天族達と胸騒ぎ
──これは村田をからかった天罰か!?
京美のグラついていた差し歯は砕いた飴と共にポロリと取れた。
しかも! 国を挙げての大きなお祭りの日!
よりによってこんな晴れの舞台の日に!
「ちょ! ちょっと、どうしたらいいのよ村田ちゃん!」
「し、知らないですよ〜……」
「くぅっ……仕方が無い! 確かポケットに……」
京美はポケットの中に手を突っ込んでゴソゴソ探り何かを取り出した。
それは常にクシャクシャ入れっぱなし、シロウからのプレゼントの狩り用のレザーマスク。
自己管理は結局出来ていないズボラな性格な京美、しかし今回はそのズボラな性格が功を奏した。
「こんな事もあろうかと入れっぱなしで助かった」
スチャッと手慣れた様子で着用する京美。
「それは黒のレザーマスク!? 武田さん……凄く似合いますね。で、今日差し歯が取れるってわかってたんですか?」
「う、うん! そうそう! そろそろ取れそうかなー?ってさ」
「……ふぅーん?」
「で、村田ちゃんさ。何か伝達があって屋台に来たんじゃないの?」
「あ!! そうだった……武田さん大変ですよ!」
村田は京美の両肩を掴みガクガクと揺らした。
「ゆ、ゆら、さ、ないで、でで! 何? 何よ!?」
「大変なんです! もうすぐ公演が始まるじゃないですか!?」
「うん、それはわかってるよ」
「それで、天族の方達が集まってなんだか騒いでて『どうしたんですか?』って私、聞いたんです」
「あ〜わかった……アダムが遅刻してる事でしょ? あいつが居てもいなくてもどっちでもいいじゃん。そんな騒ぐ事じゃないよ」
「そんなどうでもいい事じゃ無いんです!違うんです! とにかく聞いてください武田さん!」
鬼気迫る村田の表情、そしてまたしても京美の肩を揺さぶり始めた。
「ああ、は、はい…、き聞き まま、す よ 酔っちゃう う!」
ピタリと揺さぶりが収まったかと思ったら、村田が深刻な顔をして一言。
「なんか、フィリップさんが見当たらないらしいです……」
「えっ?」
「だから……もう少しで公演だっていうのに……フィリップさんが来てないって天族の皆さんが騒いでいるんです」
「えっ? なんで来てないのよ?」
「私に聞かれても……知りませんよ……」
──おかしい。
アダムが警備に遅刻する事は容易に想像できる。
しかし、団長のフィリップが会場姿を現さないのは何かがおかしい。かなりの違和感がある。
「……村田ちゃん」
「はい?」
「私……天族達の所に行くから、プミたま焼きお願いしていい?」
「えっ、良いんですか!? ヤッター!! アリナちゃんと一緒だ〜!」
「うん……よろしくね」
浮かれる村田を背にして、天族達の所へ向かう京美は胸騒ぎを感じていた。




