八節/3
手を握って引っ張り上げる。
そうすれば彼女の身体は残骸の山から抜け出した。
露わになる曲線。
一糸まとわぬ、生まれたての姿。
まず目に入ったのは、豊満な胸囲だ。
幼子の頭部二つ分のそれが、彼女が身動ぎする度微かに震え──。
「取り敢えず服を着てください!」
という光景は見るに耐えず、レイフォードは己の上着を投げ付け、背後を向いた。
体格差からして、丈が足りないせいで余計犯罪的な絵図になるのは、一先ず置いておくことにする。
全裸と上着一枚、どちらが良いかと言われれば後者だろう。
恐らく、多分、確証はないが。
これは浮気に入るのだろうか。
そんなことを思うレイフォードの横を通り、エヴァリシアが彼女に飛び付いた。
「ラウラ!」
「エヴァ……すまない、心配を掛けた」
「……本当に良かったです。
どこか、お体に障るところはありませんか」
受け止めきれず、地面に倒れ込む二人。
胸に顔を埋めるエヴァリシアの頭を撫で、どこも不調がないことを告げると、ぽろぽろと嬉し涙を流す彼女と共に、服を作りながら立ち上がった。
「……お待たせいたしました。こちらはお返しします」
恐る恐る振り返ると、そこにいたラウラは深い紫色の騎士服を身に纏っていた。
大方、何かしらの神秘を用いて作り出したのだろう。
見るからに『人』ではない彼女の魂。
ラウラがレイフォードの予想通りの存在であれば、それくらい容易いはずだ。
そんなことを考えながら、差し出された上着を受け取り羽織り直す。
「……えっと、何かおかしいところでもありますか?」
「いいえ、何もありません。お気になさらず」
じっと顔を見られているような気がして、レイフォードはラウラに問い掛ける。
だが、彼女は表情一つ変えずに首を振った。
長い前髪に隠された瞳からは、真意を読み解くことは叶わない。
そうこうしているうちに、泣き止み目元を拭ったエヴァリシアが二人の間に立った。
「乙女として、不甲斐ない面を見せてしまいましたが……事のあらましを説明させていただきます。
ここでは何ですし、移動しましょう」
彼女が両手を打ち鳴らすと、一瞬のうちに風景が移り変わる。
どこまでも広がる黄昏の麦畑から、澄み渡った空が窓から覗ける屋敷へと。
「驚き……ませんか。残念」
「師で慣れていますので」
空間転移はイヴの得意技だ。
地上どころか空中に投げ出されたことのあるレイフォードにとって、このくらいでは驚かなかった。
「さあ、そこにお掛けください。少し長い話になりますので」
そうして、レイフォードは、エヴァリシアとラウラから今回の件について説明される。