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ショートショート2月~2回目

小さなシャボン玉

作者: たかさば

 食器洗い洗剤のボトルを、持ち上げた。


 容器の先から、小さなシャボン玉が、飛び出した。


 ふわり、ふわりとシンクの上を舞う、小さな、小さな…シャボン玉。


 目の前を横切る小さなシャボン玉を、しばし目で、追ってみる。


 ゆらり、ゆらりと…漂っている。

 ふわり、ふわりと…浮いている。


 エアコンから噴き出す風が、ほのかにキッチンの空気を混ぜているのだろう。


 穏やかに、小さなシャボン玉が流れていく。

 のんびりと、小さなシャボン玉が揺れている。


 ずいぶん、長く…割れないでいるものだ。


 シャボン玉遊びをする時は、すぐに割れてしまうものなのに。


 ずいぶん、強い…シャボン玉なのだな。


 シャボン玉遊びをする時は、すぐにはじけてしまうものなのに。


 なかなか消えない、小さなシャボン玉。


 儚いはずのシャボン玉が、こんなにも…空を、我が物顔で、制覇している。


 なかなか、観られるものでは…ない。


 私は、スマホを手に取り、その雄姿を…写真に、収めようと思った。


 ……ぱちん


 写真のボタンを押した瞬間に、小さなシャボン玉は、はじけた。


 カメラを起動したスマホの画面に、シャボン玉の弾けたしずくが飛んでいる。


 ……ああ、こんな、もんだ。


 いつだって、撮りたい瞬間は、逃して。

 いつだって、撮りたい気持ちは、叶わずに。

 いつだって、撮りたいと思うのが、遅すぎて。


 スマホの画面についたしずくを、指で拭うと、うっすらと、筋が浮かんだ。


 欲しいと願ったものは、得られずに。

 欲しくないものばかり、得てしまう。


 たかだか小さなシャボン玉一つ見ただけで。


 つまらない事を思い浮かべ、つまらない1日をスタートさせて、しまう。


 ああ、今日は…つまらない日に、なりそうだ。

 ああ、今日も…つまらない日に、なるのだな。

 ああ、今日を…つまらない日に、するのだな。


 小さなシャボン玉一つで、私の1日が、決まる。


 小さなシャボン玉一つさえ、私は振り払う事が、できない。


 何をしても。

 何を見ても。

 何を聞いても。

 何を感じても。


 すべて、私に、纏わりついて。

 すべて、私に、影を落として。


 小さなシャボン玉が、私の前で、一つ、はじけた。


 ただ、それだけの、事なのに。


 ……はじけて消えた、小さなシャボン玉のように。


 私の中の、つまらない情緒過多が、はじけたら。

 私の中の、つまらない多情多恨が、はじけたら。

 私の中の、つまらない脅迫観念が、はじけたら。


 小さなことでかき乱される、貧弱な私の心。


 いつ、はじけるのだろう。

 いつ、はじけてくれるのだろう。

 いつ、はじけることができるのだろう。


 私は、小さなシャボン玉を求めて、洗剤の容器を、押した。


 しかし、小さなシャボン玉は、飛ばなかった。


 私の求めるものは、いつだって。


 私が求める時には、手に入らないのだと……悟った。 

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― 新着の感想 ―
[一言] いや、そんなネガティブにならなくても……。 シャボン玉が弾けたら、次のシャボン玉を作る。それくらいでいいと思いますよー。
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