開演寸前
蒼い月の生誕祭、とうとうその日がやってきた。
ミャラッカの城下街は普段でも人通りが多いが、王の生誕祭であればもっと賑やかになる、今日は人を避けて歩くのも難しい。
そしてあらゆる店の軒先には王の生誕を祝うフラッグが掲げてある。
京美達はサーカステントに集まって早めの準備。
手には毛皮の衣装を持っている。
流石にダイマルに破られたズボンのままだと格好つかないし、王様が来るのにフェイクのヒョウ柄では悪目立ちする。
とりあえず、ヤーシャ族達と同じ毛皮を縫って作られた衣装に着替えた京美。
「ねぇ、もしかして私に似合う?この服」
言いながら既にティムの頭をロックオンし確保済み。
「ちょ!! 京美さん自分でわかってるじゃないですか!?」
京美の腕の中でバタバタと藻掻くティム。
「なにか言われそうだから逃げる前に確保してるんだよ!」
「そうです言います、誰よりも”野性味”があって似合ってますよ!」
あーん!?ヘッドロックをしたまま頭頂部を拳でグリグリする。
「それよりさアリナはともかく、なんでティムまで可愛い服着てるのよ」
「イタタ…! 勿論、似合うからです」
「ムカつく」
今日の衣装はアリナとティムで用意したものだった。
二人は体にフィットしたオフホワイトのフリル付きの衣装を着ている。
最初、華やかな天族に対抗する為、全員にフリル付きの衣装を用意したのだがヤーシャ族達には着こなしは難しすぎた。
体にフィットした衣装では筋肉でパンパンに伸びてしまい、動き辛い。
そして何故か衣装のフリルが”毒キノコのヒダ”に見える。
おそらく、大きな体が大木を連想させるからだ。
なのでヤーシャ族は自分達の魅力であるワイルドさを全面に出した毛皮と自分達の筋肉をベースにした衣装、そして黒のレザーマスクを着用する事にした。
いやいや、可笑しくない?
京美だけが納得していない。
ヤーシャ族が毛皮と筋肉が似合うってのはわかるけどさ……
私”日本人女性”なんですけど?
正直、自分でもびっくりする位似合ってる。
認めたくないけど……。
「皆様、今日は楽しみにしていますよ! 王も既にお見えです」
フィリップがブレンダを連れて楽屋にやってきて激励してくれた。シルクハットは、より華やかに装飾されている。
「衣装がお似合いでとても素敵です」
フフフ…と手を口に当ててブレンダは微笑んだ。
細い手首にレースをあしらった白手袋
例の青い宝石の指輪は手袋の上からはめている。
「いやいや、うちらも気合い入ってるけど、お二人も今日は華やかだね」
「ワハハ! 年一回の大きな催しですので、ではまた後ほど」
二人は天族に発破を掛けに行ったようだ。
「京美、俺達は準備完了だ。」
いつも長く垂らしている前髪を後ろに引っ詰め、顔を出したシロウの男前度はかなりアップしている。
しかし”今”は狩猟に使うレザーマスクを着用している。
アカもデカも他のヤーシャ族も着替え終わった。
緊張の面持ちで始まるのを待っている。
「キョーミ、お化粧できた」
薄く化粧をしたアリナが京美の毛皮を引っ張り、出来栄えを見てほしそうにする。
化粧といっても元々肌のきめ細かいアリナにはファンデーションも必要ない、貝を砕いて作ったハイライトを鼻筋やおでこの高い所にのせただけ、リップの色は透明感のあるオールドローズ。
それだけで、パーフェクト美少女の完成である。
「アリナ凄い可愛いじゃない!」
アリナは京美の言葉に照れてモジモジしている。
「アリナちゃん! 流石だよ!」
デカはアリナを見てさっきまでの緊張が吹っ飛んだようだ。鼻息が荒い。
「私はーーーーーーー!?」
「は! も、もちろん京美姉貴は無敵です」
デカの鼻息が完全におさまり冷静さを取り戻した。
その横を準備を終えた天族達がジロジロとこちらを見ながら通り過ぎていく。
どうやら開演らしい。
アダムと目が合う。
「お前らのクソみたいなお遊戯楽しみにしてるぜ、何かあったらすぐ叩き出してやるからな」
「上等だよ。あんたこそ、このサーカスに居場所無くなるんじゃない?」
「なんだと? この女……!!」
「アダム、始まるわよ」
レナがアダムの肩に触れて舞台に誘導する。
既にフィリップが観客に向けて開演の挨拶をしている。
「本日は記念すべき王の生誕祭です! 今回は二つの公演をご用意致しました、是非是非お楽しみください!!!」
いよいよ二つの対照的なサーカスが開幕する。




