フィッティングルーム②
京美は照れ隠しから、順番を待っているシロウの背中を押して試着室に押し込んだ。
「ほらほら、私はもう着替えたから、次はシロウ着替えてきなよ」
「ああ、そうだな」
カーテンが閉まる。
普通、着替えている最中なら試着室の中から、少しの衣擦れの音や気配がしても良いのだが、何故かシロウは音を全く立てない。
「……シロウ? 大丈夫?」
静か過ぎる……思わず心配になって声をかけた。
カーテンが勢い良く開き「何がだ?」とシロウは言う。
驚いた事に既に着替えが完了しており、着ていた服は新品の様に丁寧に畳まれている、驚異のスピード早着替え。
「あ、いや、静かだったからさ、無事ならいいのよ」
一体どうやって着替えてるんだろう…?謎の多い男だ。
シロウは白のフロックコートのタキシードで真っ直ぐなラインが男らしさをより一層引き出している。
「ほんとトコミチみたいだね、どう見ても俳優さんだよ」
「トコミチ?」
「あぁ、何でもないよ気にしないで、ねぇ、この礼服の色ってさ皆の角に合わせて作ってるんじゃない?」
「そういえばそうですね! デカさんは黒いコーディネート! シロウさんは白! アカさんは赤!」
ローズが笑いながら
「おや? 気づいてくれたのかい?」と言った。
あの短時間の採寸でそんな細かな所まで、決めていたのだろうか?京美はローズの職人としての仕事ぶりに驚いた。
アリナはドレスを手に持ってモジモジとしている。
着替えた後にみんなに注目されるのが恥ずかしいのだろう。
「アリナのドレス姿楽しみだよ!」
京美が声を掛けるとはにかんで見せ、いそいそと試着室に入った。
デカはアイドルを応援するみたいに
「アリナちゃん! 頑張れー!」とか声援を送っている。
「着替えてるだけでしょうが! しかも私には声援は無かったよね!?」
「だ、たって京美姉貴は、恥じらうとか卒業したと思って……、応援必要ないでしょ?」
デカはキョドキョドオドオドと言い訳をする。
私の”恥じらい”に気づかないとか浅い、浅すぎる。
ムカつく…。
ヘッドロックしてやりたかったけど、デカとは身長差があるし、角が腕に当たったら痛そうなので諦めた。
カーテンに小さな指先がかかる、アリナの着替えは終わったようだ、みんなの視線が集中する。
「アリナちゃーん! 待ってるよー!」
デカは純粋な気持ちで声援を送るが、その声にプレッシャーを感じたのか、アリナの小さな指先は引っ込んでしまった。
「コラ、デカ! プレッシャーを与えるな!」
デカの背中をバシンと叩く。
「ひゃあ!」
ふう、スッキリした。さっきの仕返しに丁度良かったわ。
「アリナ出て来て」
京美が呼ぶと、アリナはヒョコっとカーテンから顔をだした。
そして、足先からゆっくりと出て来た。
「「おおおー!」」
京美を含めてヤーシャ族達が低くどよめいた。
皆の反応に恥ずかしそうに頬を染めるアリナ。
その赤らめた頬と同じローズピンクのドレス。
プリンセスラインの形でふわりと女の子らしい。
アリナのドレス姿はお姫様その物だった。
思わず、京美も心の中で『アリナちゃーん!』と声援をあげていた。
アイドルに熱を上げる人達の気持ちが分かるような気がした。
「さて! 次はようやく僕の番ですね!」
ティムは持ち前のナルシズムをかもしだして、意気揚々と試着室に入った。
手に持っている衣装、見るとやたらヒラヒラしていて気になる。
暫くすると試着室の中から
「ウワー!」とティムの悲鳴が聞こえた。




