かぼちゃの馬車
「死の石? なんだか不気味な名前……」
その宝の名前に声のトーンが思わず下がる。
「”死”と聞くと良くない事と連想しがちですが、この石は触れたものを苦痛から和らげ安らかな眠りを与えると言われています。」
京美は何かに気づいたように声をあげた。
「眠り? もしかしてバンガ王の病って……」
ティムは深く頷く
「あり得ると思いませんか? 治癒草の復活、そして死の石の復活も……」
「石版にはなんて書いてあるの?」
手に持っている石版を見つめティムは項垂れた。
「すみません、解読にはもう少しかかりそうで…、でもその二つの宝の事が書かれているのは解ったんです」
顔を上げると屋敷の入り口では先ほどアリナ作成の看板をシロウとデカが設置しているのが見える。
近くで二人の作業を見ているアリナは後ろ手に手を組み、看板が斜めにならないようにキッチリ設置出来ているかと確認をしている。
その姿はまるで現場監督のようだ。
何となくその光景がおかしく感じて笑ってしまう。
ティムも同じ様に笑っている。
皆の様子を見ていると、道の先から白い馬に引かれた華やかな馬車がこちらに向かってくるのが見えた。
馬車は丸みを帯びた形、まるでかぼちゃの馬車のようだ。
モチーフはおそらく花の蕾なのだが形が丸過ぎてかぼちゃにしか見えない。
馬車は屋敷の前で止まると、紫の派手な燕尾服を着たシルクハットの男が颯爽と降り立った。
男は紳士的な振る舞いをして、馬車内にいる誰かの手を引いた。
手を引かれ降りてきたのは女性
ペールブルーのドレスを着ていてアップスタイルにした赤髪はおくれ毛が少し出ている。
”生まれつき”というよりは”努力して得た”品を感じる。
男はシルクハットを脱帽して入り口にいる三人に声を掛けた。
「私は放浪サーカス団、団長のフィリップと申します」
「妻のブレンダです」
「シロウ様はいらっしゃいますか?」
「シロウは俺だが?」
「お忙しい所、大変申し訳ありませんが、お話を聞いていただけないでしょうか?」
京美とティムも何事かと側による。
近くにより馬車を見るとその絢爛さに益々驚く。
白馬は馬ではなく角があるユニコーン。
車輪は大きく色は純白で宝石が散りばめられている。
シロウは屋敷の方を確認しフィリップに
「まだ片付いて居ないが、中で話を聞こうか?」と言った。
「いえいえ! 急に来た、私めが礼儀知らずでご迷惑をお掛けしているのです、この場で結構で御座います!」
「わかった……なんの依頼だ?」
「今度蒼き月の日にミャラッカ国王の生誕祭が執り行われます、そこで行われるサーカスに出演していただけないでしょうか?」
「サーカス?」
「はい、サーカスで御座います。生誕祭のお披露目は年々華やかさを増し、今年はどうしようかと頭を悩ませて居たのですが、皆様の屋台村でのご活躍を耳にし是非にとお願いしに参りました。」
フィリップの話を聞きみんな顔を見合わせる。
どうする?
京美は顎で屋敷の方を指し「ちょっと集合」と合図をする。
静かに頷く面々。
「フィリップさん、ちょっとお待ち下さい!」
ティムは満点の笑顔で伝える。
「はい! お待ちしております!」
屋敷の中に全員集まり話し合いが始まる。
「京美姉貴、サーカスって、俺何していいかわからないぞ」
「京美、俺はもしかしてまた歌う事になるのか?」
京美は二人を落ち着かせ
「でもさ、二人共、よく聞いて。生誕祭のサーカスに出演するって事はミャラッカの王に近づけるって事だよ」
「そうですよ! ミャラッカ王に近づける事ができたら、バンガ国に何らかのコンタクトが取れるようになるかもしれませんよ!」
『……』考え込む二人。
「頑張ろう」
アリナは二人の背中をポンっと叩き励ました。
シロウとデカは大きく頷いた。




