ポールとの約束
「ティム!」
入り口のドアノブに手を掛ける京美。
開こうとしたその瞬間、ゆっくりとドアが開き蜘蛛の巣だらけのティムが顔を出した。
「す、すみません、思ったよりも虫が一杯で……」
「びっくりさせないでティム」
京美はホッと胸を撫で下ろした。
屋敷の中に入り、手分けしてグレースを捜索する。
部屋は奇妙な物で溢れていた。
赤やら青やらひょっとこみたいに口を尖らせた仮面。
何処で集めたのか奇妙な形の鎧のレプリカ。
使用用途のわからない壺
どれも何処かが破損していて埃を被っていた。
「ねぇ、ティムこれって価値がある物?」
「うーん、正直、無価値な物ばかりです、他人から見たらガラクタですね」
「だよね、ポールも管理しきれないって言ってたし納得だわ」
ティムは唇を指先でなぞり話を続ける。
「ただ……デイビーズさんはこのガラクタを大切にされています」
周りを見渡し
「全てが見渡せる様に並べてあるし、色や形を考慮して配置にも気を配っているのがわかります、どんな物でも価値を決めるのは自分自身と言った所でしょうか」
京美は左手の指輪を見つめながら言う。
「価値は自分で決めるか、そんなもんかね?」
「あれ? でもこの石版……ちょっと気になります」
ティムは本の一番上の重しになっていた石版を手に取った。
「グレースさんが見つかったら、貰える様にポールに交渉してみようか」
「階段あったよ!」
アリナは興奮した様子で駆け寄ってきた。
「案内して」
ホールを抜け隣の部屋に行くと確かに階段はあった。
しかし周囲の鎧やら壺やら本棚やらが倒れ階段を塞いでいる。
「ちょっと、どいてろ」
デカとシロウは軽々と障害物をどかし通り道を作った。
「ここの上が外から見えてた窓の部屋だね」
階段は雨漏りの為か所々朽ち落ちていて、今にも崩れ落ちそうだ。
「これは、体重があると危ないかもね、一人で行ってくるよ」
とりあえず京美が一人で見に行く事になった。
階段下にはデカとシロウが落下に備え待機している。
ティムとアリナは心配そう見上げている。
京美は一段づつゆっくり歩く。
階段は登る度にギイギイとなった。
無事に登り切り二階の部屋に辿り着いた。
部屋の棚には沢山の人形が並べられている。
寒気を感じあたりを見回す
何処かから風が吹き抜けているようだ。
風を感じる窓の側に近寄ってみる
そこは庭木の枝が伸び天井近くの壁を突き破っていた。
葉は長く垂れ下がり風が吹く度にザワザワと揺れている。
「これが髪の長い女の人に見えていた……?」
何となく視線を感じ、棚の方を見てみる
そしてある事に気がついた。
「あの人形、似てる…」
側により手に取ってみる
人形はピッチリと整えられた髪型、クルンとした口髭、そして銀色のベストを着ている。
「ポール?」
人形を見つめ立ち尽くす京美。
「京美姉貴!」
急に階下のデカに呼ばれ驚く京美。
「な、何? どうかしたの?」
「羽飾りってこれじゃないかな?」
デカが持っている羽飾りはとても小さい物だった。
「それっぽいね どこにあったの?」
「アリナの持ってる人形にくっついてたぞ」
側にいるアリナは黒髪の人形を大事そうに抱いている。
「階段を塞いでいた壺の中に一緒に入っていたんだ。 京美、上には何かあったか?」
「何も無いよ、でもちょっと気になる事が……」
カチャン……
京美が言い終わる前に手に持っていた人形から何かが落ちた。
落ちた物は銅色の鍵だった。




