暗がり
京美は腕組をする。
「さぁて、チームの名前も決まったし、最初に何をしようかね?」
シロウは後ろの方で立ち上がって「その名前で確定なのか?」と狼狽えている。
アリナがサッと手を上げ「私も手伝う」と言った。
ティムもその後に続き
「僕も考古学のお仕事が無い時は出来る限り協力します!」
ヤーシャ族達は二人の両手をがっしりと掴み握手
二人の腕が取れるんじゃないか?って位に振っている。
『俺達が怖いはずなのに……ありがとう!!』
「アリナやティムが協力してくれるのは大きいよ! 既に村の人達の信用が出来あがってる!」
京美は喜んだ。
───皆で屋台村に行き、お手伝いを募る。
『なんでもやります!お気軽に!!』
『草抜きもお料理もするよー!』
ヤーシャ族は皆で村を訪れたので
肉屋の復讐で村を焼き討ちに来たと思われた。
そのせいで村人は一斉に逃げ出し
建物の影やドアの隙間からコチラをうかがっている。
『なんでも手伝うって、何か裏があるんだろ……?』
『後で高額な請求とかされそう……』
『肉屋の屋台は迷惑だった……』
ヒソヒソと聞こえる、村人達の正直な声。
自分達のイメージの悪さに明らかにしょんぼりしているヤーシャ族達。
「ほらほら! 予想通りの反応でしょ? 落ち込まない!」
パンとデカの背中を叩く京美。
アリナがサッと前にでてデカの背中に覆いかぶさった。
「足をくじきました、歩けないので背負って私を家まで運んでください」
みんな、呆気にとられ反応が遅れたが
デカはハッとして
「おまかせください! お嬢さん!」と返事をした。
そしてアリナをおぶったままダッシュで村を駆け抜けた。
『あれは?アリナちゃんじゃなかった!? ヤーシャ族が怖くないの?』
村人達が騒ぎ出す。
ティムは鼻の下を擦りながら言う。
「あー、僕、今とても歌を聞きたい気分なんですが歌ってくれませんか?そこのアナタ。」
シロウばギョッとして
「お、俺?」
「そうです! そこのアナタにお願いしています!」
京美は良いお願いが来たじゃんと携帯のスピーカーをオンにして最大音量でIZAWAのバラードを流す。
昨日、皆に教え込んだ歌だ。
シロウはキョドキョドしていたがイントロが流れると覚悟を決めしっかりと歌いあげる。
『わぁ……! 何あの歌、聞いたことないよあんな曲!』
『歌ってる人、ハンサムだねぇ』
隠れて見ていた村人達は徐々に集まり始めた。
シロウだけでなくヤーシャ族達も一緒に歌い出す。
『何だか楽しそう!』
『賑やかだねー!』
よし! 人が集まってきた!
究極の奥の手!
「ダイマルー! こちらにおいで!」
「ガァーー!」
ドドドと走り寄り、ちょこんと京美の横にお座りする。
村人達は急な来襲に動けない。
『……え?この動物ってもしかして、フタツ面の……?』
村人達の感情が恐怖に変わる前に!
「ダイマルーゴロンゴロン!」
ガァと返事をして仰向けになるダイマル
そしてその上にナポレオンのようなポーズで跨がる京美。
『オオオオオオォーーー!!』
村人達の歓声があがった!
京美は高らかに宣言する。
「ヤーシャ族は困っている人達の味方です! この体を使って皆さんを守ります! なんでもお願いしてください!」
『………』
村人達は周りをキョロキョロと伺いどうしようと悩んでいる。
あと一歩。
─しばらくして小さな男の子がトコトコと近寄ってきて言った。
「僕もおんぶしてほしい……」
アカは笑いながらかがみ
「ぼうや、乗りな」と言っておんぶしてその場でグルグル回った。男の子はキャッキャッと声をあげて笑っている。
それを皮切りにワッと村人達が集まってきた。
『家の屋根を修理してほしい!』
『留守番をお願いしたい!』
『ハンサムさん握手してください!』
─その日はとても忙しくなった。
みんなヘトヘトになったが、心地よい疲れ
森のアジトで火を囲み食事をする。
「アリナちゃんのおかげだよ!」
デカはいつの間にかアリナを”ちゃん”付けしている。
「あー? 私は!?」
「あ……いや、京美姉貴のおかげです!! しかし御頭の歌う姿、俺も見たかったなー」
シロウは少し赤くなって
「いいんだよ! 見なくて…」とボソボソ言っている。
その様子でみんなはドッと笑った。
「さぁ、今日はもう休もう明日に備えてさ」
ヤーシャ族達は毛皮を敷き就寝の準備を始めた。
京美も寝床を作り始めた、その時。
森の暗がりから、か細い男の声が聞こえた。
「あの……すみません……」
声に驚き暗がりに目をやるが姿はよく見えない。
「………すみません、何でもお願いを叶えて頂けると聞きこちらに伺ったのですが……」
暗がりからヌゥっと男が姿を現した。




