牢屋の中の積もる話
二人のもたれかかっている牢屋の壁はヒヤリと冷たいが、そんな事は気にならない。
何故なら京美と村田。それぞれがどんな境遇でこの世界に来て、どんな風に過ごしてきたのかお互い積もる話があり過ぎる。
だから、背中の冷たさなど気にしている暇など無い。
「武田さん、さっきはいきなり悲鳴あげちゃってスミマセン! 私、久々に知ってる人に出会ったからテンションあがっちゃって」
「テンションがあがったからあんなに叫んだの……? まあ、いいけど……私さ、この牢屋には”苦悶の魔女”が居るから気をつけろって聞かされてたから、本当にビビっちゃったわ……」
村田は「へ?」と口を半開きにしている。
「苦悶の魔女…?ですか? 私、外でそんな風に呼ばれてるんですか!?」
「うん、呼ばれてる……で、顔見たら村田ちゃん。拍子抜けするわ……」
「えー!? 何で私にそんな怖い異名付いてるんだろ!? ウケちゃいますね! ふふふ!」
「自分でもわからないの? なんか人の顔を歪ませたから”苦悶の魔女”って呼ばれてるみたいだよ。こっちの世界に来ても村田ちゃんは変わらないねー」
「人の顔を歪ませた……? あー、あのおじさんと遊んでたこれの事かな?」
村田はゴソゴソとパーカーのポケットをあさり、携帯を取り出した。そして電源を入れると画面を京美に見せてきた。
画面には村田と”おじさん”がツーショットで写っていている、二人の瞳はやたらキラキラと光り小顔に加工されている。それは何時ぞやに見せてくれたあの顔を面白くさせるアプリ”Wnow”だった。
「私、目覚めたら赤い石がくっついた崖の下に居て、一人で彷徨ってたらマスクしたオジサン達に合ったんです! その後一緒にWnowで遊んでたりして……そしたら突然地震があってー……」
京美は村田の話に驚いた。
そして、一つ一つ質問をして謎を解いていこうと思った。
まず一つ目、それは携帯のバッテリーの事。
村田は自分よりも少し先にこの世界に転生されたはず、それなのに何故、今も携帯を使える事ができるのか??京美の携帯は手元にはあるがとっくにバッテリーが切れている。
「ねえ、村田ちゃん。なんで携帯のバッテリーまだ残ってるの?」
「あ、私ケータイヘビーユザーだから、これ常に持ち歩いてるんです!」
誇らしげに言い切るとゴソゴソと更にパーカーのポケットを漁る村田。
その手には文庫本?と見間違えるほど大きなモバイルバッテリーが乗っていた。
「武田さんも充電します?」
「いいの? 助かるよ。村田ちゃんありがとう!」
(携帯ばっかり弄ってる若い子の事……ちょっと呆れて見てたんだよなー……今はそれに助けられてる……)
「武田さん……、何か変わりましたね……?」
「え? 何が変わったの? 何処かにシミが増えたとか?」
京美は焦った様子で顔を擦りながら聞き返した。
「ふふふ、違いますよ! なーんか、話しかけやすくなった気がするんです!」
「そう?」
京美は照れ隠しでそんな風にとぼけてみたものの、実は自分でも変化があった事は自覚していた。
この世界に来て変わった事。
言葉に頼らなくても、人の真意を読み取る事が出来るようになった。
他人から自分はどんな風に見られているのか、それを客観的に見る事が出来るようになった。
それは、元の世界の京美には必要の無かった要素。
自分が気を使わなくても周りの人間は京美を気遣い、立ててくれる……。
しかし、実際には小谷に裏切られていた。
今の京美だったら、小谷の真意にも気づけていた筈。
「村田ちゃん、会社も嫌だったの? さっき言ってたよね」
京美のその問いにさっきまで元気だった村田は俯いてしまった。




