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影向  作者: 水上祐真
第一章 人が消える街
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軋む音


 ある晩のこと。

 不意に目が覚め、暖まった布団の中で身をよじる。

 枕元の時計は暗くてよく見えないが感覚的に二時か三時だろう。酒も入ってないのに珍しい、と寝惚けた頭で考えながら何となく天井を見つめた。


 微かに違和感を覚えて耳を澄ますと、上の階の床が小さく、リズミカルに軋んでいる。防音のアパートなので声までは聞こえなかったが、まあそういうことだろう。

 お盛んですね、と心の中で呟きつつ、その日は再び微睡まどろみの中へ身を投じた。



 またある日の晩。

 ここ数日は忙しさに追われており、会社やホテルに寝泊まりすることが多かった。何とかして区切りをつけて帰宅し、殺風景な部屋で、冷えてはいるが愛しい布団に包まれる。

 いつぞやと同じ軋む音に気がついたのはその時だった。 

 お仲のよろしいことで、と鼻で笑って目を閉じる。別に気になるほどの音量でもない。


 ただ、以前は真上で鳴っていたような?

 

まあ模様替えくらいするかと一人オチをつけ、一つ息を吐く。とにかく今は疲れている。きっと泥のように眠れるだろう。



 次の日の同じ時間。今度は右隣の部屋からも同じ音が聞こえた。

 一定のリズムで、一定の強さで躍動する誰かさん。自分の横たわるベッドはそちら側の壁に付けているのでその規則正しさがはっきりと分かる。


 ──違和感を覚えるほどに。


 自分の右と左上で同じリズムを刻み続ける誰かさん。情事と言うにはいささか無感情すぎるのではないだろうか?

 一抹の不安を感じずにはいられなかったものの、幸運なことに眠気はやってきた。

 そう、気にする必要はない。


 二時間後。

 目が、覚めてしまった。

 寒さのせいだろうか、寝相のせいだろうか。それとも、今自分の左側で音を立てて揺れている"なにか"のせいだろうか。


 ようやく分かった。軋んでいたのはベッドでも床でもない。

 こちらを見つめる"それ"の、頭が千切れ飛びそうな程激しく振られる首の骨──


 ──夢だ。


 気にしちゃいけない。

 こんなことあるわけがない。


 なのに、身体が言うことを聞かない。

 目を閉じられない。


 見るな。見るな。見るな!



「あ……




 翌朝。

 カーテンの隙間から差し込む陽光が、真っ赤に染まった枕元をぬらぬらと照らす。

 

 遺体は見つからなかった。


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