屋台テント合戦⑥
「さあっ〜出来上がりだよ! プミたま焼きを食べてみたいお客さんはここに真っ直ぐ並んだ並んだ!」
パンパンと掌を打ち、呼び込みを行う京美。
プミたま焼き屋台を囲む人達は大勢いたが、購入にまでは至らない様で恐る恐る遠巻きに見ているばかりだった。
『香りも形もとても良いけど、あれは本当に美味しいのかな?』
『金を出して買うんだ……不味ければ捨てれば良いってもんじゃないよな。何より食べ物は遊びに使うもんじゃあ無いし』
(あちゃ〜……そんな簡単に”人気店”にはなれないか)
京美達の屋台の集客の多さに驚き、悪態を付くのをやめ意気消沈していた性悪コック達。
集まったお客さん達がプミたま焼き購入を躊躇ってるのを見るやいなや、それは水を得た魚。
またもや陰口砲を連射しだした。
残念な事だが、人の足を引っ張る人間というのは身近に居て、そして案外多いのである……。
「ミャラッカ国バンガの国の皆様はお目が高い! その判断は正しいですよ!」
「そうだそうだ! 我々が作りあげた伝統ある料理をどうぞお召し上がりください!」
京美達の屋台前に居た人集りは終にモーゼの様に左右の屋台に足を向け割れ始めてしまう。
ニヤニヤニマニマとその様子を見て嘲笑うコック達。
そんな醜悪な笑みさえ浮かべなければ割とコイツら男前なのに勿体ない……。
京美はそんな風に思った。
──その時だった。
京美の目の前をふんわりと巻き髪が通ったかと思ったら、同時にアリナが叫ぶ声がした。
「何方かプミたま焼きを味見をしてみませんかー!?」
アリナは舟形の紙皿に乗ったプミたま焼きを両手で包み込んで持ち、屋台の裏側から小走りで飛び出して来たのだ。
そして、そのまま人集りの方へ歩みを進めると、屋台の一番近くに立っていた天然パーマが印象的なふくよかな中年女性に差し出した。
「えぇっ……何だってお嬢ちゃん?」
「ご試食どうぞ!」
「私にこれを食べろっての?」
心底嫌そうに言う中年女性。
「はい! 出来たてですよ!」
『ドッ!! ワハハ!!』
アリナと中年女性のやり取りに笑いが起こった。
『ほらほら食べてやれよー!』
『一気に一口でいけー! 楽勝だろー?』
「何だい!何だい! あんた達は食べないからって好き勝手言ってさー! あたしだって好みがあんのさっ! こんなお腹でもね」
パシンと自分の腹部を叩く中年女性。
その反応を見て辺りからはまたもや笑いが起こる。
『ワハハ!』
中年女性は気が強く愛嬌のある人物の様だ。
周りにからかわれても悲しんだり怒ったりする様子は見せず、寧ろこの現状を楽しんでいる。
アリナはそんな周りの反応には一切動じず、一個のプミたま焼きに串を指し、女性の口元まで強引に運んだ。
「ちょっとちょっと! お嬢ちゃん……。あたしは自分で食べれるよ。串を貸してごらん」
中年女性はアリナから串を受け取るとプミたま焼きを一口で自分の口に放り込んだ。