白髪の、十代前半頃の少女と、レイフォードと九割くらいの特徴が合致していた。

 普段着ならばともかく、一応公的な場だからときちんとした服装で来たのも悪かったらしい。

 偶然の一致ではあるのだが、レイフォードも傍から見ればそう思ってしまうほど、『幽霊』であった。



「『現実は小説よりも奇なり』ってか?

 まさかそんなことがあるとは……」

「僕もびっくりなんだけどね。

 教えてもらっておけばよかったなあ……」



 イヴや両親は一言もそんなことを言っていなかったため、レイフォードは一粒たりともその可能性を考えていなかったのだ。

 彼女らは幽霊などの怪奇現象に怯えるどころか斬り掛かる質のため、話さないのも納得ではあるのだが。


 尚、話している途中に『敬語はいらない』と言われたため、レイフォードは砕けた口調で話している。

 他の七人も同様だ。



「仕方ないさ。

 在学生や卒業生の中との繋がり(コネ)がなきゃ知りようがないし、知っていたとしても外部にはあまり出回りにくい情報だから」

「そうそう、あまり気に病まないで。

 ……って、あたしがいうのもなんだけど」

「学校って基本閉鎖的だもんね。

 割り切ることに……は出来そうにないけど、切り替えてくよ」



 打ち砕けたレイフォードは、七人と話せるようになってきた。

 あの後何人も入室してきて、噂を知っているらしき人たちが来る度にレイフォードに驚いていたが、彼らと話しているからか、皆特に気にすることなく去っていく。

 あのまま一人でいれば、入ってきた者が驚き、知らない者もその情報を聞いて怖がり、また更に、という永久機関になっていただろう。

 本当に、彼らの勇気さまさまだ。



「一組って神秘科は二十人だよね。

 あと……四、五人くらいかな」

「そうだな。

 試験開始まで後三十分もないし、もうすぐ全員あつまるだろ」



 試験用に置かれた時計は、午前十一時三十二分を示している。

 この空間には最後の組である四組目の受験者しか居ないので、ここにいるものが正真正銘同じ組の受験者になる。

 

 このくらいの人数なら、少しくらい外しても構わないか。

 そう思ったレイフォードは、眼鏡を直す振りをして、この場にいる七人を視た。


 全員、特筆すべき点がない、良くも悪くも普通の魂。

 普段ユフィリアやテオドール、家族のものを見慣れているレイフォードには、逆に新鮮だった。


 やはり、おかしいのは家の環境なのだろう。

 『普通』は、こちらのほうだ。

 環境の違いには気を付けなければ。


 アリステラ王国は、土地柄、地域の格差が大きい。

 東西南北中央に至るまで、基本、土地に関する話題は何一つ噛み合わないと思った方が良いのだ。

 東部内でも格差があるのだから、当然と言うべきかもしれないが。


 普通と思っていたことが、他人にとっては普通でないことは多々ある。

 今のうちに、揃えられるところは揃えておこう。


 なんて、レイフォードも初めのうちはそう考えていた。

 しかし。



「雪って本当にあんのか?

 白くて、冷たくて、ふわふわしてんだろ。

 綿みたいな感じ?」

「あるある。

 綿っていうより……何だろ、例えられないわ。

 雪は雪だし。

 冬になるとめっちゃ降るから、屋根から下ろすの大変なの。

 下ろさないと家潰れるのよ」

「やっぱり、南の人が(こっち)来て一番驚くのはそれだよね。

 私からしたら、寧ろ、砂漠って本当にあるのって感じ。

 朝と夜の気温差凄いんでしょ?」

「西は結構穏やかな気候だから、俺も気になる。

 一年中ほぼ変わらないからさ」



 あまりにも地域差が広すぎる。

 皆が柔軟性があるから何とかなっているが、先程までは食や文化が何一つとして伝わっていなかった。


 精霊術の話題は粗方話し終えてしまったため、ならば聞く機会が貴重な地域性の話をしようとなったのだが、それがもう難しい。

 一言一言解説を付けないと、話が始まらないのだ。

 

 同じ国の中であるというのに、こうも環境の差があると、本当に一つの国なのかと疑いたくなってくる。

 開祖リセリスの元に集まった異民族によって作られたとはいえ、土地にここまで差があるなんて、まるで──。

 

 

「どうした、気分悪いか?」

「……気にしないで、頭痛持ちなんだ」

「困ったときは言ってね。

 試験中はそこまで助けられないかもしれないけど……」

「大丈夫だよ。ありがとう」



 まただ。また、この頭痛。

 レイフォードは、この国の根幹について。

 もしくは、この世界の根幹について考えるとき、度々頭痛に襲われることがあった。

 考えるのを止めろ、というように痛むそれは、更に考えようとするほど強くなっていく。


 だから、レイフォードは、それほど深く考えることが出来たことがなかった。

 一度、レイフォード以外にも試してもらおうと思ったことはあるのだが、その度に頭痛が酷くなるので諦めていたのだ。

 他人に話そうとするときに露骨に酷くなるため、最早そういった術式が国全体に掛けられているのかもしれない。


 記憶操作も含め、この国は平和のためなら何をやってもいい節がある。

 そのくらいやるだろう、という訳のわからない安心感があった。


 十数分後、最後の受験者が集合する。

 そして更に十数分後には、三組目とは違う試験監督がやって来た。



「四組目、移動します。付いてきてください」



 その眼鏡の男性の支持に従い、レイフォードたちは闘技場へ移動する。

 いよいよ、試験本番だ。


 頭の中に、『嫌な予感がする』と言ったテオドールの顔が思い浮かぶが、横に振って掻き消した。


 大丈夫だ、問題ない。

 そう言い続けていれば、必ず成功する。

 だって、沢山準備してきたのだ。

 失敗するわけがない。


 とある世界では『フラグ』と呼ばれるようなそれを沢山立てながら、レイフォードは会場に向かう。

 どう考えても、『一番いいのを頼む』と言うほうが良いのにも関わらず。


 この世界に『神』は居らず、時間だって巻き戻らない。

 つまり──レイフォードの失敗は、定められた運命なのである。

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