アダムとフィリップに約束
京美とブレンダは各々の目的地に向かうことにした。ベッドから降りた際、ブレンダはよろけ京美の腕に縋り付いた。
「キャッ!」
「あぁ……大丈夫!? ブレンダさん」
いきなり腕を掴まれた事に驚いた京美はブレンダの顔をまじまじと見る。赤色の髪は改めて見てみるとかなりインパクトがある。それに髪を下ろしたブレンダを見るのは今日が初めてという事もあり京美は無遠慮にじっくりと見てしまった。
「ごめんなさい京美さん。よろけてしまって」
そう言ってブレンダは耳に髪をかけた。
「あれ……?」
「ねえ京美さん、主人の身体を起こしたいのだけど……」
「えっ? あぁ……そうだね」
ブレンダの言うとおりだ。
紅茶に顔面が浸かりっぱなしなんてフィリップが余りにも不憫だ。
ベッドのシーツを両手にグルグルと巻き付け京美はフィリップの上半身を「ヨイショ」と起こしてみた。
恐怖はかなり薄らいでいた。今のこの状況が【死の石】による物だと判明したからだ。
紅茶でビショビショに濡れたフィリップの顔を見た京美は「なるほどな……」と思った。
死に顔にしては穏やかすぎる。間違いなく【死の石】によるものだろう。
背中側に倒れているアダムの顔を改めて覗き込んでみると顔色こそは悪いが、こちらも寝顔の様な穏やかさだ。
二人の穏やかな顔に京美は少しだけ安心したが同時に暗い気持ちにもなった。
(死の石の力ってのは判明したけど……治癒草はこの前の火事で全て焼けてしまったんだよ……どうやったら二人を助けられるの?)
「京美さん、何をしているの? 急ぎましょう」
「うん、そうだね行こう!」
ブレンダを追いかけるように京美は立ち上がった。
テントの入り口に手を掛けた京美は振り返る。
そしてアダムとフィリップの顔を目を細めながら見つめ呟いた。
「必ず助けるから……待ってて」




