七節/3
ねえ、終末装置。
どうしてアナタはそう在り続けるの?
それがアナタに課された役目だから?
果たさなければいけない責務だから?
でも、アナタはただの人。
『神様』なんかじゃない。
アナタは『人』になってしまった。
堕とされたのよ、人の身で奇跡を起こした狂人によってね。
そもそも、アナタは完全な『神』に成れていないじゃない。
『神』であることを強いられた、役割を与えられた、ただの人形。
舞台でくるくる踊り続ける、愚かな演者。
けれど、そんな役割も放り投げて、手を取ってしまったのでしょう?
救われることを願ってしまったのでしょう?
嘘を突き通せば真になるように。
虚構も信じ続ければ真実になってしまう。
在り方なんて、幾らでも歪められるのよ。
『神』という、『人』によって創られた幻想の存在。
それを演じ続けるアナタ。
どうなるかなんて、想像に容易いわ。
さあ、機械仕掛けの神よ。
人に成りなさい。
身も、心も、全て人になるのです。
一度棄てた役に固執し続けるより、愛する人と共にいる方がアナタのためよ。
と、つらつらと高説垂れ流したところで、アナタには聞こえてすらいないのでしょうね。
視えるだけだもの。
ああ、大変よね。
頑張りなさいよ、お嬢さん。
恋敵は沢山いるんだから。
言いたいことを散々──最期の独白は言わない。お節介に過ぎないのだし──言って、シャーリーは話を切り上げた。
「はい終わり! アタシはもう何も言わないから!」
「ありがとう、シャーリー。
僕らも流石に理由までは分からなかったからね。
言ってくれて助かったよ」
相変わらず宙にふわふわと浮遊するシャーリーに、レイフォードは苦笑しながら礼を告げる。
その頃にはもう直ぐ森に入るというところまで歩は進んでいて、特に話を続ける必要も無かった。
「貴方は明日どうするの?
自分の葬儀に参加する、なんて聞いたことないけど」
「……まあ、見に行くくらいはするわよ。
その帰りに契約を結ぶわ。
どうせ、あの子たちなら直ぐには帰らないでしょ」
確かにそうだ、と返すレイフォードとテオドール。
葬儀を終わらせれば、直ぐにシャーリーとの思い出の場所巡りでもするだろう。
それくらいの行動力の塊でなければ、『クソガキ三人衆』なんて言われないのだ。
「……じゃあ、アタシはそろそろ帰────何? どうしたの?
■■■がしくじった?」
そうして、シャーリーと別れる時だった。
耳をぴくりと震わせ、辺りを見回したかと思うと、虚空に向けて話し始める。
「……自分たちだけじゃ無理って、他の特位は?
あのジジババ共ならどうにかなるでしょ。
……はあ?! いや帰ってこいって言いなさいよ!
上級じゃ足手まとい、養分にしかならないって!」
張り詰めた空気は、緊急事態であることを伺わせる。
話の詳細は不明だが、かなり鬼気迫っているようだ。
恐ろしい剣幕でまくし立てるシャーリー。
その言葉が不意に止まり、眉間に皺を寄せた顔がレイフォードに向けられる。
「……連れて行く? 本当に言ってるの、それ」
「……ん? えっと、僕に何か用が────」
瞬間、身体から何かが抜けていくような感覚と共に、レイフォードの意識は暗転する。
崩れ落ちる彼の身体を一番近くにいたテオドールが素早く受け止め、セレナが寝かせた。
「レイくん……! 駄目だ、反応がない」
「心臓は動いています。脈拍も正常、傷痕も無し。
シャーリー様、何が起こっているのです?」
肩を叩いても声を掛けても、一切反応しないレイフォード。
その原因はシャーリーが知っているはずだ、とセレナは問い詰める。
「……精霊は、半永久的存在。
意図的に壊されない限りは、死ぬことはない」
「それが、この件と何の関係が?」
猫の手足で器用に顔を覆い、溜息を吐いたシャーリーは、空中からレイフォードの頭の辺りに着地した。
「やって来たの、精霊を殺すもの。
アナタたちが『魔物』と呼ぶ、怪物がね。
アタシも詳しいことは説明されないままだけど、この子はアレを殺すために連れて行かれたのよ」
レイフォード・アーデルヴァイト。
その身に宿す祝福は『浄化』。
怪物を殺すためだけの、終わらせるためだけの力である。