気づき
「キョウミ、持ってきたよ」
アリナの両腕一杯に衣類が山盛りで、アリナの顔も隠れてしまっている。言い付け通りにフィリップ家のクローゼットから持ち出してきたのだろう。
「ありがとうアリナ。とりあえず高級そうな衣類以外の物をこっちに渡してちょうだい」
根っから貧乏性(良く言えば節約家)な京美は無意識にリスクを回避した。
「あ、僕が取りますね」
ティムはアリナが抱えている服の山をゴソゴソと弄り出す。
そうすると衣類の山は形を崩してハンカチなどの小さな布は床に落ちたが、上級丸出しのキラキラしたドレス類はアリナの両手に収まったままで無事で京美はホッと息をついた。
京美はティムが取り出してくれた使い古した黒色のズボンを受け取って両手にぐるぐると巻きつけた。
先程と同じ簡易手袋の完成だ。
「どれどれ……捜査を開始しますかね…」
「キョウミ頑張ってね」
アリナ達はそう言って京美から少し離れた。
まず、フィリップから調べる事にした京美。
保護されず露出されている部分の一つ……顔を覗き込んでみる。
時間が経ったせいか先程より紅茶が乾き始めていて、フィリップの顔からは滴は落ちなくなっている。
口元を見てみる。
死の石の粉らしきものは見当たらない。もしかしたら紅茶で洗い流されてしまったのだろうか?
「無いね……」
「京美さん! 髭の中もよく見てください」
「あー。そうだね口髭に残っているかもね……」
しかし、よく見てもたっぷりたくわえられた口髭の中にも粉らしき物は見当たらなかった。
次にフィリップの手のひらを見てみる事にした。
左手を開きじっくりと顔を近づけて観察してみる。
「うーーーん? 特には……無いなぁ」
「京美さん、先程言っていた謎の男の事をもっと知りたいのですが」
「えー、私捜査中なんだけど……」
「あ、手は動かしたままで結構ですので」
「結構ですのでって…言われてもさ……そんな器用なこと出来るかな?」
京美はぶつくさ言いながら今度はフィリップの右手を開いてみた。見た感じ左手同様に死の石の痕跡は無いように見える。
「ブレンダさんが見たんだって……その男が赤い粉を取り出している所をね」
「見た?」
「うん、そう言っていたよ」
「……」
ティムは無言のまま静かに目を閉じ自分の唇をタップし始めた。




