治癒草の採取
モーゼスを連れフタツ面の森を訪れた京美達。
当初、モーゼスには街で待っていてほしいと提案してみたが「後学の為だ、使える素材があるかも知れん」と言って聞かなかった為、一緒に来てもらっている。
タムトタムトが潜んでいる恐れがあるのでヤーシャ族達は辺りをキョロキョロと見回し警戒している。
京美も狩人気分で一丁前にダガーを構えてみたりして、後に続く。
「森の奥はこんなにも暗いんだな……一人では素材集めは難しそうだ」
やはり、フタツ面の森は人を容易くは寄せ付けない。
この筋骨隆々のモーゼスさえも畏怖している。
時折、京美達の気配で森の動物達が驚き、低い木の茂みがガサガサと動いたり、頭上を謎の鳥がギャーギャーと飛び立ったりしている。
その度に京美は「わぁ!」とか「ひぃ!」とか小さく悲鳴をあげデカの後ろに隠れる。正直、戦う気持ちが全く無い、なのでダガーを構える意味も無い。
タムトタムトやダイマルに襲撃された事がトラウマになっており、フタツ面の森に関しては以前よりもずっと弱気になっている。
「ねぇ京美姉貴、歩きづらいよ…… アリナちゃんは隠れて無いよ」
「うるさいな、トラウマになってるんだよ」
ムカつく!そんなに言うんだったら前に出てやるわ!
怒りから恐怖感が薄まり、京美は一人前に出た。
その瞬間。
ガサガサガサ!と前方の茂みが激しく揺れだした!
「!?」
思わず尻もちを付く京美!
茂みから現れた”何か?”も京美達の姿を見て驚愕の声をあげる!
「ワァヒャ!!」
茂みから現れた”何か”は、紫の燕尾服にシルクハットの男と赤髪の女性。
「え!? フィリップさんとブレンダさん?」
「あ!? シロウのお助け団の皆さん?」
「こんな所で何してるの?」
京美は立ち上がりズボンに付いた土をパンパンと払いながら尋ねた。
「あー……、サーカスの下見です」
フィリップはそう言いながら目を宙に泳がせる。
「ふーん、そうなんだ?」
大方、商売に使うつもりで”治癒草”を探していたんだろう。
「京美さん達こそ、こんな所で何を?」
「治癒草取りに来たんだけど?」
フィリップはその言葉を聞くと、明らかに目の色が変わりテンションが上がった。
「私達も付いて行っていいですか!?」
その横でブレンダは欠伸を噛み締め退屈そうな表情をしている。
「うーん、別にいいけど……結構危険だよ?気をつけてね」
「ワハハ! 有難うございます!」
正直、フィリップには治癒草の場所を教えたくないという気持ちが京美にはあった。
しかし、一般人が簡単に採取は出来ないだろう。
何せあのタムトタムトの洗礼が待ち受けているのだから……。
実際、京美達は生誕祭の前に仕込み用の治癒草を採取しに来た時があった、その時もタムトタムトに囲まれ牙を剥いて威嚇して来たのだ。そんな状況なのでヤーシャ族で無ければ治癒草に近づく事も出来ないだろう。
それに、フタツ面の森の聖獣”ダイマル”は石造りの屋敷に連れて行ってしまった。
森のパワーバランスは崩れ、治癒草の恩恵を独占しているタムトタムトがどうなっているか?
京美はその事を想像しただけで身震いし、デカの後ろに隠れた。
「もーう、京美姉貴、歩きづらいって……」




